37話 副団長との対決
「立派な杖ね」
ソフィーとミリアはまだ話をしていた。
「お母さんの…… 形見なんです……」
ツンツン少女が新米のミリアには、不相応な武器を褒めると彼女は少し悲しそうな顔で答えたので、ソフィーは慌ててミリアに謝る。
「ごめんなさい、嫌なこと思い出させちゃって! 私知らなかったとは言え、余計なこと聞いちゃったわね……」
「大丈夫……です、それに、今は…… 優しい叔母さんが…… いるので…… 」
ミリアは首をブンブンと横に振るとそう小さな声で答えた。
「そう……。でもアナタも立派な冒険者を目指しているなら、スグに泣きそうになっていては駄目よ? 冒険者というのはいついかなる時でも平常心が大事なんだから!」
ついにはソフィーによるミリアへの説教? アドバイス? が始まる。
その様子を見ていた紫音は、後ろから声を掛けられた。
「アナタがシオン・テンカワさんかしら?」
その声で紫音が後ろを振り向くと、金髪碧眼のクールな印象を受けるスタイルのいい、少し丈の長いコートを着た女性が立っており、腰にはレイピア、そして手には硬そうな木で造られたレイピアと木刀を持っている。
「はい」
紫音がそう答えると、女性は自己紹介を始めた。
「私はクリスティーナ・スウィンフォード(クリス)、クラン“月影”で副団長をしているものよ。ソフィーから聞いたと思うけど、我がクランの名誉のため、今から私と戦ってもらいたいのだけどいいかしら?」
そう言いながら、クリスは紫音に木刀を差し出す。
「わかりました」
紫音は木刀を受け取った。
(この人… 多分かなり強い。勝っても負けてもいい経験になると思う)
紫音はそう思い勝負を受けることにする。
普段はヘタレなのに、こういうところは武術家的な心理が働くのは、自分でも不思議に思う。
「クラン“月影”、クリスティーナ・スウィンフォード参る!」
武器を構えたクリスは名乗りを上げた。
「シオン・アマカワです、行きます!」
紫音も釣られて本名で名乗りを上げてしまう。
その名乗りを聞いたクリスは、当然不思議そうな顔で尋ねてくる。
「アナタの名字は、テンカワではないのかしら?」
「それは偽名で、本当の名字はアマカワです」
「なるほど、確かにこの世界ではその名字は色々面倒ね」
お互い構えながらそう受け答えした。
半身でフェンシングの構えをするクリスの左手は、コートで隠れて紫音からは見えない。
(左手が見えない。手ぶらなのか何か武器を持っているのか…… 武器を隠しているなら、間合いを図らせないため?)
紫音がそう考えていると、クリスの方から仕掛けてきた。
その鋭く速い突きに紫音は驚いたが、今の紫音の動体視力でも防ぎきれる。
「速い! でも、防ぎきれない速さじゃない!」
五回連続で突きを受けたが、何とか木刀で防ぎきる。
クリスは五回目の突きの後、左手に持っていた小型の魔法用ワンドを取り出す。
気付いた時には紫音の足元に魔法陣が現れていた。
「ヘビィ!」
クリスがそう唱えると魔法陣が輝き紫音の足に、黒いモヤのようなものが掛かりそうになったが、紫音は何とか反応して後ろに跳躍して逃げ出す。
だが、少し間に合わず足に黒いモヤが薄っすらと掛かっている。
「何か足が少し重い……」
紫音が初めて受ける魔法の効果に驚いていると
「シオンさん! それはヘビィの魔法で対象の移動を遅くする魔法ッス!」
リズが紫音に向かって、大声でその効果を伝えた。
(あのタイミングでも、逃げ出せるとは……。だが効果が薄いとは言え、スピードはかなり遅くなっているはず)
クリスは紫音がソフィーと同じくらいスピードがあると聞いて、まずそのスピードを封じることを考えて、次のような作戦を考えていた。
コートで左腕を隠して魔法詠唱を悟られないようにして、五連続突きで紫音の注意を引き、不意を突いてヘビィの魔法を放ち紫音のスピードを封じる、それがクリスの作戦であった。
「でも、魔法ってもっと詠唱に時間が掛かるのでは?」
「あれこそが、お姉様の特殊スキル高速詠唱(ファストキャスト)よ!」
エレナが疑問を口にすると、ソフィーが自慢げに語る。
(身内のスキルを簡単に教えるんスね……)
リズが冷静にそう思っていた頃、クリスも(あの子……! 後でお仕置きね!)と冷静な顔の下で、自分のスキルを不用意に話したソフィーへのお仕置きを考えていた。
(ファストキャスト……、厄介なスキルね。というか、魔法と剣技が使えるって有りなんだ……)
紫音はそう思いながら、クリスから一旦距離を取るとそのまま動き出す。
「ファストキャストとは言え、詠唱時間はそれなりに必要なはず。なら、こっちから攻めて詠唱に専念できないようにする!」
いつも通り突進しようとすると足が重くて、紫音はいつもどおりのスピードが出ないことに気付く。
スピードが落ちているせいで、クリスはそれに合わせて突きを繰り出すことができたが、紫音はその突きを右に払うとそのまま篭手に打ち込むが有効打にならなかった。
払ったはずのレイピアに右肩を突かれ、打撃に力が入らなかったからだ。
「くっ! もうちょっと強く払わないと駄目か」
紫音は再び距離を取る。
(危なかった… もう少しでレイピアを落とすところだったわ。有効打ではなかったとは言え、右手が少し痺れている。思っていた以上に強い! だが、ここからが私の戦い方よ!)
紫音が、再びクリスとの距離を詰めようとすると、足元に魔法陣が現れたと思った瞬間に炎が吹き出す。
「!?」
紫音はその優れた動体視力で魔法陣にいち早く気付くと、体勢を崩しながら何とか回避し体全体へのダメージを防ぐ。
体勢を崩して地面に転がった所を、クリスが突きで追撃してくるが地面を回転しながら何とか連続突きを躱すと紫音は隙を見て、クリスの足に木刀で横払いを繰り出す。
だが、彼女は冷静にバックステップして回避する。
紫音は全身砂まみれになってしまって、少し凹んでしまったが、今はそんな事は言っていられない。
「今の魔法は?」
エレナがミリアに尋ねると小さな声で彼女は答える。
「ファイアー・トラップの…… 魔法です」
「予め地面にセットしておくことで、対象が上に乗った時に自動発動する魔法よ! 但し敵味方識別なんて無いから使う時には気をつけなさい!」
ミリアの説明にソフィーが補足を入れた。
注意点の説明を付け加えるあたり、本当に良い子である。
(あの子はまたベラベラと……)
だが、注意点を伝えるのは先輩冒険者としては良いことなので、この事は不問にすることにしたクリスであった。
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