336話 格闘家対決 その1


 前回のあらすじ



 スレイプニルの“トライアングルなんとかー”によって、敗れ去ってしまったノエミであった…


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「マオちゃん… ひとつ聞かせて欲しい… なぜ、たくさんの冒険者から… 私を選んだの?」


「それは、お前の<忍耐力>だ。”元気が取り柄のお気楽能天気娘”と”ツッコミ大好きツンデレ娘”に挟まれても、文句も言わずに黙々と任務をこなすその<忍耐力>を他の者に見せたかった」


「マオちゃん、遠回しに私のことをディスってるわよね!?」


 ソフィーの空気を読まないツッコミを無視して、台本を進める三人。


「そう… でも、あんな… 無様な戦いぶりが… はたして… みんなの役にたった… か… な… ガクッ」


「ノエミーーー!!!」


 ソフィー以外の3人は涙する。


「3人? 私とアフラとマオちゃん… あと1人は… って、アンタ誰よ!?」


 いつの間にかフードマントを被った4人目が、しれっと加わっていた。


「アナタ、誰よ!」



 ソフィーはその謎のフードマントに正体を尋ねると、彼女はマントを脱いで正体を披露する。顕になったその顔は何とニコニコのアフラの顔であった。


「アフラがもうひとり!? ……じゃない!? アンタ誰よ!?」


 ソフィーの突っ込みに、謎の人物は自己紹介を始める。


「私は冒険者血盟軍第5のメンバー”三面ガール”ッス!」

「いや、語尾からしてジト目よね!? そもそも三面ガールって何よ!?」


 三面ガールはその名前の通り、3つの“笑い”“冷静”“怒り”の顔を持った冒険者であり、決してリズのコスプレではないのだ。


「アーッハッハッハ! よくぞ聞いてくれたッス! 私は3つの顔を持ち、状況で使い別けるッス! まずは、これがサンメン“ニコニコ”ッス!」


 そう言って、ニコニコアフラのお面― もとい顔を見せる三面ガール。


「次はサンメン”無口”ッス! 冷静に相手の弱点を見極めるッス!」


 三面ガールは手動で頭を回転させると、正面にノエミのジト目顔が現れた。

 本家と違って自動で回転しないらしい。


「このジト目だとアンタの素顔でもいいじゃない!」


 リズ― 三面ガールはソフィーのツッコミを無視して、頭を回して最後の顔を紹介する。


「最後は、サンメン”怒り”ッス! ”ツンデレ”とも言うッス! むしろ”ツンツン”ッス! ツッコミたい時に使うッス!」


 最後の顔はツンツン顔のソフィーであった。


「何よ! 私が怒り顔だって言いたいの!? ツンツンだって言いたいの!? しかも、突っ込みたい時って何よ!?」


「今の自分の顔を鏡で見てみるッス。このお面と同じツンツン顔がそこに映っているッス」


 ソフィーのツッコミに、三面ガールは本家と同じくらい的確なツッコミを返す。


 次回、三面ガール対スレイプニル



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 入念なストレッチを終えたアフラとエマは、お互い間合いをはかりながら水平移動を行う。

 その光景を見たアキは、迫る戦いに焦り始める。


「まずいよ……、もう戦う寸前だよ…。でも、猫が鳴かない限りあの戦いの再現にはならないはず…」


「戦場に猫なんているわけ……」


 アキの言葉にソフィーが続く。戦場に猫がいるわけがないと言いかけたその時だった。

 二人は猫の存在を思い出す。正確には<猫のような生き物>だ。


「ケットさん!!」


 声を揃えた二人はそのままミリアの肩を見ると、ケットさんはアンネとままごとをして遊ぶ彼女の肩から降りて、アフラ達の方を見ている。


「ケットさん! 鳴かないでーー!!」


 二人はケットさんに叫ぶが、その叫びは虚しく戦場にこだまするが、タッチの差でケットさんは「ナ―」と鳴いてしまう。


 戦場なので、その鳴き声は当然アフラ達には聞こえなかったが、まるで合図のように二人は戦闘を開始する。


 先に攻撃を仕掛けたのはエマで、彼女は右足で蹴りを三回繰り出すが、アフラはミトゥトレットを装着した右手で捌くと、今度は自分が右足で蹴りを放つ。


 エマもその蹴りを手で裁くと蹴りで追撃するが、アフラは右手で捌く。

 二人は蹴りを数発放っては、手で捌くという事をお互い数回繰り返し互角の勝負を繰り広げる。


 だが、次の瞬間その均衡は崩れ去った。

 エマは横蹴りを2回放った後に、迂闊にも回し蹴りを繰り出したからだ。


 回し蹴りは、威力はあるが隙が出来てしまう技で当然アフラがその隙を逃すはずがなく、頭を目掛けて迫ってくる蹴りをアフラは上半身を後ろに反らして回避すると、


「やあっ!!」


 強力な横蹴りを放ってエマの胸に命中させる。


 その衝撃でエマは後方に吹き飛ばされて体勢を崩すが、アフラは追い討ちをかけなかった。

 魔物が相手なら、容赦なく追撃して大ダメージを与えるところだが、相手が人間かもしれないと考えたアフラはそれを躊躇してしまう。


「もう、アフラったら何をやっているのよ! せっかくのチャンスだったのに! でも、今の感じなら、ノ○スさんみたいにはならないんじゃない?」


 二人の戦いを見ていたソフィーがそう分析するが、アキの表情には不安が浮かんでいる。


「ソフィーちゃん、違うんだよ……。ここからなんだよ……」

「どういうこと?」


 アキの呟きにソフィーが聞き返すと、彼女は答える代わりに二人の動きに注目するように促す。


 エマは構え直すと先程までとは違い、踵をあげて軽快なステップを踏み始める。

 本来のサタナエル(エマ)の格闘スタイルは、速さを活かした動の格闘スタイルで、先程までの彼女が行っていたのはその真逆の静の格闘スタイルであった。


 アフラはエマの動きが変わった事を確認すると、警戒しながら間合いを詰める。

 相手の戦闘スタイルが変わろうが、アフラには関係がなかった。

 何故ならば、彼女に相手の戦闘スタイルにあわせて自分のスタイルを変えるという器用な真似は出来ないし、そんなスキルもないからだ。


 エマは細かく前後左右にステップを踏み、アフラを中心に反時計回りに移動しながら隙を窺う。


「見ていても仕方がない! 攻める!!」


 アフラは一瞬で間合いを詰めて横蹴りを放つが、エマは軽快なバックステップで回避し再び同じ距離感を保つ。


「やあ! はあ!」


 アフラはその後も攻撃を続けるが、エマは全て回避する。

 一定のリズムでステップを踏むエマはついに行動に出た。


 それはアフラの横蹴りを回避した直後のことで、エマは左斜め前に進みながらアフラに接近すると、その勢いのまま右拳でアフラの顔を狙うが、アフラはその攻撃を左手で捌いて防ぐ。


 そして、反撃しようと右腕を振ろうとした時、エマの右足による高速の蹴りがアフラの左脇腹に繰り出される。アフラはそれを左腕でガードするが、エマはその右足をそこから地面に戻さずに、そのままアフラの頭部に蹴りを繰り出す。


「にゃあ!?」


 その蹴りはそのままアフラの頭部を直撃したが、ダメージがあまりなかったようで今度は自分の番だと言わんばかりに、右足での回し蹴りをエマの胸元に向けて放つ。


 だが、エマはそれを回避するとまた素早い連続蹴りを放ち、アフラは防御が間に合わずに数発受けてしまう。


「アフラ……」


 ソフィーはアフラの劣勢を見てそう呟くと唇を噛みしめる。

 彼女はアフラの負けるとは思っていない… いや、そう願っているが、劣勢に立たされていることは理解していた。


 それはエマとアフラの戦いが、以前の自分とアフラの戦いと同じ”スピード”対”パワー”という内容であったからだ。


(あの時は、アフラが後先考えずにハイパーオーラナックルを地面に放って、その爆風で私を吹き飛ばして窮地を脱したけど、今の状況ではそれは難しいわ…)


 ソフィーにはアフラの勝利を… 無事を祈るしか無かった。

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