335話 ジト目少女の作戦
前回のあらすじ
冷静で的確な判断力によって、暴漢から見事に子供を救ったマオちゃんに感銘を受けた三人は、彼女の誘いに乗って<冒険者血盟軍>を結成するのであった。
「何よ! <冒険者血盟軍>って!? 初耳なんだけど!?」
貪欲なソフィーは、前回のあらすじにまでツッコミを入れる。
そして、マオをリーダーとした<冒険者血盟軍>は、<冒険王争奪戦>に参戦することになる。
「ちょっと!! また聞いたことなのない言葉が出てきたんだけど!? <冒険王争奪戦>っていうのは何なのよ!?」
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冒険者血盟軍 VS スーパーぬいぐるみチーム
先鋒のノエミ対スレイプニルの戦いが行われており、両者一歩も引かない戦いとなっていた。
「えい…! えい…!」
「ひひ~ん!」
だが、8本脚のスレイプニルに苦戦するノエミ。
「何で足の多さが理由で苦戦しているのよ!? というか、大きな可愛いぬいぐるみとリング上で戯れている風にしか見えないんだけど!?」
ソフィーのツッコミどおり、リングの上で取っ組み合う1人と1頭の姿は戯れているようにしか見えず、ほのぼのとさえしている。
それはそうである。茶番で殺伐な戦いなど求められていないからだ。
「ソフィーちゃん! 余計なツッコミしていないで、椅子の並びをXの字にして!」
ソフィーはあのアフラに軽く窘められると、促されるままにマオともう1人フードを被った謎の人物と共に、座っていた椅子をX字型に並べ直すと自分の席に座る。
(あっ あれは… Xの陣形… 意味は”とにかく頑張れ!”だね… )
仲間達の無言の応援に闘志を燃え上がらせるのえみ。
「いや、応援内容がざっくり過ぎない!?」
そんなソフィーを無視して、ノエミは再びスレイプニルに向かっていく。
「ひひ~ん!」
「えい…! えい…!」
「ひひ~ん!」
「えい…! えい…!」
リング中央で、ノエミはチョップしスレイプニルは頭でノエミを押す。
しかし、両者ともダメージはほぼない。
「それはそうよ! じゃれてるいだけだもの!」
ソフィーのツッコミが入ったところで、次回へ続く。
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リズにカードゲームで挑まれたクロエは困惑する。
本音ではリズと平和裏にカードバトルしたいが、ケルベロスとしての使命からすると、その誘いに乗らずに、戦って打ち倒さなければならない。
クロエが悩んでいると、その隣でヘルことアンネにミリアが勝負を申し込む。
いや、勝負というより
「ヘルちゃんは…、私とおままごとしよう?」
戦いをやめて一緒に遊ぼうというお誘いであった。
「わ~い! ミリアお姉ちゃんとおままごとするの~」
そして、クロエと対照的にアンネは即答すると、嬉しそうにミリアに近寄っていく。
「アン― ヘル!? そっちに行ったらダメだって!」
「えぇ~ なんでなの~? ヘル遊びたいのぉ~」
クロエに引き止められたアンネは、頬を大きく膨らませる。
「ヘルちゃ~ん♪ ほら~ 可愛いウサギの家族の人形ッスよ~」
ミリアが肩から掛けている女神の大鞄から、人形遊び用の人形を取り出して、それをアンネに見せつけて誘いをかけるリズ。
「ウサギさん可愛いの~!」
アンネは誘惑に即落ちするとミリアの元に向かう。そして、二人と一緒にクロエから離れていく。
「ヘル~~~!!」
クロエは思わず叫んでしまうが、その叫びは虚しく響くだけであった。
三人は危険な戦場より少し離れた所にやってくると、ミリアが大鞄から出して地面に敷いたブルーシートの上に座る。
ミリアは更に大鞄から人形用の家を取り出すと、ヘルと人形遊びを始めた。
「ヘル~ 遊んじゃダメだって~」
追いかけてきたクロエに、リズは再びカードゲームの勝負を申し込む。
「さあ、ケルベロスちゃん! 私とカードゲームで遊― 勝負ッス!!」
(リズちゃん…… )
困ったクロエがリーベを見る。すると、その視線に気付いたリーベはクロエを見て、近くでアンネがミリアと人形遊びしているのを見て、直ぐに状況を察する。
(あの子達には、戦いよりもああやって遊んでいる方が似合っているのかもね……)
そう考えたリーベは、クロエに笑顔で頷く。それは、“アナタも好きにしなさい”という意味が込められていた。
その笑みを見たクロエは、心の重りが外れたような感覚を覚えると軽く息をつく。
そして、彼女は目の前にいるリズに笑みを浮かべると、こう答えたのである。
「よ-し! 勝負だ、リズちゃん!!」
クロエは腰の鞄からカードデッキを取り出すと、リズとの勝負を了承したのだった。
こうして、リズとのカードゲーム対決が始まった。
これこそが、リズが考えた作戦― <ケルベロスちゃんとヘルちゃんと遊んで、戦力を削ろう作戦>であり、この作戦の利点はなんと言っても敵の最大戦力のケルベロスとヘルを、リズとミリアという2名だけで拘束できる事で、これは人間側にとっては大きいメリットである。
しかも、嬉しい誤算として、ヘルの操っているぬいぐるみ達が、戦闘を放棄してご主人である彼女の元に集まり、人形遊びに夢中になる御主人様の警護を始めたことであった。
これは人間側にとって非常に有利な状況で、彼女のぬいぐるみ達はその可愛い見た目とは裏腹に強力な戦闘力を有しており、油断したとはいえレイチェルを戦闘不能にまで追い込むほどである。
そのぬいぐるみ達が戦場を離脱したことによって、人間側はその分オーガに戦力を割り当てる事ができるようになったのだ。
(二人の勇気のおかげだな…。彼女たちが危険を冒して作ってくれたこの好機、必ず活かさねばな!)
ユーウェインを筆頭に戦いに参加した者達は、二人の少女の勇気が作り出したチャンスに感謝し、それぞれの持ち場で奮戦する。
その頃― 入念なストレッチを終えたアフラとエマが、ゆっくりと間合いを詰め始めており、その様子をアキ達が固唾を呑んで見守っていた。
「いや、まだあの戦いが再現されるとは限らない…。何故なら、戦いの合図となる鳴き声をあげる【猫】がこの戦場にはいないからね…」
アキはそう呟くと緊張しながら戦いが始まるのを待つ。
「そうよ! 危険な戦場に、【猫】なんていないもの! きっと大丈夫よ…!」
そう言って、親友を心配しながら見守るソフィー。それはまるで自分にそう言い聞かせて安心するためのようであった。
ここは魔王領― しかも魔王城に近いために、本能で危険を察知したのか【猫】どころか動物はいない。なので、あの戦いが再現されることは無いはずだと、アキ達は胸をほっとなでおろす。
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