332話 激闘の前



 アキとリズは、野営地の指示を出すユーウェインに近づくと例の作戦を説明して、実行の許可を得ることにした。


「なるほど……、確かにその作戦が上手く行けば、三義姉妹のうち二人をたった二人で無力化出来るわけか。こちらとしては、とても有り難い展開だが…」


 ユーウェインは顎に手を当てながら思案すると、すぐに顔を上げて懸念を口にする。


「しかし、そう上手くいくだろうか? 失敗すれば、リズ君やミリア君が危険な目に遭ってしまう。少しでも危険要素があるなら、私としては作戦を許可するわけにはいかない」


 彼の判断は指揮官として、何より子供を守る大人として当然であった。


「ユーウェインさん、心配してくれる気持ちは嬉しいッスけど、私達は大丈夫ッス! それに、このままじゃあいつらに勝てないと思うッス……」


「……」


 リズは真剣な表情で訴えると、ユーウェインは腕を組んで考え込む。


「私は上手くいく可能性は高いと思います」

「その根拠は?」


 考えるユーウェインに、アキが判断材料として自分の意見を提示するが、彼からその理由を尋ねられる。


「今迄のケルベロスとヘラの行動を分析した結果、ケルベロスは漫画ネタに反応したり、ヘラはぬいぐるみを所持していたりと彼女達は年相応の行動を取っています。なので、今回の作戦に乗ってくる可能性は高いです」


「なるほど……」


 アキの言うことは尤もであるが、それでも危険であることには変わりなく、彼としては決断を欠いてしまう。


 そのためアキは、最後のひと押しをする。


「それに、万が一の時はマオちゃんが助けてくれると思います。そうだよね? マオちゃん」


 アキが声を掛けると、マオがステルスマントのフードを脱いで姿を現す。


「あまり我を頼られても困るのだがな…」


 マオは渋々といった感じであったが、リズが潤んだ瞳で見つめてくると、仕方なさげに口を開く。


「そんな捨てられた仔犬のような目で見るな…。わかった、今回だけ力を貸すことにしよう。ただし、あくまでリズとミリアが危なくなったらの話だ。それまでは、我はお前たちに手は貸さんからな」


「マオちゃん、ありがとうッス!」


 マオの言葉を聞いたリズは嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「アキ君…。その… 彼女は大丈夫なのかい? リズ君たちよりも、幼く見えるんだが…?」


 ユーウェインが困惑した様子で尋ねると、アキは苦笑いを浮かべた後に答えた。


「大丈夫ですよ。マオちゃんはああ見えて、200歳らしいので。所謂合法ロリです」

「合法ロリ?」


 ユーウェインは首を傾げると、アキは合法ロリの説明は省いて、彼女の強さを説明をおこなう。


「まあ、強さは保証します。マオちゃんの強さは、恐らく紫音ちゃんと同じくらいと思います」


「シオン君と同じ!? とても信じられないが……」

「何だったら、精神面を加味すればあの駄目ポニーよりも上です!」


 疑うユーウェインに、アキはダメ押しとばかり真顔でマオの強さを評する。


「それは言い過ぎだろう。流石にシオン君より強いとは……」

「ユーウェインさんなら、マオちゃんの佇まいでその強さがわかるんじゃないですか?」

「……」


 アキに言われてユーウェインは、幼女という先入観を捨てマオを見つめると、その立ち姿には隙が一切なく、まるで達人のような雰囲気を感じ取ることが出来た。


(確かに幼い外見をしているが、只者ではないようだ。この隙の無さはスギハラや騎士団長に匹敵する…。いや、それ以上のレベルかもしれない)


 達人は向き合っただけで、相手の強さが解るという。

 ユーウェインも今まで幾多の強者と戦ってきたため、それが事実だと理解していた。


 そして、目の前の幼女から感じられる威圧感が、彼の本能を刺激したのか、無意識のうちに剣の柄に手を掛けてしまう。


「……」

「どうしたんですか? ユーウェインさん」


 急に黙り込んだユーウェインを不思議に思ったアキが声をかける。


「すまない。彼女の隙の無さに驚いてしまっただけだ……」


 ユーウェインは誤魔化すと柄から手を離す。


「しかし、まさかこれほどの実力を持っているとは……。彼女になら、リズ君達を任せても安心だろう。よし、作戦を許可する。他のクランの責任者には私が話を通しておこう」


「ありがとうございます! ユーウェインさん」

「ありがとうッス!」


 アキとリズは礼を言うと、意気揚々と紫音達の元に帰っていき、マオも再び姿を消す。

 ユーウェインはその後ろ姿を眺めながら、不安げな表情を浮かべる。


「あのマオという幼女は一体何者なんだ? 人を見る目のあるアキ君が信用しているから、信頼できる相手のようだが…。だが、賽は投げられた。情けない話だが、あとは作戦の成功と彼女達の無事を祈るしか無い…」


 ユーウェインはそう呟きながらも、アキ達が無事に戻ってくることを祈るしかなかった。

 こうして、戦いの準備が整いデビルロード砦へ乗り込む前のユーウェインの激励が始まる。


「今日この場にいる、勇敢なる兵士と多勢の有志の冒険者諸君! 共に命をかけて戦うことに感謝する。オーガは四天王を3体残しオーガの王もいる。更にゴーレム使いの黒い仮面の女魔戦士と三義姉妹もいるため、戦いは今までより厳しいものになるだろう。だが、この戦いに勝利すれば、残すは魔王城だけとなる! それはこの世界の平和まであと一歩ということだ。その平和を皆で分かち合うためにも敢えて言うおう”死ぬな”と!」


 野営地の真ん中で、ユーウェインは集まった兵士達の前で演説をするとその言葉に集まった者達は、士気を上げ全員が武器を掲げて雄叫びをあげた。


「遂に始まるね…」

「そうね……」


 紫音とソフィーはお互いに顔を合わせてうなずくと、覚悟を決める。


「シオン様! 遂に戦いが始まりますね」


 アリシアが紫音を見つめてくる。どうやら、先程紫音とソフィーがした以心伝心的な事をしたいらしい。


「えっと…… そうだね……。それじゃあ、行こうか」

「はいッ!」


 紫音が笑顔で答えると、アリシアも笑顔で返事をして歩き出す。

 こうして、デビルロード砦の激戦が始まることになった。



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