322話  腐女子少女、大ピンチ!!




 <激闘! うさ追い祭り₍ᐢ。 ˬ 。ᐢ₎ その6>




 ㋞「それで、今日は何するのよ?」

 ㋐「今日は… というか、今夜なんだけど、夜釣りをしようかなと思っています」


 ㋛「私、お魚釣りとか苦手なんだけど…」


 紫音からは、つい最近まで女子高生だった言葉が返ってくる。


 ㋐「それが、何と釣るのはウサギなんだよ」

 ㋛「それって、どういう意味?」


 ㋐「ノエミンソンちゃんが言うには、この牧場にはうさぎ<イリノモテ野うさぎ>という夜行性のうさぎちゃんがいるらしいの」


 うさぎは完全な夜行性ではなく、薄明薄暮性という明け方と夕方に活動が活発になるのだが、<イリノモテ野うさぎ>は完全な夜行性というご都合うさぎであった。


 ㋞「どうせ、また一晩中探して見つからないんじゃないの?」


 ㋐「それが、今回のウサギちゃんはこの牧場で飼われているから、直ぐに会えるし直ぐに釣れるよ!」


 ㋞「そもそも、ウサギをどうやって釣るのよ?」


 アキの説明はこうである。


 <イリノモテ野うさぎ>夜釣り対決! の説明


 ①釣り竿に餌である<ノエミンソンちゃん特製野菜団子>を付け、<イリノモテ野うさぎ>の巣穴近くにその餌を放り投げた。


 ②特製団子の臭いに釣られて巣穴から出て来たウサギちゃんが、齧り付いたら糸を巻いて近くまで引っぱり、捕まえてもふもふする。


 慎重に引っ張らないと釣り針が付いていないので、ウサギは逃げる可能性あり


 ③より多くのウサギちゃん達をモフモフした者が、今回の企画である<うさ追いキング>の称号を得る。


 ㋨「夜釣りよ、今夜はありがとう」

 ㋐「この企画の最後を締めくくるのに、相応しいまさしく決戦だね!」


 こうして、うさ追い祭りは最終戦を迎える。


 #####



 話を終えた四人は解散することになり、クリスは一足早くミレーヌの執務室を退出する。


「それでは、陛下。薬品は私が責任を持って、要塞に運ばせていただきます」


「いや、ユーウェイン。要塞の兵士達に日頃の労いの言葉を掛けたい。私も共に要塞まで行こう」


「ありがとうございます。兵達は大いに喜び士気も上がるでしょう」


 現国王の兵士思いの言葉に、ユーウェインはありがたく思い感謝を述べるとルークからはこのような言葉が返ってきた。


「だが、この街でやりたい事があるので、少し待っていてくれないか?」


「やりたい事とは?」

「実は薬品を作った親方の娘さんに、この手紙を届ける約束をしたから届けたいんだ」


 それはパロムの村から、出発する時にエレナの父から預かった手紙で、エレナに届けると約束していたからだ。


「エレナ君なら、私の屋敷に住んでいるので、私が届けましょうか?」

「いや、親方には私が届けると約束したので、自分で渡したいんだ」


 ルークがミレーヌの提案を断ったのは、エレナの父との約束を守るという思いと紫音に会ってみたいという考えからであった。


「わかりました。では、私もお供しましょう」


「いや、ユーウェイン・カムラードが一緒にいれば、ルーカス・アシュフィールドが貧乏貴族の三男坊で無くなってしまう。私一人で行くことにしよう」


 確かに有名人であるユーウェインが側にいれば悪目立ちし、周囲の者は彼のことを”何者だ?”と訝しがるであろう。


 そのためユーウェインは行政府で待つことにする。


 その頃―

 紫音一行は、オーガ撃破して依頼を終わらせたので、街に帰還を果たしていた。

 街に到着した時、すでに陽が陰って暗くなってきたので、冒険者組合への報告は紫音だけで行くことを告げる。


「駄目です! 暗くなってきているのに、紫音様だけでは危険です! わたくしも行きます!」


「アリシア様が行くなら、私も行こう」

「それなら、私も護衛役だから行くわ」


 アリシアも同行を希望したので、レイチェルとソフィーも同行する旨を伝えてきた。


「私一人で、大丈夫だよ。それに、アリシアが来たら大袈裟になっちゃうから、私だけで行くよ」


 アリシアが一緒に来れば、護衛のレイチェルとソフィーも同行することになり、そうなればエレナ、リズ、ミリアだけで屋敷に帰ることになるので危険である。


 そこで、紫音とソフィーだけで、行くことになり、残りの者達は一足先に屋敷に帰ることになった。


 紫音とソフィーは、冒険者組合に向かうと依頼達成の方向をシャーリーに行って、僅かな報酬を貰うと屋敷の家路に就く。


「この報奨金を狙って、荒くれ者が襲ってくるかもしれないから、周囲を警戒しないと!」


 紫音は腰の刀に手を掛け、周囲をキョロキョロしながら歩いている。


「私達や特に先輩は侵攻作戦や防衛戦で顔が売れているから、ちょっかいを出してくるやつなんていないわよ」


 彼女の言う通り、紫音の顔と名はこの街ではかなり知れ渡っており、彼女に因縁を吹っ掛けてくる者はいないであろう。


「あれ? あそこにいるのは、アキさんじゃない?」

「えっ!? どこ?」


 前方にアキを発見したソフィーは、どこにいるか解っていない紫音に指差してみせる。


「ほら、あそこ! あの男の人達に絡まれている― って、アキさん絡まれているじゃない!!!」


 よく見るとアキは、3人の男達に絡まれており、ソフィーが驚きの声をあげたと同時に、紫音は瞬時にこのような事を言いながら、アキめがけてダッシュした。


「こらーー!! アキちゃんを困らせていいのは、私だけなんだからねーー!!」

「いや、先輩も駄目だと思うわよ!?」


 ソフィーは突っ込みながら、紫音を追いかける。


(以前アキさんも紫音先輩の困った姿を見て、その反応を楽しんでいたけど… この二人って、案外似た者同士なのね…)


 親友を助けるために前を走る紫音を追いながら、心の中でそう考えるソフィー。


「よう、姉ちゃん。俺達とこれから酒でも飲みいこうぜ?」

「いや、私はそういうの興味ないんで…」


 アキは自分の見た目を紫音と比べて過小評価しおり、それに加えて腐女子喪女であることから、自分は男には誘われないと考え、このような時間に外を独り歩きしていたが、彼女も十分可愛らしい少女であるため、男達に強引なナンパを受けてしまっていた。


「ほんと、勘弁してください…」


 アキは初めての経験に怯え声を震わせながら、誘いを拒否するが男達は引き下がらず、嫌がるアキの腕を掴んで強引に連れて行こうとする。


 まさにその時、彼女の背後から、突然男達を制止する声が聞こえた。


「待て! 彼女は嫌がっているではないか、離したらどうだ」


 アキは腕を掴まれながら、その声のした背後を振り向くと、そこにはその声の持ち主であろう金髪の爽やかな青年がこちらに駆け足で近寄って来ていたので、アキは勇気を振り絞って彼に助けを求める。


「たっ 助けてください!!」


 すると、その助けを求める声を聞くと同時に青年は、瞬時に距離を詰めてアキの腕を掴む男の手首を掴み合気の要領で撚ると、男は悲鳴をあげて掴んでいたアキの腕を離す。


「ぐわあああ!!」


 そして、青年が腕を離すと男はたまらず後方によろけながら、仲間の近くまで後退するとお決まりのセリフを彼に向かって言い放つ。


「てめー、よくもやりやがったな!」

「ただでは、すませねぞ!」


 男達はわかり易いセリフを口にすると、これまたお約束のように武器を手にする。


「でやーーー!!!」


 そこへ持ってきて、三人掛かりで武器を振りかざして青年に襲いかかった。だが、事前に打ち合わせでもした青年の見事な殺陣のように流れる剣捌きによって、一瞬にして峰打ちを三人に打ち込まれ制圧される。


 おまけに最後には、「覚えていやがれー!!」と様式美のような捨て台詞を吐いて、一目散に逃げ去っていった。


「怪我はないかい?」


 青年はアキの安否を心配する声を掛けながら、ランページキングを鞘に納める。


「はい、おかげさまで。助けていただき、ありがとうございました」

(あれ? この人… 昔、どこかで見たような……)


 アキは青年に感謝の言葉を述べながら、彼を以前どこかで見たことがあると思い、記憶を辿っていると――


「アキちゃん~! 大丈夫~!?」

「アキさん、何もされてない!?」


 幼馴染とツンデレが彼女を心配しながら、ポニーテールとツインテールだけを揺らして駆け寄ってくる。


 果たして、アキを助けた爽やか青年の正体は!?




 次回へ続くまでもなく、皆さんお察しのとおりルークです…



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