286話 本拠点攻略開始!




 前回のあらすじ



 ユーウェインの秘策とは―

 彼は今までフラム要塞に攻めてきた獣人軍を撃退して、その戦力の低下した獣人本拠点を攻略してきていた。


 彼が愚直に過去二回の本拠点攻略を、そのやり方で行ってきたのは、戦力的にそうするしか無かったというのもあるが、魔王軍に本拠点攻略は要塞で戦力を低下させた勢力に攻めると思い込ませるためでもある。


 ユーウェインは、トロール本拠点でリーベと三義姉妹と遭遇した時から、今後彼女達と獣人の王、そして四天王数体が待ち構える本拠点攻略は厳しいものになると懸念しており、その頃から一回でも彼女達と戦わないで済むこの作戦を密かに考えていた。


 次のオーク戦で使用しなかったのは、まだ一度だけだったので魔王軍に思い込ませる事ができないと判断したからである。


 過去二回がそうであった為に、今回もそうであると思い込んだ魔王軍は、まんまと彼の作戦に乗せられてオーガ本拠点で待ち構えることになってしまった。


 魔王軍が騙された理由は、寝起きで頭が冴えていないというのもあったが、自分達の元の世界より文明の低いこの世界の人間に、このような作戦は思いつかないという自惚れと油断があったのも一因である。


 とはいえ、リザード本拠点には通常リザードが180体以上、四天王2体、ヒュドラ1体とリザードの王がおり本拠点は敵の有利な水辺である。


 そのため厳しい戦いになるが、リーベと三義姉妹、オーガ四天王3体、オーガの王が待ち構えているオーガ本拠点よりは攻略成功率は高いであろう。


 #####


 アキ達と合流した紫音達は、戦いに備えてエレナの作った昼食を食べているとアキが意味深な笑みを浮かべながら、紫音に例の報告をしてくる。


「紫音ちゃん。リザード本拠点攻略が済んだ後の夕食は、リズちゃんが作ってくれるそうだよ」


「へえー、そうなんだ」


「昨日から料理を覚えたいと思って作っているッス。でも、みなさんからの評判はあまり良くないッス…。でも、今夜こそはみなさんから、高評価を勝ち取ってみせるッス!」


 リズは相変わらず眠そうなジト目でそう宣言したが、その目はヤル気に満ちていた。


「それは楽しみだね。じゃあ、そのためにもリザード本拠点攻略作戦は、なんとしても成功させなきゃだね!」


 昨日の惨状を知らない紫音は、楽しみとヤル気に満ちた表情でそう答えるが、その会話を聞いたミリアは昨日の惨劇を思い出して無言のまま憂鬱な表情になっていた。


 そして、作戦参加者達が昼食と少しの休憩をして、戦いに向けて鋭気を養うと遂に本拠点攻略の為にリザード本拠点前に移動を開始する。


 投石機を設置して、戦いの準備を終えるとユーウェインの戦いの前の激励が始まった。


「今日この場にいる、勇敢なる兵士と多勢の有志の冒険者諸君! 共に命をかけて戦うことに感謝する。我々は魔王軍を出し抜いたがその代わりにリザード本拠点には、我々が今までに経験した事がない大戦力がいる。だが、この本拠点を攻略できれば、残りはオーガ本拠点だけである。それは、すなわちこの国の… そして、人類の勝利に大きく近づくことを意味する! 苦しい戦いになるが、故に我らは負けるわけにはいかない! 諸君達の一層の奮励努力を期待する! 君達と生きて勝利の喜びを分かち合うことを期待している、以上!」


 ユーウェインの激励が終わるとそこにいた者たちは、これから行われる今までに無いリザード本拠点侵攻作戦に挑むために、自らを奮い立たせる為に鬨の声をあげる。


 参加者達は鬨の声を終えると、事前に決められた配置につく。


「攻略戦開始!!」


 ユーウェインの戦闘開始の号令と共に、投石機が唸りを上げて大きな石を次々と飛ばして、リザード本拠点の城壁の破壊を始める。


 紫音は信頼するみんな後ろで瞑想をして、<無念無想>から<無我の境地>に至った。


「みんな、もう大丈夫だよ」


 そう言った紫音は前回と同じで、とても落ち着いており達人の風格すら感じられる。


「今のシオン様… すごく素敵です!」


 <無我の境地>に入って、頼もしい雰囲気を漂わせる紫音を初めて間近で見るアリシアは、その勇姿にすっかり心奪われてしまう。


 それは初めて間近で見るミリアも同じで、紫音のことを憧れの目で見ている。


(前回もここまでは、超頼りになる感じだったのよね…)


 だが、前回のこの後の醜態を知っているソフィーは、冷めた感じで心の中でそう思いながら自分はアリシアの護衛をしなければならないので、アフラを呼び寄せて紫音のサポートをするように指示を出す。


「アフラ、シオン先輩のサポートお願いね。たぶん、あのダメダメ先輩は、調子に乗ってまたやらかすから」


「うん、わかったよ!」


 アフラも前回の醜態を見た当事者なので、すぐにその指示の意味を理解する。

 城壁に投石機による攻撃を受けたリザードは、本拠点の外に溢れるリザード達から人間達の迎撃に向かう。


 リザード本拠点とその周り400メートル程は、足首まで浸かる水に覆われており、人間達はその水に浸からないように、400メートルで待ち構えていており、こちらに突進してくるリザード達は弓使いや魔法使いが迎撃する手筈となっていた。


 突進してくるリザード達の足元に、いくつもの魔法陣が現れるとそこから氷属性魔法が発動して、水の中からあちらこちらに氷塊や氷柱が現れ、次々とリザード達を襲って氷漬けにしたりダメージを与えたりして、こちらに到達する前にできるだけ戦力を削る。


 そして、遠距離攻撃を掻い潜って接近してきたリザードを、待ち構えていた近接職が戦うという作戦で、人間達は強力なリザードを味方の被害を抑えながら少しずつ撃破していく。


「やあ!」


 オーラの大太刀を操って、リザード達を次々と真っ二つにしていく紫音。


「キャ~! シオン様かっこいいーー!」


 その紫音の鮮やかな活躍を見たアリシアは、戦場であるにも関わらず黄色い声を上げ、そんな彼女を護衛するソフィーはあることに気付く。


(あれ? これってもしかして、私が突っ込まないといけない駄目な人が増えたんじゃないの…?!)


 今でも駄目な先輩(紫音)と腐女子トークで夜更しする年上2人(アキ、エレナ)と能天気な同期1人(アフラ)と世話の掛かる年下2人(リズ、ミリア)へのツッコミで許容オーバー気味であるのに、更に脳内お花畑の王妹様(アリシア)まで増えた事にソフィーはげんなりする。

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