271話 オーガ軍撤退戦 第一戦目




 追撃部隊が、待ち構えるオーガ10体に近づき間合いを詰め始めた時、アキはユーウェイン達にこのような提案をしてきた。


「ユーウェインさん! ここは私と猫耳ゴーレムに任せて、みなさんは先に行ってください!」


「君を一人置いていくわけにはいかない!」


 だが、時間は惜しいが彼女一人に任せるわけにはいかずに、ユーウェインはその提案を拒否する。


「ですが、先程の説明どおりここで時間を掛けるわけにはいきません! 私に構わずに、みなさんは先を急いでください!」


 だが、アキは更に食い下がり自分が残ることを提案し、その意を汲んだのかリズがジト目だがキリッとした表情でこう言い放つ。


「アキお姉さんを一人にはしないッス! 私も一緒に残って戦うッス!」

「リズちゃん…」


 二人は見つめ合い、お互いの気持ちを理解して同時に頷く。


「じゃあ、私も残るよー。右腕は使えないけど、二人を助けるよー!」

「私も…」


 それに続いて、アフラが二人と戦うために残留を申し出て、彼女達だけでは心配なのでノエミも残留を申し出る。


「ここは私達に任せてください!」


 アキとリズの提案を聞いたエドガーは、彼女達の意見通りここで時間を掛ければオーガ軍の撤退を許してしまうと考え、迷うユーウェインにこう進言した。


「確かに、ここで時間を取られている場合ではありません。彼女達に後を任せて、我々は先を急ぎましょう」


「わかった…。ここは、君達に任せよう」


 アキとリズの覚悟を決めた表情を見たユーウェインは、彼女達にこの場を託すことを決断して、更に彼女達にこう言い聞かせる。


「だが、危険だと思えば、撤退しても構わない。無理だけはしないように!」

「はい!」


 戦いに意気込む四人は、声を揃えて気合の入った返事をした。


「リズ、アキさん達と力を合わせて油断せずに戦うのよ」

「わかっているッス!」


 リズは姉の言葉にキリッとした表情でそう答える。

 こうして、追撃部隊はアキ達を残して追撃を開始した。


「じゃあ、そろそろ始めようか。 ゴーレム攻撃開始!」


 アキはオーガ達の注意をユーウェイン達追撃部隊から引くために、猫耳ゴーレムに攻撃を命令する。


 猫耳ゴーレムは、その巨体で地面を揺らしながらオーガ達に突進するとその太い腕で、目の前に立ち塞がるオーガに殴りかかる。


「ミー! GRファミリア発射ッス!」

「ホーー!」


 リズの命令を受けたミーは6本のGRファミリアから、魔力の矢を一斉発射させ、オーガの頭部に命中させ、魔石に姿を変えた。


「ハイ・オーラアロー…」


 ノエミもハイ・オーラアローをオーガの頭部めがけて放ち、見事に命中させて注意を引きつける事に成功させる。


「グオオオ!」

「はいおーらぱーーーーんち!!」


 頭に攻撃を受けたオーガは、攻撃をしてきたノエミに向かって走ってくるが、その迫ってくるオーガにアフラが左拳で、ハイオーラパンチを叩き込む。


 アキ達がオーガの注意を引いている間に、ユーウェイン達はその横を駆け抜けていく。


 猫耳ゴーレムの耳に取り付けられた誘引灯が、淡い光を放ちオーガ達を惹きつけて、その可愛い外見とは裏腹に近寄ってきたオーガ達を殴りまくる。


 そうして、猫耳ゴーレムがオーガを引きつけている間に、リズ達が一体ずつ撃破していき15分程で10体全て撃破した後に回復薬で消耗したMPやオーラを回復させる。


「終わったね」

「そうッスね」


 アキとリズは隣り合って回復薬を飲み、空を見ながら話し始めた。


「いやー、流石リズちゃんだね。私の目論見に気づいて乗っかてくるなんてね」

「恐縮ッス。しかし、アキさんも悪いお姉さんッス」


 二人は互いを見ずに、青い空を見ながら話を続ける。


「いやいや、私の考えを看破しながら、一緒に残ったリズちゃんも悪いジト目ちゃんだよ。でもね… 私だって、結果的にとはいえみんなを騙すような事になって心が痛むんだよ。だけど、インドアな私にはもうこれ以上走れないんだよ…」


 アキはここに残って敵と戦った真相を、遠い目で空を見ながら言い放つ。

 運動不足な彼女には、これ以上の長距離マラソンは無理であった。


「私もこれ以上は、走りたくなかったッス…」


 リズはまだ走れたがこれ以上走りたくなかったので、アキと戦うという事を大義名分にして残った事を同じく遠い目をしながら言った。


「えー!? 二人はそんな理由で残ったのー!?」


 側で一部始終を聞いていたアフラがそう突っ込むと、リズは彼女に近づいて彼女の手に鞄から取り出したある物をそっと渡して取引を申し込む。


「アフラお姉さん、この事はどうか内密に… その代わりにこのバナナをあげるッス」

「うん、わかったよ~。もぐもぐ…」


 アフラはバナナであっさり買収されて、それを美味しそうに頬張りながら内密にすることにする。


(ちょろいな、アフラちゃん…。バナナをあげたら、猫耳付けてくれるかな~)


 アキがその様な事を考えているとノエミが、ジト目で物静かにオーラ回復薬を飲みながらリズとアフラの様子を見ていた。


「ノエミお姉さんもこのバナナで、どうか…」


 それに気づいたリズはアフラの時と同じ様に、ノエミに近づくとバナナを渡して買収を持ちかける。


 ”フルフル”


 だが、ノエミはリズに負けないぐらいのジト目で、首をフルフルと横に振って、買収を拒否する。


(やっぱり、ノエミちゃんはバナナでは釣られないか…)


 アキが二人のやり取りを見てそう思っていると、リズは次の賄賂の品を渡す。


「では、この飴玉で…」


 ”コクッ”

 ノエミはジト目で黙って頷くとリズから貰った飴玉を口に含む。


(バナナが嫌だっただけか…)


 三人はジト目で飴玉を口の中で転がすノエミを見て、奇しくも同じ意見になった。

 こうして、4人はこの場でまったりと暫く休憩するとゆっくり歩きながら、追撃部隊を追うことにした。


 その頃城壁の上では―


「『愛は見返りを求めないもの』ですか……。ケットさんは大人なのですね……。未熟なわたくしには、まだそのような考え方は……」


「ナー」


「『一歩的な過度の愛の押しつけは、相手の負担となって敬遠されてしまう』ですか…。確かに、シオン様に少し引かれてしまっている気はします……」


 アリシアはケットさんから、アドバイスを受けていた。


 その側で、ミリアは深くかぶった帽子を恐る恐る少しあげて、まだ少し怯えながらその様子を窺っていた。



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