270話 オーガ軍撤退戦 その三
前回のあらすじ?
『究極のBL漫画』対『至高のBL漫画』がついに始まった。
先攻の究極側担当アキ岡アキ郎は、今大人気の作品から『義×炭』を用意して、審査員達から大絶賛されるが…
『究極 対 至高 BL漫画対決(後編)』
「私は今回『ヴィク×勇』『兎×虎』と迷ったが、敢えて『赤×安』モノにしたわ」
「これはいい『赤×安』だわ」
「長年のライバルが、紆余曲折した後に愛し合う姿が素敵だわ」
「あくまでクールな赤○と意地を張る安○との関係性がとてもいいわ」
「これこそ理想の『赤×安』だわ」
審査員達はアキ岡の時よりも絶賛する。
そして、審査員達から勝敗結果が告げられた。
「勝者! 至高側の『赤×安』モノとする!」
「それは、どうして!?」
アキ岡は判定に納得がいかずに、審査員達に理由を尋ねるが、答えたのはリベ山であった。
「理由が知りたいか、アキ郎?」
「教えて…くれ…」
自分が負けた理由を知りたいアキ岡は、悔しそうな表情でリベ山に教えをこう。
「いいだろう、教えてやろう。『義×炭』は、今大人気作のカップルであるし、認知度も高く興味を引くカプであるし、公式でもそんな感じがするから受けはいいだろう。だが、新カプ過ぎて、カップルの設定、シチュエーション、世界観はまだ作家とファンによってはバラバラで、万人を満足させるモノではない」
「!!?」
「確かに旬は大事よ。私が『赤×安』を選んだのも前述した2作品よりも今一番カプ人気があるからよ。だが、それよりもっと大事なのは長年ファンと作家によって作り上げられたその円熟したカプ設定、シチュエーション、世界観があるからで、私が迷ったのも三作品ともにそれがあり、尚且古すぎず今油が乗った作品だからよ」
固唾を呑んでリベ山の説明を聞く審査会場は、彼女だけの声が響き更に説明を続ける。
「『義×炭』は素晴らしいカプではあるが、まだ、始まったばかりのカプである。それ故に、目の肥えた『貴腐人』達を長い月日を掛けて万人が満足するまで円熟したカプである『赤×安』モノ以上に満足させられるはずがない。好きなカプを愛でる同人即売会なら構わんが、今回のような逸品を決める場においては、時期早々のカプであると言わざるを得ない!」
「!!!」
「そして、私が『赤×安』を選んだ理由がもう一つある。それは……」
「それは…!?」
リベ山は、オタク特有の早口説明で力説を開始する。
「それは『赤×安』は、ドロドロの絡みシーンがあっても、二人は大人なのでそうなっても問題ないとすんなり受け入れられるかよ!! まだ若い『義×炭』でドロドロの絡みを描いたら何か心に罪悪感を覚えるけど、『赤×安』なら『大人』だからという理由で納得できて、描く方も読む方も心置きなく楽しめる!!」
「なるほど…。至高側の『赤×安』を見た後の究極側の『義×炭』の内容に、急に満足感が足りないと感じたのはそういう理由だったからか…」
リベ山の説明を聞いた『貴腐人』達は、口々に納得する言葉を発し始めた。
「アキ郎! アナタは人気と旬に目を奪われすぎて、BLにおける一番大事な事を見落としていたのよ!」
「私は旬な素材ばかり気にして、肝心なことを見落としていたということか…」
「アキ岡さん…」
アキ岡はその場で床を見つめながら、自らの未熟さを痛感して落ち込んでしまい、そんな姿を見たエレ田はどう声を掛けていいのかわからずに黙って見つめるしか無かった。
「まあ、作品に罪はないので、持って帰るけどね」
リベ山はそう言って、アキ郎の『義×炭』モノを袖にしまう。
「それも、そうですね」
『貴腐人』達も鞄にしまいこむ。
『究極のBL漫画』対『至高のBL漫画』対決は、至高側の勝利で幕を閉じた。
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「これって、別に個人の好き嫌いで判定が変わるんじゃないの? 本当に好きなら、少しぐらい設定が甘くてもいいんじゃないのかな? ところで『安×赤』の『×』ってどういう意味なの?」
「おい、ヒンヌーポニー! オマエわざと逆カプ発言しているだろう!? 物語中ずっと『赤×安』と言っていたのに間違える訳無いだろう! わざと『×』を逆にして、『赤×安』ファンを煽っているんだろう? 正直に言ってみろ! そのトレードマークのポニーを斬って、キャラ特徴をヒンヌーだけにしてやるから!」
紫音は不注意な言い間違えによって腐女子の逆鱗に触れ、プラスなキャラ特徴であるポニーテールを奪われそうになってしまう。
「ヒドイ! このポニーテールはゆらゆら揺れることによって、視線を上に誘導する為のモノなのに!」
紫音は敢えて視線をどこから、誘導したいのかは言わなかったが、頭のいいアキはすぐに察してこのように突っ込む。
「紫音ちゃんのその髪型、そんな理由だったの?! 女剣士をアピールする為じゃなかったの!? そんな無駄な努力をしていたの!?」
「無駄な努力なんてヒドイよ!!」
こうして、紫音の髪型の衝撃的な秘密が暴露されたが、どうでもいい理由であった。
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アイアンゴーレムを倒したアフラとノエミは、消耗したオーラを回復薬で回復させていると残りのオーガも他の者達が数に物を言わせて撃破する。
「アフラ、ノエミ。休憩中悪いけど追撃するわよ」
クリスはそう言うとレイピアを鞘に収める事もなくオーガ軍を追いかける為に走り出し、他の者達も追撃を開始した。
「つまり、敵は退路に少しずつ足止め隊を置き、それを繰り返して時間稼ぎをして、その間に本隊を逃げ切らせる作戦を取っていると言うんだね?」
ユーウェイン達は、走りながらアキにオーガ軍の作戦の詳しい説明を求め、アキは『捨て奸』の内容を詳しく説明する。
「まるでトカゲの尻尾切りだな」
アキの『捨て奸』の説明を聞いたタイロンが、そのような比喩を述べた。
「トカゲは一回だけだから、玉葱の皮むきの方が近いのでは?」
紫音がいれば、このような空気を読まない発言をしていたかもしれない。
「ですが、犠牲に目を瞑れば、理に適った作戦ですね」
「部下が魔物だからできる作戦ですね」
そのエドガーとリディアの意見を聞いたアキはこう思う。
(まあ、この作戦を人間でやった人達がいるんですけどね…)
そして、元の世界の話なので、話すことができないのが残念だと思った。
「でも、アキはどうして、こんな作戦を知っているの?」
エスリンの疑問に、アキはウィ○で知ったとは言えずぼやかして答える。
「昔、そんな戦法があったと聞いたことがあったので…」
「東方国の話だよね? スギハラさんは、聞いたことありますか?」
アキの発言を聞いたカシードは、設定で同郷となっている東方国出身のスギハラに尋ねてみると彼からはこう返事が返ってきた。
「いや、俺は聞いたことがないな。まあ、俺は座学よりも、剣の修業に夢中だったからな」
スギハラの返事を聞いたクリスが、アキに助け舟を出してくれる。
「アキがどこで得た知識かはともかく、作戦内容は当たっているみたいですよ?」
彼女の言葉通り、進行方向にオーガが十体待ち構えている姿が見えてくる。
「これが、まだ後何回か続くのか…」
「嘆いている暇はない、奴らを素早く倒して先を急ぐぞ!」
こうして、人間達は追撃戦を始めることになる。
果たして、『島津の退き口』の徳川軍のような追撃戦を味わうことになるのかは、今は女神のみぞ知るのであった。
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