第8章 少女新たなる力で無双する(予定)

259話 アキ明、舌戦にて王妹を説得す




 アキはアリシアを紫音から少し離れた所に連れ出してから、おもむろにこのような問いかけから説得を開始する。


「アリシア様は、紫音ちゃんが好きですよね?」


「なっ…!? 何を突然言い出すのですか?! もちろんです! この気持は、アキさんにも負けません!」


「本当にそう言えるのですか…ね?」


 アキは疑いの目で、アリシアを見つめながら話を続ける。


「それは、どういう意味ですか? わたくしがシオン様の説得に、応じないことを言っているのですか? それと、これとは― 」


 アリシアの反論をアキは遮るように、反論という名の詭弁を話し始めた。


「いえ、その事ではありません。私が言いたいのは、そもそも<アリシア様は、本当に紫音ちゃんの事を想っているのか?>ということです」


「もちろんです! わたくしは、シオン様の事を想っています!」


「それなら、どうして紫音ちゃんの新しい女神武器での初陣に、水を差すような事をしようとしているんですか?!」


「それは、どういう意味ですか!?」


 アキは餌に喰い付いたアリシアに、語気を強めながらこう詭弁を続ける。


「アリシア様も知っての通り、今回は紫音ちゃんの自分専用の新しい女神武器での初陣です。そして、恐らく大活躍するでしょう。そうすれば、今回の話題の主役は紫音ちゃんです」


「シオン様なら、大活躍間違いなしです! 話題の主役になるのは当然です」


 アリシアは嬉しそうに、活躍するというアキの意見を肯定するが、アキの詭弁がそんな彼女をさらに襲う。


「ですが、そこにアリシア様の初陣が重なり、更に活躍でもしてしまえば、紫音ちゃんの活躍が薄れてしまう。つまり、アナタは好きな人の活躍の場を、奪おうとしているのです! それが、好きな人にすることですか!?」


 冷静に聞けばとんでもない理屈であるが、お姫様育ちのアリシアには、アキの詭弁の前に自分が彼女の言う通り、自身のエゴで大好きな人の活躍を邪魔しようとしていると思い込んでしまう。


「かく言う私は紫音ちゃんのことを考えて、今回はアイアンゴーレムでなく、普通のゴーレムで戦うつもりです」


 更にアキは”自分は紫音ちゃんの事を考えて、目立ちませんけどね”アピールをして、アリシアの対抗意識を煽る。


 彼女がロックゴーレムで戦う本当の理由は、自分が手を抜いても今の紫音なら、充分戦況を優位にしてくれるという考えからの横着であった。


「!!」


 だが、アリシアにはそんなアキが、自分よりも紫音のことを考えているように、見えてしまって言葉に詰まり反論できずにいる。



「可哀想に…。本来なら今回の話題の主役は、紫音ちゃんになるはずだったのに、アリシア様に取られてしまうんですね…。話題を取られて項垂れる紫音ちゃんが目に浮かぶよ」


 アキが悲しそうな表情で親友の事をそう憐れむと、その言葉を聞いたアリシアも戦いの後のがっかりとした暗い表情の紫音を想像して、胸が締め付けられる思いになってしまう。


 紫音にそんな思いをさせる訳にいかないと考え、アリシアは今回は大事な紫音の活躍を邪魔しないでおこうという結論に達する。


「わたくしはシオン様に、そんな悲しい思いをさせたくありません! わたくしは今回、後方でおとなしくしています。そして、シオン様の活躍を見守ります」


 こうして、アリシアはアキ明の弁舌(口車)によって、紫音のために後方で待機することを決めた。


 彼女がBL漫画家にならず、道を踏み外していたならば、稀代の詐欺師になっていたかも知れない…


 アキに説得されたアリシアが、紫音の元にやってきて彼女にこう伝える。


「シオン様のおっしゃるとおりに、わたくし今回は大人しく後方で、シオン様の活躍を見守ることにします。わたくしはアキさんに負けないくらい、シオン様の事を想っていますから!」


「そう…。それは、よかったよ…」


 紫音はアリシアがアキの説得で、心を変えたことに少し複雑な気持ちになる。


(違う…。きっと、私と違ってアキちゃんの説得が上手なんだ…)


 今迄、紫音自身もアキの励ましや説得を何度も受けてきて、彼女の話術の巧みさを知っているので、そう考えることができた。


 紫音はアリシアが後方で待機することを伝えに、クリスとリディアのいる場所に向かうと二人は首を長くしてその報告を待っていた。


「シオン、よく説得してくれたわね」

「いえ、説得したのはアキちゃんなんです…」


 クリスの称賛の言葉に、紫音はアキが説得したと少し元気のない感じで正直に話す。

 その表情を見たクリスは、こう言って紫音を励ます。


「アリシア様の言葉からアナタへの想いで、後方でいることを受け入れたみたいだから、そんな関係を築けているアナタの功績でもあるわ」


「そうでしょうか…」


 だが、その励ましもあまり紫音には刺さらなかったようで、彼女はまだ少し元気がない。


「シオンさん。これ、修理で預かっていた装備です」


 そこに、リディアが前回のオーク本拠点攻略後に、紫音から修理で預かっていたミスリル装備を返却する。


「凹んだところが、綺麗に治っている! まるで、新品みたい~」


 新品同様になって修理から帰ってきた、虎の子のミスリル装備を装着すると、紫音はすっかり元気になる。


(意外と単純な子でよかった…)


 新品同様で帰ってきた装備を装着して、目を輝かせながら装備を見て、クルッと回転したりしている紫音を見てクリスはそう思った。


「そうか…、アリシア様は後方で待機されることを受け入れてくれたか」


 リディアの報告に、ユーウェインは懸念材料が一つ減って、肩の荷が少しだけ降りた気がしたが、彼にはまだ懸念材料が残っている。


 リーベ達魔王軍幹部の動向もそうだが、何より気になっているのが、今回の戦いには支障がない事ではあるが、王都からの補給物資が特に薬品類が滞っていることである。


 王国軍に薬品を卸している業者が、最近薬品が手に入りづらくなったと言って、商品の納品を渋るようになったのであった。


 もちろんそれは方便で、商業組合が各薬品製造所に圧力を掛けたことによるものであり、事の発端は紫音がアキと山籠もりしていた頃に遡る。


 夜も更けた頃―

 リーベとエマは魔王の命令で、商工ギルドの長ラシャード・マクナマラを王都郊外の廃屋に、再び呼び出して密会をしていた。


「あまり、気安く呼び出さないでくれと前回も言ったはずだ。そうでなくても、カムラードの件で、王都での監視の目が厳しくなっているのだ」


「そう…。それでは、早速本題に入るわ。要塞への物資と薬品の搬入を止めて頂戴」


 魔王の目的は兵糧攻めであり、古来より用いられてきた有用な城攻めの一つである。


「それは無理だ。どう言い訳をして、止めるというのだ? それに今すぐ止めたところで、要塞にはまだ備蓄があるはずだ。今回の要塞戦には間に合わんぞ」


「そうね、今回には間に合わないのはわかっているわ。でも、この次からは、効果が確実に出てくるはずよ」


「そんなことを言いながら、前回もせっかく危ない橋を渡って、カムラードを要塞から引き離す御膳立てしたのに、有効活用しなかったではないか。おかげで、前回の件で折角金をばら撒いた有力者達の一部が処分や更迭されて、こちらは大損したのだぞ」


「前回は、こちらにも色々とあったのよ…」


 前回の事は彼女にも責任がある為に、リーベにはそう言い訳をするしかなかった。 


「でも、このまま何もしなかったら、遠からず獣人拠点は全滅して、貴方達の売上も激減するわよ?」


 リーベの言う通り、獣人拠点がなくなれば戦い自体が減って、薬品や装備が売れなくなるのは前回でも語った通りなので、彼らには選択肢はなかった。


「だが…、先程も言った通り、監視の目が強化されているから、納品を少なくするぐらいしか方法はないぞ」


「まあ、それでもいいわ。物資が滞れば、その事実が彼らに心理的圧迫を加えることができるわ。そうすれば、その事が行動に制限を与え、余計なプレッシャーを与えることができるのだから」


 こうして、その日から物資や薬品の納品が滞る事になる。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る