227話 魔物御殿



 前回のあらすじ?

 シオ備は義姉妹のケット羽、リズ飛を伴って、臥龍こと諸葛亮アキ明のいる家を尋ねる。だが、一度目は夏コミに、二度目は真冬に出向くと今度は冬コミに行っていて、会うことが出来なかった。


 そして、三度目今度こそはと五月に出向くと、スパコミに出掛けていて会えなかった…

 シオ備が、心が折れて家の前で三角座りしてぼーっとしていると、夕方頃アキ明が戦利品を両手に下げて帰宅してくる。


「アナタは?」


 アキ明が尋ねると、シオ備は自己紹介する。


「私は、シオ備。こちらは義姉妹のケット羽、リズ飛。臥龍先生をお待ちしていました」


 アキ明は、こんな所で立ち話は何だからと家に招き入れた。

 シオ備は、二人に待っているように指示するとアキ明に招かれて家に入り、現状における自分の未熟さ、そして天下泰平のために尽力したい気持ちをアキ明に訴えって、そのために力を貸して欲しいと願い出る。


 しかし、アキ明は頑なにこう言って断る。


「私は一刻も早く今日手に入れてきた戦利品を楽しみたいので、今日の所はお帰りください。戦利品を堪能するのに三日ぐらい掛かるので、三日後にでも来てください」


「そんな理由で!!?」


 シオ備のツッコミが決まった所で、次回へ続く…


        (さんこみっく演義 「シオ備、三顧の礼をもって臥龍に尽くす」より)


 #####


 紫音とアキがクリスと共に、『魔物バトル』の作者である<シオ・リィーガワ>氏に会うために、ノエミの操縦する馬車に乗って彼女の屋敷に向かっていた。

 屋敷はアルトンから北東に馬車を走らせ、半日の距離にある森にあり、魔物カードの売上から建てられた為に、通称<魔物御殿>と呼ばれている。


「そんな辺鄙な場所に建てて、危なくないんですかね?」


「教会には、LVの低い魔物を遠ざける効果のある【女神の護符】というのがあって、魔力もしくは魔石電気を絶え間なく流し込むことでその効果が発動するの。各村や町の外壁にはそれが貼られていて、LVの低い魔物が入ってこられないようになっているの」


 紫音がクリスに尋ねると、彼女はこう答えた。

 恐らく多額のお布施と言う名の代金を払って、教会から買い込んで屋敷の外壁に貼っているのだろうとクリスは説明する。


 馬車を走らせていると、広大な森が目の前に現れて、街道から別れた脇道がその森に向かって伸びており、馬車はその脇道を走り森の中をまた暫く走ることになる。


 木々の中をまっすぐ貫く道をひたすら走っていると、遂に目の前に大きな門がある壁とその先に屋敷があるのが見えてきた。

 そして、クリスの予想通り外壁には【女神の護符】らしきものが貼られていた。


 その門は空いたままになっていて、素通りできるようになっており、紫音達は門を通り抜けると屋敷に馬車を進める。


「こんなに大きな屋敷なのに不用心だね」


 紫音が感想を述べると、アキは自分の考えを話す。


「侵入されても平気なのかもしれないね。私みたいに家をゴーレムで警護させているのかも…」


 アキの屋敷のゴーレム達は、漫画のアシスタントだけでなく戦闘もこなせ、屋敷への侵入は絶許モードを搭載している。


 紫音達は屋敷の入口まで来ると馬車を降り、クリスはノエミに馬車で待機を命じると、三人は玄関まで歩く。玄関まで歩いている時にアキは何かに気付いて、クリスに報告する。


「クリスさん。あの離れの建物…、【女神の炉】じゃないですか?」


 そう言って、アキが離れにある建物を指差すと、その建物の屋根にある煙突からキラキラと光る煙が出ていた。


【女神の炉】は、フェミニース教会管轄の秘匿設備であり、大貴族や大商人ですら個人で所有する者はいない。それが、この<魔物御殿>には存在しているのである。


「【女神の炉】に【女神の護符】…。やはり、この屋敷の主<シオ・リィーガワ>氏は、只者ではないわね。【女神の炉】を所有しているという事は、フェミニース教会の関係者かあるいは、女神フェミニース様から与えられたのか…」


 クリスがこのように推察すると、紫音がそれに対して尋ねてくる。


「それってつまり、やっぱり転生者だから優遇してもらったという事ですか?」


「少なくとも【女神の炉】を個人所有している理由は、そう考えるほうが自然じゃないかしら? まあ、それは本人に話を聞けば解るでしょう」


 紫音の質問に答えたクリスはそう言って、事前に教わっていたリィーガワ氏の女神の栞に屋敷の前に着いたことを連絡すると、彼女からその場で少し待っていて欲しいと連絡が入った。


 そして、暫くすると扉が開いて屋敷の中から黒髪をアップで纏め、白のシャツと黒のロングスカートを履いて眼鏡を掛けた20代中盤から後半ぐらいの女性が出てきた。


(うわっ…。ミレーヌ様とはまた違う、仕事の出来そうな凄い美人の年上お姉さんだ…9


 シオ・リィーガワは、紫音が憧れる素敵な大人の女性であった為に、同性ながら少し見惚れてしまった。


「はじめまして、シオ・リィーガワさん。アポの約束を頂いた、“クラン 月影”副団長のクリスティーナ・スウィンフォードです」


 クリスが彼女に自己紹介をおこなうと、続けてアキと紫音も自己紹介をおこなう。


「アキ・ヤマカワです」

「シオン・アマカワです」


 紫音の自己紹介を聞いた所で、シオ・リィーガワは紫音に話しかけてくる。


「あなたがシオン・アマカワさん? お噂はかねがね聞いています。若いのに要塞防衛戦と本拠点侵攻作戦で活躍なさっていて、ついた異名が『黒き地平線』…」


 彼女がそこまで言うと、紫音が明らかに複雑な顔をしたので、シオ・リィーガワはどうしてかと思い鎧を修理に出してボーダーの冒険者服だけを着る彼女の胸のあたりを見て、全てを察して話題を変えるために、自己紹介を始めた。


「はじめまして。私はシオ・リィーガワ、魔物バトルの作者です。まあ、こんな所で立ち話もなんですから、中へどうぞ」


 シオ・リィーガワは、三人を中へ招くと来客室へと案内する。


(この広大な土地と屋敷の購入だけで、資金がなくなったのかな?)


 屋敷の中は、外観もそうであったが飾り気はあまりなく、アキがこのように邪推する程で、良く言えば慎ましやかな、悪く言えば簡素な印象を受けた。


 来客室に通されると、三人はソファーに座るように促され、彼女自身はお茶を用意すると言って、部屋を出ていく。アキは彼女が部屋から出ていくのを確認すると、ソファーから立ち上がり部屋の中を観察し始める。


「アキちゃん、他人の家の内装をマジマジと見るなんて失礼だよ」


 そんなアキを紫音が注意すると、クリスがアキに質問する。


「どうしたの、アキ? 何か気になるところでもあるの?」

「埃がですね…、結構残っているなと…」

 アキはクリスの質問にこの様に答えながら、部屋の隅を指でなぞって埃を指に取ると、フッと息を吹きかける。


「意地悪な小姑みたいだよ、アキちゃん…」


 紫音は少し呆れながら、アキにそう突っ込んだ。




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