第7章 少女新たなる力を手に入れる

226話 アキ明の罠



 前回のあらすじ

 謎の幼女マオちゃんに叱られた紫音は、オーラの大太刀をマスターするために修行を開始する。


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 紫音は折れた刀を構えると、体内のオーラを腕に送りそのまま刀まで送るイメージで、刀にオーラを送り込み溜める。そして、今度は刀身をイメージしてオーラを刀身の形に伸ばしていきオーラの刀を作り出すと、今度はそのオーラの刀身を更に伸ばして大太刀を目指す。


 だが、オーラの刀の刀身70cmから、大太刀の刀身の長さ2mを目指すが、1mの時点で頭打ちして、そこから伸びずに”伸びろ~、伸びろ~、伸びてよ!”と、紫音は心に念じるが彼女の集中力が切れてしまい、刀身が消えてしまう。


「駄目だ…。でもまだ、修行をはじめて初日だしこんなものか…」


 紫音は修行が上手くいかずに気落ちするが、朝食を食べたらまた訓練を頑張ろうと気持ちを切り替えると、爆音が聞こえてきたのでその爆音のする方向を見る。


「ミー! GRファミリア発射ッス!」

「ホーー!」


 すると、少し離れたところでリズが、周囲の魔力を吸収する訓練で景気よくGRファミリアを発射して、ミレーヌの屋敷の庭に穴を開けていた。


 紫音が朝食を食べ終えて、食堂でゆっくりとしていると、クリスから女神の栞に緊急の連絡が入る。その内容は”今から会いに行くから、貴方とアキは今日一日予定を空けておいて”というものだった。


 しばらくすると、クリスがノエミの操縦する馬車に乗ってやってきて、玄関で待っていた紫音達に今回の来訪の目的を話し始める。


「今日来たのは、以前より面会を求めていた、あの『魔物バトル』の作者である<シオ・リィーガワ>氏と今日会えることになったの。そこでシオンとアキにも一緒に会って欲しいの」


『魔物バトル』とは、三年前にこの世界に販売された所謂トレーディングカードゲームで、その戦略性と秀逸なカードデザイン、それによる収集性により小さな子供から、大きなお友達まで大人気となっている。


 クリスは以前より、この世界には先進的すぎるこのカードゲームの原作者が自分達と同じ転生者ではないかと思い、面会を求めていたが原作者が忙しさを理由に承諾しなかった。

 それが、今朝突然先方から、本日会ってもいいという連絡が入ったのである。


「本当ッスか!? 自分もお会いしたいッス!」


 その面会の話を聞いた『魔物バトル』愛好家のリズは、目を輝かせながらそう言って同行を申し出てきた。


「リズちゃんは、今日教会で女神武器授与式があるので、そちらにいかないと駄目ですよ?」


 だが、エレナがそんなリズに、女神武器授与式があるので駄目だと諭す。


「え~~」


 リズは不満の声を漏らした後に、こう言ってくる。


「きっと、フィオナ様がやらかして本日中止になるッス」


「甘いね、リズちゃん。フィオナ様だけなら十分ありえるけど、今回はナタリーさんが一緒だから、それはないよ」


 リズの発言を聞いたアキは、すぐにそう言って反論した。


「残念ッス…」


 リズは本当に残念そうにそう言って、授与式の準備のために自室に戻っていく。


「ところで、さっきから気になっていたのだけれども、ソフィーはどうして二階の階段の上から、こちらの様子を窺っているのかしら?」


 クリスがそう言って、そのソフィーを見ると彼女は姿を隠して、クリスが視線を戻すとまたひょっこり現れて様子を窺っている。


 クリスがソフィーのおかしな行動を尋ねると、アキがこの様に答えた。


「あー、あれは太陽になっているんです」

「太陽?」


 理解できていないクリスに、アキが説明を続ける。


「ソフィーちゃんがいると、クリスさんとの話が進まないと思って、この<私諸葛亮アキ明>が彼女に<北風と太陽の計>を授けておいたのです」


 そう言って、アキはいつの間にか手に持った<BL>と書かれた扇子で扇ぎながら、詳しい説明を始めた。


 ことの発端はクリスが来る前、彼女が来る事で浮かれているソフィーを見たアキ明は、これは余計な時間がかかるなと思い、彼女に計略を仕掛けることにした。


「ソフィーちゃん。いつものようにクリスさんに抱きつこうとしても、過度のスキンシップを好まない大人のクリスさんには逆効果だと思うよ。ここは、昨日のアリシア様のように<北風と太陽の計>でいくべきだよ」


「何よ、その<北風と太陽の計>っていうのは?」


 アキは<北風と太陽>の童謡を知らないソフィーに聞かせる。

 童謡を聞いた彼女は、もちろんそんな作戦上手くいくのかと疑ってきた。

 そこでアキ明は、こうなることを読んで仕込んでいた次なる罠を発動させる。


「そんなことないよね、紫音ちゃん。紫音ちゃんは、昨日からアリシア様の事が気になっているもんね?」


 紫音は、事前にアキに言われた通りに、ソフィーにこう言って聞かせた。

「えっ!? あっ、うん、そうだねー。昨日のいつもと違うアリシアの態度で、気になって仕方がないよー」


 嘘が下手な紫音が、棒読みでそう答える姿を見たアキ明は“流石にそれはないだろう、親友(ヒンヌー)よ…”と、その演技に愕然とし失望する。


 アキ明のその失望は、まるで街亭の戦いで山頂に布陣した馬謖の報告を受けた孔明のようであったかもしれない。目の前にいる馬謖(しおん)の山は低いので、すぐ降りてこられそうではあるが…


(でも、確かにお姉さまにこのまま抱きついても、いつものように邪険に扱われるのは目に見えている。なら、アキさんの作戦を試してみるのもありかもしれない…)


 もちろんソフィーは、疑いの眼差しで彼女達を見ていたが、このように考え直してアキの<北風と太陽の計>を実行してみることにした。


 太陽となってクリスから、来てくれるのを待つソフィーであったが、彼女達はこれ幸いと玄関から外に出て、馬車に乗って出掛けて行ってしまう。


 クリスはソフィーの事は別に嫌っておらず、寧ろ頼れる可愛い妹分だと思っている。

 慕ってくれているのはわかるが、正直ベタベタされるのは敵わないと思っており、特に今回はシオ・リィーガワに会う時間が迫っていて、余計な時間を取られたく無かったために、冷たい対応をとってしまった。


 ソフィーが気落ちしていると、彼女の栞の着信が鳴ったので、録音された声を再生してみるとクリスからの伝言であった。


(ソフィー。アナタは紫音がいない分、リズ達の面倒を見てあげなさい。あとで、お土産を何か買ってきてあげるから…)


「おねーさま! お土産は、お姉さまがいいです~」


 クリスから伝言を聞いたソフィーは、嬉しそうにそう言ってリズの授与式に備えて自室に戻っていた。

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