215話 切り札
カシードの盾に攻撃を防がれたフェンリルは、後ろに跳躍して一度距離を取ると今度はカシードを目標として飛びかかる。彼はまだ動けないスギハラとクリスの前に立ち、覚悟を決めて切り裂かれた盾を再び構えた。
フェンリルの爪が彼の盾を引き裂こうとした時、フェンリルにリディアのフェイタルアローが命中し、見た目だけは可愛い狼は吹き飛ばされる。
そして、吹き飛ばされ地面に着地したところを、リディアはその熟練した偏差射撃でフェイタルアローをもう一発命中させた。
「くぅ~ん(泣)」
フェイタルアローを2発も受けたフェンリルは、アンネの元に逃げていく。
「私としたことが…。オーラの管理を誤って、クリスさんに怪我をさせてしまった…」
リディアはオーラを回復していた事で援護が遅れて、クリスが負傷してしまった事を自分の責任だと悔いていた。フェンリルがアンネの元に帰ってきた時、空からスレイプニルに乗ったクロエがやってきて彼女にこう指示する。
「ヘラ! 一度本拠点まで帰るよ!」
「いやなの~! みんなを虐めたかたきをとるの~」
アンネはクロエの指示を拒否した。
「アンネだってもう、魔力がないでしょう?」
「でも~」
クロエはアンネにだけ聞こえるように、小さな声で説得するが彼女は聞き入れない。そこに、二人の壁となっているヨルムにリディアのフェイタルアローが命中し、ヨルムもダメージを受けてしまう。
「シャー(泣)」
ダメージを受けて泣くヨルムを見たクロエが、お姉ちゃんらしく優しくアンネを諭す。
「アンネが駄々をこねているから、ヨルムまで痛い思いしたじゃないか。アンネのMPが少ないと、怪我したみんなの回復が遅くなるんだよ。それでもいいの?」
「だめなの~」
「じゃあ、本拠点に帰ってMP回復するね?」
「うん…」
アンネは、みんなの回復のためにクロエの支持に従って、本拠点に帰ることにした。
スレイプニルは、アンネとクロエを背中に乗せると本拠点へと空を駆けていき、ヨルムも胴体を伸ばしてその後に付いて本拠点に戻る。
その二人と一体に追撃しようとする冒険者達を、回復薬を飲みながら傷を癒やすスティールと、フェイタルアローを撃ってオーラを回復しているリディアが引き止めた。
「追撃よりも傷ついた味方の回復と、後方への運搬を優先しなさい!」
「それに、オークの王に備えねばならないぞ!」
二人の指示を受けた冒険者たちは、負傷者の手当や後方への移送、オークの王への備えをおこなう。
「お二人は、俺が運びます」
カシードがスギハラとクリスを担いで、後方の回復役のいるところまで運ぶ。
二人が追撃を制止したのは、前述の理由が一番であったが歴戦の二人の勘が働いたからであった。
そして、その勘は後方で戦う紫音に実証されることになる。
(せめて、この脇差が打刀ならそのリーチで、もう少し優位に立ち回れるのだけど……)
紫音はそう思いながら、エマの攻撃を何とか捌いていたが、躱しきれない攻撃が彼女のミスリル装備を少しずつ凹ませていく。
(何とかしないと、このままでは修理費で破産してしまう!! もしくは…)
㋐「修理費がない? 私が出してあげるよ、紫音ちゃん…。その代わりに、ぐふふふ~」
㋛「堪忍してください、堪忍してください~」
(漫画の中だけではなく、現実でも酷い目にあわされてしまう!!)
紫音は必死に何か手はないか考えていると、【冒険者育成教習所】で習ったあることを思い出す。
(そうだ! 確かオーラ技の中に武器にオーラを宿す量を増やすことで、オーラの刃を伸ばし大型の魔物にも有効な斬撃ができるのがあったはず……。使用している人を見たことないけど……)
紫音が見たことがないのは、この技は高いオーラスキルを必要とし、トロールや大型モンスターは、前衛職が注意を引き付けて魔法で倒したほうが簡単で効率がいいからだ。
脇差を中段に構えると紫音はオーラを更に溜めて、長い刀身をイメージする。
すると、オーラは脇差の先端から伸びていき打刀程の長さのオーラの刀身を作るが、幅も鍔ほど広くなって、サーベルのようになってしまった。
紫音にこの技が使えたのは、<女神の秘眼>によるオーラスキルブーストのお陰であった。
その紫音のオーラのサーベルを見たエマは、困惑しつつ考える。
(あれは一体……。まあ、仕掛けてみれば解るわ!!)
エマが今迄と同じ様に紫音に突っ込むと、紫音は切っ先を前に出し刀身の長さを活かして突きを行いエマの突進を掣肘した。
(くっ、近づけない!)
エマは再三素早く突進するが悉く紫音の突きに阻止され、一度距離を取りどう攻めるか考える。
(さすがは、シオン・アマカワ……。やはり、こちらも切り札を出し惜しみして勝てる相手ではないわね……。余り手の内を見せるなと、魔王様からは言われているけど仕方がないわ!)
エマは、龍の頭が描かれた右の篭手に付いている宝玉に魔力を込めた。
「得と見なさい! 特別な力を持っているのは、貴方達だけではないということを!!」
彼女が紫音にそう言うと、右篭手の宝玉が輝き始める。
「まるで、女神武器の特殊能力発動のような輝き……!!」
その輝きは、まるで女神武器のような輝きであった。
そこまで言葉にすると、紫音は折れた打刀を鞘に入れたまま握り、脇差と打刀の女神の宝玉にオーラを送り込み「女神の祝福を我に与え給え!」と、唱え女神武器の特殊能力を発動させる。
紫音は紙一重で発動を間に合わせると、特殊能力で身体強化したエマの超高速の前手のストレートパンチを防ぐことが出来た。
オーラのサーベルを盾にして何とか防いだが懐に入られてしまったために、彼女の高速の連続攻撃に刀身の長さを活かせずにむしろその長さのせいで、近接での取り回しが悪くなり苦戦することになる。
エマも距離を取られれば不利になることは解っているので、この近接距離を維持するためにラッシュを続けた。
そして、再び凹んでいく紫音のミスリル製防具。
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