213話 世界蛇



 ㋞「良い子のみんな! <仲良し殺法コンビ>からの格言よ!」

 ㋐「早起きは三文の得って言うけど、今のお金にすると60円くらいだよ。でも、一年で21900円になるから、ステーキが食べられるよ! お得だね!」


 ㋞「アフラ! アナタよりにもよって、どうしてそれを選んだのよ!?」

 ㋐「だって、ステーキが食べられる格言だよ? じゅるり」

 ㋞「アナタを信じて、任せた私が馬鹿だったわ……」


 良い子の諸君!

 信じるものがすくわれるのは

 足元だけなのだという事を肝に銘じておけ!


(※四次元殺法コンビ名言参照)


 ######


「う~! フィルギャを助けにいくの~! ヨルム、アンネをあそこまでつれていくの~」


 フィルギャが傷つくのを城壁から見ていたアンネは、遂に我慢できなくなってお友達の一体である『蛇の縫いぐるみ ヨルムンガンド』に魔力を込める。


 すると、世界蛇の異名を持つヨルムンガンドことヨルムは、その名の通り大きく長い蛇となって、アンネを頭に乗せると城壁からフィルギャが戦っている場所まで胴体を伸ばして、ご主人様をあっという間に目的地まで運ぶ。


 そして、ヨルムは突然現れたアンネとヨルムに冒険者達が驚いている間に、その長い胴体で彼女を中心にとぐろを巻いてご主人様を攻撃から守る壁となる。


「【仲良し三義姉妹】のヘルだよ~! フィルギャを虐めるのは許さないよ~!」


 ヨルムのとぐろを巻いた胴体の隙間から、アンネがそう言ってプンスカしている姿が見えた。アンネは、鞄から小型のロッドを取り出すと、魔力を込めて魔法を放つ。


「おしおきなの~! フリーズなの~!」


 アンネは冒険者目掛けて、氷属性最高位魔法“フリーズ”を放つ。


 アンネとそのぬいぐるみ達は、氷と水属性無効化を備えており、冒険者達はフェンリルとフィルギャと戦っている所に、魔法を打ち込まれて回避できなかった冒険者は、巨大な氷の柱の中に二体と共に巻き込まれて氷漬けにされる。


 だが、無効化できる二体は、氷の柱が砕けた後に無傷で出てきた。


「くっ、このままでは……。仕方がない、あの子を叩く…」


 レイチェルは可愛いヘルに攻撃をするのは気が引けたが、放おっておけばこのままでは被害が拡大する為、仕方なく攻撃に向かうことにする。


 アンネとヨルムに気付かれないように、レイチェルが冒険者達の後ろ側を走り彼女達に近づくが、一応蛇であるヨルムが熱感知能力でレイチェルの接近を感知して、彼女の来る方に胴体を伸ばしてその迎撃に向かう。


 冒険者達の人垣が無くなったところで、オーラステップで加速したレイチェルの前にヨルムがその大きな頭をもたげて立ち塞がる。



「!? 感知されていたか…。なら!!」


 レイチェルは女神武器ゲイパラシュにオーラを溜めて、走りながら斬撃を繰り出すために振り上げ、ヨルムを睨みつけた。


「かわいい……」


 ヨルムの大きくなったとはいえ縫いぐるみの愛らしい姿と、そのつぶらな瞳を見た可愛いもの好きのレイチェルは一瞬その可愛さに心奪われてしまう。


「シャー」


 ヨルムはその一瞬の隙を見逃さずに、蛇が獲物を狩るが如くレイチェルに素早く襲いかかるとその大きな口で彼女を腰のあたりまでパクリと噛みついてしまった。

 そして、レイチェルを噛んだまま首をもたげてアンネの元に戻る。


「レイチェル!!」


 その一連の出来事を、矢を射ながら見ていたリディアは、彼女を助けるためにハイオーラアローをヨルムの胴体目掛けて射るが、オリハルコン繊維でできたヨルムにはダメージが余り与えられていないのか、レイチェルを開放しようとしない。


「中はモフモフだ~。あ、でもなんか体がミシミシといっている気がする……」


 そして、その当のレイチェルは、呑気にこのようなことを言っていたが、ヨルムの噛む圧力でじわりじわりと体にダメージを受けていた。


 左側ではヘルと彼女が操るシロクマと狼と蛇が、右側ではケルベロスとヘラジカと馬が冒険者達を徐々に倒している状況に、四天王と対峙して時間を掛けてその耐久値を削っていたユーウェインは、判断を迫られている。


 このまま、時間を掛けながら安全に四天王の耐久値を削り続けるか、それとも女神武器の特殊能力を発動させて、一気に倒して左右どちらかに加勢して三義姉妹を押し返すか…


 だが、オークにはまだオークの王が残っており、ここで特殊能力を発動させれば、四天王と三義姉妹を戦場から排除できるかも知れないが、オークの王には対処できないだろう。


 頼りの紫音も女神武器を折ってしまっており、更に今サタナエルと激闘を繰りひろげていて、オークの王に対応できるかわからない。


 しかし、オーク四天王に時間を掛けるとその分両側の冒険者達に、被害が出続けるであろう事は明白で、現にレイチェルまでもが蛇に噛まれて捕獲されてしまっている。

 ユーウェインは決断して、女神武器の特殊能力を発動させた。


「オークの王はスギハラに任せればいい。女神の祝福を我に与え給え!」


 ユーウェインは、女神武器の特殊能力で強化された能力で、四天王ヨークシャーに魔法剣を叩き込んでいく。


「魔法剣インフェルノ!」


 ヨークシャーは渦を巻く炎の柱に襲われるが何とか耐えると、耐えている内に死角に回り込まれたユーウェインに魔法剣で再び斬りつけられ、斬撃の後に再び渦を巻く炎の柱がヨークシャーを襲う。


「グオォォォォォォォ!!」


 三度目の魔法剣インフェルノを受けたヨークシャーは、それまでに削られた耐久値を更に全て削られ断末魔をあげて姿を魔石に変えた。


「よし、次だ!」


 ユーウェインがヨークシャーの撃破を確認する。


「グオォォォォォォォ!!」


 すると、イベリコの断末魔が聞こえてくる。

 ユーウェインはその断末魔を聞いて、イベリコと戦っているスギハラの方を見ると、彼も女神武器の特殊能力を発動させて、イベリコを倒していた。


「おい!! オマエまで、女神武器を発動させて、オークの王はどうするんだ!!」

「オマエこそ指揮官の癖に、何四天王相手に発動させてるんだよ!!」


 ユーウェインがスギハラにそう突っ込むと、スギハラからこう反論が返ってくる。

 二人は共に、相手にオークの王を任せれば大丈夫と信頼していた為に、起きた悲劇であった。


 二人は言い争っていても仕方がないので、それぞれケルベロスとヘラの相手をするために左右に別れて戦いの場に向かう。


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