212話 強敵 三義姉妹


 前回のあらすじ

 紫音の前にエマことサタナエルが立ちはだかり、激闘を繰り広げる。


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 紫音はエマの攻撃を、<女神の秘眼>によって強化された動体視力を使って、紙一重で回避し、躱しきれない攻撃はオーラで強化した脇差で防ぐ。


(よかった脇差だけ抜いて…。この人の攻撃、ケルベロスちゃんよりも重いから、片手持ちだと恐らく防いでもそのまま押し込まれるか、弾かれるところだった…)


 両手で持った脇差で攻撃を防ぎながら、紫音はこのように考えた。


 子供のクロエと違って、大人のエマの力は強く何より年齢の分だけ鍛錬を積んでおり、その技は磨きがかかっている。紫音はエマの攻撃を凌ぎながら、”このまま、凌ぎきれるかな”と正直焦っていた。


 エマも紫音の回避速度と防御技術の高さに、中々有効打を与えられずにいる。


(まさか、これ程とは……。私の疾雷拳と同じくらいの速さなんて……)


 疾雷拳は、<実戦は5秒以内に終わらせよ>という思想に基づき体系化された拳法であり、故にその攻撃スピードはまさに目にもとまらぬ速さで行われる。実際同じくらいのスピードで動け、驚異的な動体視力を持った紫音でなければ、倒されていたであろう。


 紫音とエマが激闘を繰り広げていた頃、クロエは“ケルちゃんインフェルノ”を放つために右手のケルちゃんに魔力を込める。


「地獄の炎に抱かれて消えろ! ケルちゃんインフェルノ!!」


 そう叫んで、自分の足元の地面にケルちゃんを付けた右拳を叩きつけようとした。

 その瞬間―


「ソフィー、チョップ!!」


 クロエの頭にソフィーのチョップが叩き込まれるが、流石に紫音に何度も頭に叩き込まれていたクロエは、周囲を警戒しながら行なっていたため回避することが出来た。

 だが、回避したクロエをアフラが追撃する。


「アフラ~、クロスチョ~ップ!!」


 アフラは両手を前で交差して、クロエに飛びかかるが回避されてしまう。


(今度はソフィーお姉さんに、この前戦った格闘家お姉さんか…)


 クロエは二人を確認すると、そう思いながら疑問に思ったことを二人に質問する。


「お姉さん達! どうして、チョップばっかりなの!?」

「シオンさんがチョップばっかりしていたから、そういう縛りがあるのかな~て!」


 アフラは呑気にそう答えた。

 彼女はそう答えたが、本当の所は紫音もソフィーもアフラも、クロエことケルベロスが人間である可能性があるために、威力のある攻撃を繰り出すことが出来ないだけだ。


 そして、それはクロエの方も同じで、彼女達に最高位魔法を使う気はなく、あくまで目標は他の冒険者である。アフラが答えた後に、ソフィーが続けてクロエにこう宣言した。


「悪いけど、二人で行くわよ!」

「私達<仲良し殺法コンビ>が相手だよー!」


 ソフィーとアフラは、クロエの注意力を割く為に二手に分かれると、2方向からクロエに攻撃を仕掛ける。


「ソフィー、チョップ!!」


 ソフィーはクロエに急加速して近づいて、チョップをするがクロエは回避するが、そこに再び追撃をかけるアフラ。


「アフラ~、チョップ!」


 だがクロエは、アフラのチョップを何とか回避する。


 クロエが二人の連携攻撃を回避できるのは、彼女の戦闘能力の高さもあるが、チョップが来ると解っているからであった。とはいえ、この二人のコンビネーション攻撃を回避するのは中々厳しく、少しずつ追い込まれていく。


 そのクロエが苦戦している姿を、本拠点の城壁から見ていたアンネは新しいお友達を救援に向かわせる。


 ソフィーが、クロエに攻撃を仕掛けようとした時―!


「ヒヒーン!」

「何!?」


 馬の鳴き声が聞こえ、ソフィーが咄嗟にその方向を見ると灰色の8本足の可愛い馬が、彼女目掛けて走ってきた。


 それは、アンネのお友達の一体である『馬の縫いぐるみ スレイプニル』で、馬ではあるが北欧神話に出てくる8本足の馬で、デフォルメされた頭身と短い足でありながら器用に走り、物凄い速さで空を駆けてくる。


 ソフィーは、オーラステップで急加速してなんとか回避するが、側を通り過ぎた時に生じた風圧が彼女を襲い体勢を崩しかけてしまう。スレイプニルの突進は、エイク程ではないがそのスピードからぶつかれば、痛いではすまないだろう。


「まさかあの馬も<ドリフト>とか言うので、高速ターンしないわよね?」


 ソフィーが、心配していると通り過ぎたスレイプニルは、宙に浮き真上にピッチアップしながら空中を駆け、垂直方向にループを半分行ったところで、背面走行(飛行?)状態になったところで、180度ロールして姿勢を水平に戻し見事方向転換を行なう。


 スレイプニルは馬なので戦闘機のマニューバーを使って、方向転換する必要があったのかは疑問であるが……


「あのお馬さん、空中戦闘機動の一つ<インメルマンターン>をしたわ! <インメルマンターン>とは、主に自機の進行方向と反対方向へ通り過ぎた敵機を追跡する際に用いられる空中戦闘機動である!」


 すっかり解説役となったアキが、説明口調でそう叫んだ。


「くうちゅうせん…とうきどう…? インゲン…ターン?」


 側で聞いていたエレナは、初めて聞く単語が理解できずに戸惑ってしまう。


(はっ!? もしかして新しいBLの隠語でしょうか!?)


 ―が、すぐさまこのように考え、とんでもない所に疑問の答えを着地させようとしていた。


 速度を高度に変えたスレイプニルは、急降下することで高度を再び速度に変えながら、ソフィー達目掛けて突進を行なう。スレイプニルの空中からの高速突進に対応することに追われて、ソフィー達はクロエと戦う余裕がなくなり、彼女をフリーにしてしまう。


 その頃、左側ではレイチェルと”クリムゾン”団長アーネスト・スティールが、シロクマのフィルギャと戦っていた。二人は、一人がフィルギャの気を引き付けている間にもう一人が攻撃するという作戦で、少しずつダメージを与えていく。


「まさか、このような愛らしい敵と戦うことになるとは……」


 可愛いモノ(美少女百合・動物)が大好きなレイチェルは、フィルギャと戦うのが正直辛かった。



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