209話 わんわんハンド対お姉さんハンド



 前回のあらすじ

 可愛いヘラジカRのエルクはゴッドレッグを使用して、4WDでFRのような見事なドリフトをおこなう。


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「あまり手の内を見せるなって、言われたけど仕方がない……」


 人間側の魔法使いたちの魔法攻撃で中々前進できずに、このままではまずいと感じたクロエは奥の手を出すことにする。


 クロエは魔法攻撃を回避しながら、”ケルちゃん””ベロちゃん”に魔力を込める。

 そして、”ケルちゃん””ベロちゃん”を装着した両手を上げた。


「いけっ! ケルちゃん! ベロちゃん!」


 クロエの掛け声とともに、左右の手に装着された犬の頭型グローブ”ケルちゃん””ベロちゃん”は、クロエの手から離れてソフィーのロケットのように魔力を噴出しながら飛んでいく。


 犬の頭型グローブ”ケルちゃん””ベロちゃん”は、弓による迎撃を“前足や後足は飾りです! 偉い人にはそれが分からんのですワン!”と、いうような見事な空中機動で回避して”鷲の爪”の上空に向かって飛んで行き、二手に分かれて冒険者達が密集している所にそれぞれ落下する。


「見える! 見えるぞ! 私にも敵が!」


 クロエが1人でそんな事を言っていると、”ケルちゃん””ベロちゃん”が冒険者達の足元の地面に接触した。


 すると、”ケルちゃん”が接触した地面には炎属性最高位魔法“インフェルノ”が、”ベロちゃん”が接触した場所には土属性最高位魔法“アースクエイク”が発動し、巨大な渦を巻いた炎の柱と複数の隆起した岩の塊が、範囲にいた冒険者達を巻き込みながら高く舞い上がる。


 そして、その被害で大混乱になっている”鷲の爪”メンバーを、エルクが突進で跳ね飛ばしていく。


 その頃、左側に布陣する”クリムゾン”にもフェンリルが、襲いかかり被害が出始めていた。


 フェンリルはアンネの魔力によって大きくなっており、その可愛らしい子犬のような姿から、想像がつかないまさに野生の狼のような俊敏さで攻撃を回避し、可愛い前足から飛び出した『フェミニウムβ』製の鋭い爪で、冒険者達を防具ごと切り裂いていく。


 更に、アンネのお友達の一体である『シロクマの縫いぐるみ フィルギャ』も冒険者達を襲っていた。


 フィルギャも縫いぐるみなので、頭身は低くデザインもディフォルメされ可愛らしいが、アンネの魔力で3メートルぐらいの大きさになっており、シロクマなので当然パワーは凄まじい。


 フィルギャは時速40kmで突進して冒険者達を跳ね飛ばし、後ろ足で立ち上がるとフェンリル同様可愛い前足から『フェミニウムβ』製の鋭い爪をだして、シロクマの強力なパワーで冒険者達を次々と切り裂き薙ぎ払っていく。


 しかも、アンネの縫いぐるみ達はオリハルコンで出来た繊維で作られており、同じオリハルコン製かオーラスキルの高い者が強化した武器、もしくは『フェミニウム』で製造された女神武器か魔法でなければ、有効な攻撃ができない。


 だが、三体ともスピードが早いために、足元に魔法陣が現れた途端そのスピードで逃げ出してしまう。さらにぬいぐるみ達はアンネの魔力でダメージを回復させることもできる。


 ”クリムゾン”は大手だけあり、上記の条件を満たしている者が数人おり(女神武器を持つものはいない)、何とか戦線を維持しているがこのまま二体の可愛い猛獣と戦い続ければ、いつまで持つかわからない。


 その頃、右側では”ケルちゃん””ベロちゃん”が左右の手に戻ってきて、装着しなおしたクロエが、前進して戦線が崩壊しつつある”鷲の爪”に、“ケルちゃんインフェルノ”を叩き込みに行く。


 クロエは右手のケルちゃんに魔力を込める。


「地獄の炎に抱かれて消えろ! ケルちゃんインフェルノ!!」


 そう叫んで、自分の足元の地面にケルちゃんを付けた右拳を叩きつけようとする― その瞬間―!


「しお―ん、チョップ!!」


 クロエの頭に紫音のチョップが叩き込まれる。


「痛っ!?」


 クロエは反射的にそう言葉を発したが、実際はクロエの被っている犬型帽子はオリハルコン製なのでチョップぐらいではさほど痛みはない。だが、クロエは突然の頭への攻撃に、ケルちゃんインフェルノを思わず中断させてしまう。


「え!? 何!? なに!?」


 クロエが頭を両手で抑えながら、何が起こったのか周りを見ると背後に紫音が立っていることに気付く。


(シオンお姉さん!?)


 クロエはすぐさま、紫音と距離を取ると彼女に対して抗議する。


「ちょっと、お姉さん! ポーズ中や変身中、それに合体中や技発動中に、攻撃するのは駄目なんだからね! お約束なんだからね!」


 その抗議を聞いた紫音は、クロエにこのように返事をした。


「えっ!? そうなの? 隙だらけだったから、お姉さん思わずチョップしちゃったよ」


 クロエは仕切り直して、再びこのように叫ぶ。


「地獄の炎に抱かれて消えろ! ケルちゃんインフェルノ!!」


 そして、自分の足元の地面にケルちゃんを付けた右拳を叩きつけようとする。


「しお―ん、チョップ!!」


 ―が、紫音はそのクロエにオーラステップで急加速して近づくと、再び隙だらけのクロエの頭に紫音チョップを叩き込んで妨害した。


「え!? えっ!?」


 クロエは再び頭を両手で抑えながら、紫音から距離をとると抗議する。


「おねーさん、話を聞いていた!? 駄目だって言ったよね!? お姉さん、空気読めないってよく言われない?!」


 すると、紫音はこう反論した。


「ケルベロスちゃんの言いたい事もわかるけど、お姉さんは立場上、ケルベロスちゃんの攻撃を邪魔しないといけないの。だから、これからも邪魔するよ! あと、空気読めないとはアキちゃんによく言われるよ!」


 紫音はキリッとした表情で、クロエにそう言い放つ。





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