165話 ランクアップ





 夕食後、紫音達はミレーヌに本拠点攻略時に起きた出来事をあらかた報告する。


「なるほど、本拠点には魔物を作り出していたであろう装置と、新たに3人の強敵出現か……。攻略できたとは言え、こちら側の被害も大きく新たな問題も増えたということか……」


 渋い顔をしながら、報告を聞いてそう感想を述べるミレーヌ。


「そういった理由で、せっかく攻略成功したのに手放しで喜べないんです」


 紫音がそう語ると、ミレーヌは彼女にこう言った。


「まあ、これでトロールからの要塞侵攻は無くなったのだから、良しとすべきだろう」

「そうですね……」


 ミレーヌの言葉を聞いた紫音は、取り敢えず良しとすることにした。


「どうしようかな……。凹んでいるだけだし、修理をしなくてもいいかな……」


 夕食の後、紫音が自室で凹んだ脛当てとお金を見比べながらそう悩んでいると、アキが部屋を訪ねて来たので部屋の中に招く。


「どうしたの、アキちゃん?」


「明日、自宅に帰ろうと思って、その報告に来たの。新作の第一話を描かないといけないから」


「そうか……、寂しくなるね」

「暫くは軍事行動も無いだろうから、また遊びに来てよ」


「うん、そうするね」

「ところで、何をしていたの?」

「実は……」


 紫音は脛当ての凹みの修理をするかどうか、財布の中身と相談していたことをアキに話した。


「それは、修理すべきだよ。お金が無いなら、私が出してあげるよ」

「でも……、返すアテは今のところ無いし……」

「ええんやで。そのフラットボディで、払ってくれれば……」


 アキはエロい手付きで、いつものようにエセ関西弁でそう言ってきた。


「今回は何したらいいの? またステッカーを貼るの?」


 流石に二度目ともなると、紫音も余裕の返しを行なう。


「今回は漫画のアシスタントを頼みたいの」


 アキがそうお願いすると、紫音はこう言った。


「戦闘が続いて、描いてる暇なかったもんね……。でも、そんなことでいいの?」


「そんなこと? 甘いね、紫音ちゃん! 今回は一日では済まない、3日は缶詰で頑張って貰うことになるよ!! 今度の戦場も地獄だぜ!!」


 アキは紫音に向かって、指を3本立ててそう言った。


「3日も……」


 紫音は安請け合いしたことを、後悔しはじめていた。

 翌日、朝食の後に紫音達はミレーヌから、紋章の入った腕章を渡される。


「これはなんですか?」


 紫音の質問にミレーヌは腕章の説明を始めた。


「これは我がウルスクラフト家の紋章だ。今度から外に出る時は、その腕章を腕に付けておくといい。それを付けておけば、君達は我がウルスクラフトのつまり私の傘下に入っているという印になる。そうすれば、先日のように引き抜きにも合わないし、君達に難癖を付けてくることも少なくなるだろう。その紋章を付けている者に手を出すということは、私に手を出してくる事と同じだからな。まあ、そのような愚か者はそうは居ないがな」


「どうして、そんなモノを私達に?」


「昨日の話で、スカウトにあって断ったと聞いてな。相手のアーネスト・スティールが話の通じる相手だから事なきを得たが、相手次第ではどのような難癖をつけてきたかわからないからな、それの防止だよ」


 ミレーヌの説明を聞いた紫音が、そう聞き返すと彼女はこう答え最後に付け加える。


「その紋章を付けるということは、ウルスクラフトの名を背負うということだ。まあ、君達なら心配はないと思うが、くれぐれもその名に傷が付くような言動には気をつけてくれたまえ」


 そう言ってミレーヌは行政府に登庁していった。


「それじゃあ、紫音ちゃん。脛当ての修理に行こうか?」


 紫音達は装備品の修理屋に向かう。

 修理費は3万ミース(3万円)で、3日後に修理が終わるということであった。

 彼女達はその足で冒険者ギルドにランクが上がってないか確認に行く。


「おめでとう、紫音ちゃんは2つ、他のみんな冒険者ランクが1つ上がっているわよ」


 シャーリーが拍手をしながら、冒険者プレートを返していく。

 紫音はEからC、リズとミリアはFからE、エレナはEからD、ソフィーはDからCにランクアップした。


「ありがとうございます」


 冒険者プレートを受け取りながら、一同は感謝の言葉を返す。

「みんな、要塞防衛戦と昨日の作戦で頑張ったのね。これなら、スキルも上がっているかもしれないわね。教会に確認しに行ってみたら? これからも頑張ってね」


 こうして、一同はシャーリーの言葉を受けて、フェミニース教会に向かってスキルプレートの更新を行う。


 エレナは、ここ最近の回復魔法による負傷者の回復をおこなっていたことによって、それに関係するスキルが上がっており、総合スキルがFからEに上がっていたが、他の者達もスキルの数値が少し上がっていたのだが、総合スキルが上がる程ではなかった。


「エレナさん、おめでとうございます」

「おめでとう、エレナさん」

「おめでとうッス」


「おめでとう…ございます……」

「おめでとう、同士エレナ!」

「みなさん、ありがとうございます」


 エレナは嬉しそうにみんなの祝福の言葉に、感謝の言葉を返した。


「よし、いいこともあった所で、行こうか年上ズ! 我が屋敷に、漫画を描きに!!」


 アキがそう言うと、目の前にカリナが操縦するハチマルイチ(801)号が停車する。


「先生、私頑張ります!」

「ありがとう、エレナさん」


「私もできるだけ、頑張るよ……」

「最初から、弱気じゃ駄目だよ紫音ちゃん!」


「どうして、私まで行かなきゃなんないのよ!」

「ソフィーちゃん、困った時はお互い様だよ!」


 正論を主張して、拒否するソフィーにアキはそう言って、無理矢理ソフィーを馬車に乗せる。


「年下ズは寄り道せずに、屋敷まで帰ること!」

「はい!」


 アキの迫力ある言葉に、リズ達は思わず素直な返事を返す。

 年上ズを乗せた馬車は、801御殿を目指し嵐のように走り去っていった。

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