164話 魔王軍幹部会議





 走り去る紫音を、クリスが呼び止めようとする。


「待って、シオン! まだ話したいことが……」

「待ってください、クリスさん。紫音ちゃんは、このまま行かせましょう」


 だが、そのクリスの呼び止めをアキが途中で遮った。


「しかし、まだリーベの事で話したいことが……」


「もし、リーベが私達と同じ転生した存在なら、魔王側に付いている事を女神様が黙認しているって話ですよね?」


「アキもそう思うのね……」


「はい。そうなると、女神様は紫音ちゃんやクリスさんには魔王を倒せと言っておきながら、一方では魔王軍が強化されることに、間接的に加担しているかもしれないってことですよね?」


「女神様は魔王システムを維持したいのか、それとも討伐させたいのか……。本心がどちらかなのか解らないわね」


 クリスはそう自分の考えを述べる。


 アキがクリスを止めたのは、紫音が敬愛するフェミニースが自分に魔王を倒して活躍しろと言っておきながら、一方で魔王側にも加担していると知った時、女神への信頼が揺らいでしまい戦うことに疑問を持って、今のような打倒魔王の気持ちを維持できるかと疑問に思ったからだ。


「紫音ちゃんには、この推察は暫く黙っておきましょう。でないと、敬愛しているフェミニース様が魔王側に加担しているかもとなったら、ショックを受けるかも知れませんから」


 クリスにそう提案して、彼女もその方がいいと賛成する。


(私に続いてシオンをこの世界に送り込んできたのだから、魔王を打倒したいからだとは思うけど……。では、女神様は魔王を打倒した後、リーベをどうする気なのかしら……)


 クリスはそう思いながら、女神の真意を測りかねていた。

 紫音が馬車の所に戻ってくると、ユーウェインの演説が始まる。


「諸君! 我々は犠牲を払いながらも、獣人本拠点の一角であるトロール本拠点を壊滅させることが出来た。諸君らと傷つきこの場に居ない者達の命をかけた戦いのおかげで、これよりトロール軍の侵攻に怯えることはなくなった。残り獣人本拠点は三箇所あり、魔物との戦いはまだ続くが、これからも諸君らの戦いに期待する!」


 彼の演説が終わると、参加者達は馬車に乗って帰還の途につき始める。

 紫音達も馬車に乗ると、アルトンの街に向けて馬車を走らせた。


 数時間馬車の中で揺られていると、アルトンの街が見えてくる。

 1日しか街を離れていなかったのに、何故か懐かしく感じてしまう。


「よし、帰ったらとりあえずシャワーを浴びて、少しベッドで寝よう」


 紫音はそう思いながら、近づいてくるアルトンの街を眺めていた。


 その頃、魔王城の一室―


「皆此度の撤退戦ご苦労であった」


 魔王の労いの言葉に、クナーベン・リーベは畏まってこう答える。


「もったいないお言葉、恐れ入ります」

「しかし、トロール本拠点を放棄してもよかったのですか?」


 サタナエルの質問に魔王はこう答えた。


「まあ、今回は良しとしておこう。まだ、獣人本拠点は3箇所あるしな」


 ケルベロスが魔王に対して、戦闘狂キャラのようなセリフを口にする。


「魔王様、今度はアイツら全員殺して、冥府に連れて行ってもいいですよね?」

「私が許す……、ころせ」

「ははっ! 冥府の番犬ケルベロスにおまかせを!」


 魔王の返事にケルベロスは喜び勇む。


「…………」


 ヘルは黙っている。


「ヘル、次はアナタの台詞よ」

「セリフ……、わすれちゃったの~」


 リーベがヘルに囁くと、少女は泣きそうな顔でそう言ってきた。


「よし、今回の魔王軍風シリアス会議ごっこは終了にしましょう」


 魔王がヘルことアンネの泣きそうになっているのを見て、早々に茶番劇の中止を宣言する。

 こうして、ケルベロス提案の”魔王軍風シリアス会議ごっこ“は幕を閉じた。


「ところで、魔王様。次からの人間達の戦闘に、私達も参加するんですよね?」


 ケルベロスことクロエが質問すると、魔王はこう答える。


「そうね……。その時の状況によるわね。本来ならアナタ達3人は切り札として、人間達がこの魔王城に攻め込んできた時に初めて出撃させて、”初見殺し”してやろうかと思っていたの。だから、本当はアナタ達3人に戦闘させたくないの。戦闘すればするほど、人間達に対策を練られてしまうから」


 魔王の話を聞いたサタナエルことエマは、呆れ顔でこう言った。


「魔王様もう遅いです。クロエは前回の戦いで調子に乗って、手の内全部見せました……」


 それを聞いたクロエは、こう言い訳をする。


「私、たまにあるんだよね…。戦闘中にブチ切れて…、記憶が飛んだりとかさ……。だから、全部出したかは、覚えてないね!」


 そして、いつの間にか黒いコートを着用していた。

 前回の戦いで見たクリスの影響だ。


「まあ、人間達も今回の戦闘でかなり消耗しているだろうから、軍事行動は暫く起こさないと思うわ。だから、私達も暫くはゆっくりしましょう。では、今日の会議はこれで終了にしましょう」


 お仕置きで、両ほっぺをリーベに抓られているクロエを横目に、魔王はこう言って会議の終了を宣言する。


 そして、舞台は再び紫音達のいるアルトンの街に戻る。

 紫音がミレーヌの屋敷に帰ってきて、シャワーを浴びてから眠むって目が覚めると、すっかり外は夕焼けになっていた。


 屋敷の外で夕食まで体を動かしていると、ミレーヌの馬車が帰ってきて、中からアリシアが出てくると彼女は紫音の両手を自然に握りながら、それに気付かれないように言葉を捲し立てる。


「シオン様、元気そうで何よりです。レイチェルから、シオン様が疲れて顔をしていたと聞いていたので、わたくし心配していたのです」


「さっきまで、寝ていたからもうマシだよ」


 紫音は笑顔のまま握られた両手をほどこうと、手をブンブンと振るがアリシアは離さない。


「そうですか、それはよかったです。昨日の作戦はとても活躍なさったそうで、わたくしも親友として鼻が高いです」


「ありがとう……」


 紫音の言葉を聞きながら、アリシアは笑顔のまま紫音の両手を握りしめ続けた。


「今日二回目の美少女同士のキャキャウフフが見られるとは……、女神様ありがとうございます!」


 その光景を馬車の中から見ていた、レイチェルが今日二回目の女神への感謝の祈りをおこなう。


「仲良くしている所を悪いが、そろそろ帰らないと寮の門限ですよ、アリシア様」


 丁度行政府から帰ってきたミレーヌが、馬車から降りて来てアリシアに早く帰ることを促した。


「残念です……。シオン様、それではまた今度会いましょう」


 アリシアは名残惜しそうに馬車に乗ると、窓から顔を出して紫音の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


(相変わらずグイグイ来るな、アリシアは……。でも、アリシアの笑顔を見ていると、何かホッとするな……)


 紫音もアリシアが見えなくなるまで手を振り続けると、そう思いながら屋敷の中に入り食堂に向かう。


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