159話 語らう二人とそれを見る腐女子





「ところで、昼間は悪かったな……。オマエの覚悟を邪魔しちまって……」


「いや、正直助かったと思っている。あのまま、戦っていても俺はやられていただろう……。そうなっていれば、こうやってコーヒー片手にオマエと話をしている状態じゃなかっただろう。カシードにも、礼を言っておいてくれ」


 ユーウェインは自らの意思ではなく、スギハラによって無理矢理後方に運ばれたということで、部下からの彼への信頼は低下しない。


 よって、彼はスギハラとカシードに感謝しているが、あくまで無理矢理運ばれたという体を保つために、表立って礼を言いうことはできなかった。


「わかった、アイツには後で言っておくよ」


 スギハラもカシードも、彼の立場は解っているのでその対応に文句はなかった。


「しかし、実際オマエ達が援軍で来てくれなかったら、この戦いはもっと辛い戦いになっていただろうな」


 ユーウェインのこの感想にスギハラがこう答える。


「その点は、”龍の牙”とダーレン・ウィンターに感謝だな。彼らがオーガへの復讐心と”人類の命運のかかった作戦に、少しは役立ちたい“という思いで、任務を代わってくれたおかげだからな」


 スギハラの意見を聞いた、ユーウェインは盟友の人の良さに忠告を込めて、自分の推察を話し始めた。


「オマエは、相手の言うことを真に受けすぎだな。人類の命運のかかった今回の作戦に、少しでも協力したいという気持ちもあったろうが本当の目的は違うだろうな」


「というと?」


「そもそも別に任務がなくても、復讐の為にオーガを攻める事はできた筈だ」

「壊滅して戦力が低下していて、今までやれなかったんじゃないのか?」


「それで、今回都合よく戦える戦力になったと?」

「違うのか?」


 スギハラの質問に、ユーウェインは自分の推察を話し続ける。


「俺の読みでは、ダーレン・ウィンターは今回の様な劇的な状況を待っていたのさ。本拠点侵攻作戦には戦力低下で活躍できなくても、オーガの間引き任務なら遣り様はいくらでもあるからな。自分達が代わったことによって、オマエ達“月影”が侵攻作戦で活躍して作戦が成功し、自分達もオーガ間引き任務を全うすれば、落ちた“竜の牙”の名声も少しは上がるだろう」


「この機会に、自分達の復讐と落ちた名声を少しでも上げる、一石二鳥を狙ったってことか……、食えないおっさんだな……。けど、ウィンターの本音がどうであれ、俺達がこっちの戦いに来られたのは、そのおかげだろう? なら、感謝しても良いんじゃないか?」


「そのとおりだが、俺が言いたいのは、人の善意を真に受けずに少しはその裏を疑えってことさ。でなければ、いつか痛い目にあうぞ」


 ユーウェインの忠告にスギハラはこう答えた。


「大丈夫さ。うちにはその辺りの事を見抜いてくれる、頼りになる優秀な副団長がいるからな」


「オマエ、クリス君に頼り過ぎだろう……」


「俺はオマエみたいに1人で背負い込むじゃなくて、頼れる仲間には頼ることにしているんだよ」


「司令官とは自ら率先して物事を行い、その姿を部下に見せて信頼を勝ち取るものだし、頼られる事はあっても、頼ることは余りしないほうがいいと俺は思っている」

 これは二人の上に立つ者としての、考えの違いであり二人はそれが解っていたので、これ以上話しあわなかった。


「じゃあ、俺は自分のテントに戻るぜ。今日は疲れたからな」


 スギハラがそう言って、立ち上がるとユーウェインも立ち上がって、盟友に手を差し出しこう言って、握手を求める。


「スギハラ、これからもよろしく頼む」

「ああ、こっちこそな」


 スギハラも彼に手を差し伸べると二人は固い握手をする。

 そして、彼はその場を後にして自分のテントに戻っていった。


 それを、見ていたアキとカリナ、エレナが目で何か訴えあった後に、興奮してお互いに握手しあっている。


「きゃ~! 見ました先生!? イケメン二人が見つめ合って、熱い握手をしていましたよ!?」


 そして、エレナが少し興奮気味に、アキに言うと


「見ていたよ、エレナさん。イケメン二人が見つめ合って、手を繋いでいたね! カリナさん、あのお二人って昔からあんな関係なんですか?! やっぱり、そういう関係なんですか?!」


 アキが腐女子全開の質問をカリナにすると


「さあ、真相は私にもわかりませんが、私が騎士団にいた時から、お二人の仲はとても良くて、一部女性団員にはそうではないかと噂になっていて……、大変お世話になりました。(意味深)」


(※もちろん、二人は親友なだけです)


「この目の前で起きた“尊い”出来事を、心のSNSに書き込んでおこう」

「お二人は、握手していただけだよね!? 自分好みに腐らせて、真実を捏造しているよね!?」


 紫音が腐女子幼馴染の妄想全開発言にツッコミをおこなうと、アキは透かさずこう言い返す。


「紫音ちゃん、私達はそんなことは解っているんだよ。解った上で話をして、盛り上がってるんだよ……」


 続けてエレナもダメ出ししてくる。


「私はシオンさんのその真っ直ぐな所は素敵だと思いますが、今回はどうかと思います……」


「シオンさんも、学生ではなくて社会に出ているんですから、”空気を読む”というのを覚えたほうが良いですよ……」


 最後にカリナが、社会人の先輩として窘めてくる。


「ひどい!!」


 三人の冷めた表情から放たれた“この娘、空気読めないな”というような言葉に、すっかり凹んでしまった紫音であった。


「ソフィーちゃん~!! 三人が冷たい表情で、キツイ言葉を浴びせてくるよ~!」


 紫音は傷ついた心を慰めてもらおうと、半泣きでソフィーに抱きつく。


「何でもかんでも、突っ込むからそうなるのよ。今度からは気をつけなさい! あと、焚き火で少し暑い所に抱きついてくるんじゃないわよ! 余計に暑くなるじゃない!!」


 だが、そう言った彼女に、引き剥がされてしまう。


「アリシア様×シオン君が正義だと思っていたが、このカップリングも悪くない!!」


 その美少女二人の絡みを見ていたレイチェルは、心の中でそう思っていたつもりだったが、興奮の余り全部口に出てしまう。


「レイチェルさん、心の声がダダ漏れです!!」


 それに対して、紫音は今回最後のツッコミをおこなった。

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