145話 判断





 ユーウェインとスギハラが、どちらが女神武器を使うかで揉めていた頃、紫音はキリマンジャロの攻撃を「敵の動きが… 見える!」と、頑張って回避していた。


 二人が譲らないのはお互いが相手の実力を認めていて、相手こそがエベレストと戦うほうがいいと思っていたからである。


「オマエだって、自分のクランで戦いの指揮をしているんだから、できるだろう!」


「自慢じゃないが指示は優秀な副官に任せているから、俺は指示をほとんどしていない!」


 スギハラは能力があるものが担当するほうがいいと思っているので、自分より優秀だと思っているクリスに基本戦闘指示は任せていて、彼は団員を鼓舞したり緊急時に指示を出したりしていた。


 二人が言い争っていると、リディアがユーウェインに進言してくる。


「隊長! このまま言い争っていても、時間がもったいないだけです。ここはスギハラ殿に任せましょう」


「そうだな……。スギハラ、お前に任せる!」

「おう! 任せとけ!」


 スギハラはそう返事をすると、彼らの足元にキリマンジャロの唱えた魔法陣が現れた。


「何!?」

「魔法だ、回避しろ!!」


 ユーウェインは咄嗟に回避指示を出して、自身も魔法陣内から退避する。

 魔法攻撃を受けたのが、ユーウェイン、スギハラ、クリス、リディア、レイチェルであったため、素早く反応し回避したため被害はなかった。


「ヤロウ……、やってくれるな。副団長、魔法で援護を頼む。俺は死角から奴の右足を斬る」

「了解です」


 魔法を回避したスギハラはすぐさまクリスに指示を出しながら、キリマンジャロの方に向かって歩いていく。


「では、左足は私が切り捨てよう」


 レイチェルが二人の話し合いに入ってくる。


「注意を引くのは……、あのままシオンに頑張ってもらいましょう」


 クリスがシオンに申し訳なそうにそう言うと、残り二人も同じように申し訳無さそうな表情をしながら頷く。


「逃げ回れば、死にはしない!」


 どこかで聞いたことがあるような台詞で、紫音がキリマンジャロの攻撃を回避しているとスギハラとレイチェルが、キリマンジャロの背後に移動しているのが見えた。


 紫音が攻撃を回避すると、クリスの魔法がキリマンジャロに撃ち込まれる。

 それと同時に女神武器の特殊能力を発動させたスギハラとレイチェルが、キリマンジャロに突っ込んでいく。


「アイツ等、デナリの時のようにキリマンジャロの足元に行って、足を攻撃するつもりね……。そうはさせるか!」


 それを上空から見ていたリーベは魔王に指示された通りにこの状況に対して、キリマンジャロに命令を出す為に対応策を思考する。


(魔王様から、事前に伺っているこの様な状況への対応策は2つ。足元に魔法か震脚を使わせるか……)


 リーベは悩んだ、どちらの対応策にも一長一短があるからであった。

 魔法はキリマンジャロ諸共になるが、土属性耐性のあるトロールならダメージは少なく、人間のほうが遥かにダメージを受けるであろう。


 とはいえ、少なからず魔法によるダメージを受けるし、コアの魔力を消費するため結果的に耐久値を減らすことになるので、震脚なら近づいてきた人間達の体勢を崩せて、その隙を攻撃できる。


 だが、震脚は片足を上げてそれを力いっぱい地面に踏み降ろす技であるため、踏み降ろす前に支えている無防備な足を攻撃されれば逆に体勢を崩して反撃を受けてしまう。


 現に前回の要塞侵攻作戦でアコンカグアが、震脚途中に紫音に支えていた足を切断されて、そこからフルボッコにあって撃破されている。


 リーベはスギハラ達が足元に着くまでの刹那の間に、どちらにするか決断しなければならない。彼女は魔法に決めて、薙刀に魔力を込めて命令を出そうとした瞬間、彼女は第三の対応策を閃く。


「そうだ!! 支えている足が危ないなら、攻撃されないように両足が宙に浮けばいいんじゃない! 高くジャンプさせてその落下による衝撃波の攻撃! これだわ!!」


 リーベはこの会心の閃きを天啓と感じ、キリマンジャロにジャンプする命令を出すとその命令を受けたキリマンジャロは、スギハラ達が足元に来る前に高くジャンプした。


「なにっ!? またかよっ!!」


 跳躍という虚を突かれたスギハラとレイチェルであったが、すぐさま反転し落下地点から退避する。


 何とか落下地点からの退避に間に合った二人であったが、キリマンジェロの巨体による落下による地面の揺れで体制を崩し、そこに衝撃波を受けて地面を数回転がって無防備な姿を晒してしまう。


「今よ、キリマンジャロ!」


 リーベの攻撃命令を受けたキリマンジャロが武器を振りかぶって、右側の少し離れた所で地面に倒れているスギハラに攻撃しようと右を向いて一歩踏み出そうとした瞬間、まるで両足の力が抜けた様な感じでその場に両膝をついて動けなくなってしまった。


「どっ、どうしたの、キリマンジャロ!?」


 キリマンジェロは奇襲するために、グリフォンに吊るされて上空から落下した時の衝撃で、両足にかなりのダメージを受ける。


 その後にユーウェイン達から少しずつダメージを受け、更に魔法攻撃を数回したことによってコアの魔力を失い、体を構成する魔素が弱くなりそれに伴い両足の耐久値を更に失っていたのであった。


 そして、今回のジャンプ攻撃の両足への負担によって、遂にその巨体を支えるだけの耐久値を両足から失ったのである。


 魔王がジャンプ攻撃を対応策から外していたのも、その懸念があったからであった。

 リーベ痛恨のミス!!


「どうして今日に限って……!」


 あらゆる読みが裏目に出てしまうリーベ!!!


「…いやっ……まだ、やられた訳じゃない……。武器で牽制しつつ、死角からの攻撃には魔法攻撃…これで、問題ないっ……」


 …が……! リーベまたもや誤算! なんと、ヒンヌー娘がまさかのオーラ溜め! しかも、オーラを既にかなり溜めている!


 それもそのはず! ヒンヌー娘はキリマンジャロがジャンプ攻撃する前から溜めており、その怯懦な性格から距離をとっていたため、ジャンプ攻撃の被害に遭わなかった!


「いっけぇーーーー! ホライゾン・ブレスト(哀)!!!」


 ヒンヌー娘の大きな光波が、キリマンジェロ目掛け飛び、見事に膝の上辺りに命中!

 しかも、ご丁寧に横薙ぎで振った為にキリマンジャロの両足を見事に切断!!

 リーベの希望と共に、崩れ落ちるキリマンジャロ!!


「なんで私だけこんな目にっ……!」


 リーベ圧倒的後悔!!!


 体勢を立て直し縮地法で、倒れているキリマンジャロに接近したスギハラは、スギハラは、跳躍すると両手で持ったオーラを溜めた刀をエビ反りになるまで後ろに振り上げ、エビ反りからの強力な振り下ろしと落下の勢いが足された強力な一撃を、叩きつけるようにキリマンジャロの右手に放つ。


「地鳴!!」


 その強力な斬撃を受けたデナリの右手は見事に切断された。

 続けて、左手にオーラステップで加速してきたレイチェルが体を思いっきり捻って、オーラ噴出で斬撃スピードを更に加速させたオーラを溜めた、ゲイパラシュを力いっぱい叩き込む。


「アクセルスピンブレイクスマッシュ!!」


 レイチェルの強力な一撃を受けた、キリマンジャロの左手は胴体から切り離された。


「そんな……」


 リーベは自分の勝手な判断によって、招いてしまったこの結果に愕然とする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る