144話 魔王と双剣の過去




 ロールはビッグ・フォーに、エベレストの前に立つように命令を出す。


「ビッグ・フォー、防御に徹して!」


 ビッグ・フォーは命令を受けるとエベレストの前に立ち、装甲シールドが備えられた両腕を前面に構えて防御に徹する。


 エベレストのモーニングスターが、ビッグ・フォーの装甲シールドに容赦なく叩き込まれるたびに激しい衝突音が戦場に鳴り響き、其のたびにビッグ・フォーの耐久値が削られていく。


「ソフィーちゃん。悪いけどカムラードさんに”長くは持たないから、そちら側の早めの決着をお願いします”って、伝令を頼みたいんだけど」


 ロールはソフィーに緊迫した表情で、伝令の言付けを頼んだ。


「わかったわ!」


 ソフィーはそう返事をすると、すぐさま自慢の俊足でユーウェインの元に向かい、ロールの言葉を彼に伝える。


「そうかアキ君が……」

「はい、かなり不味そうな顔をしていました」

「スギハラと打ち合わせをするか……」


 ユーウェインは、スギハラ達のいる右側の部隊に急いで移動する。

 右側の部隊まで来ると、丁度スギハラがキリマンジャロの注意を引いていた。


「シオン君、スギハラと作戦を練りたい。悪いがアイツと代わって欲しい」


 そこでユーウェインは、胸が揺れない事で回避運動に定評のある頼れる回避盾紫音にスギハラとの交代を依頼する。


「わかりました」


 彼女は快く依頼を引き受けキリマンジャロの元に向かうと、代わりにスギハラが戻ってきた。


 スギハラが戻ってくると、ユーウェインはさっそく作戦を伝える。


「今アキ君のゴーレムがトロールの王の攻撃を受けてくれているが、そう長くは持たないらしい。そのためキリマンジャロを、できるだけ早く倒さなくてはならなくなった」


「そうか……。なら、デナリを倒した時と同じ作戦で行くしか無いな。俺とシオン君が奴の死角から、それぞれの足にダメージを与える。これで、デナリを20分ぐらいで倒した」


「いや20分では、恐らく間に合わないだろう。俺が女神武器の特殊能力を使って、奴の足と腕を破壊する。その後にレイチェルが同じく女神武器を使って、更にダメージを与えてくれ」


「ちょっとまて。女神武器を使ったら、お前は暫くまともに動けないだろう? トロールの王との戦いの指揮は誰が取るんだ?」


 ユーウェインが、そこまで作戦を説明するとスギハラが反論するが、その彼の反論にユーウェインはすぐさま答える。


「スギハラ、オマエに決まっているだろう。だから、戦闘中にわざわざお前と作戦の話をしているんだろうが」


「あぁ!? 何言ってんだ! だったら、俺が特殊能力を使うから、オマエが指揮をしろ! 俺よりオマエが指揮するほうが、絶対いいに決まってんだろうが!」


「あぁ!? オマエはどうして年下のくせに、毎回俺の指示に従わないんだ! 三年前の魔王との戦いの時も、俺の撤退指示を無視しやがって!!」




 三年前王都前のコンテーヌ平原で、魔王と騎士団が激突した。

 だが、魔王城前から緊急帰還命令を受けて、強行軍で引き返してきた騎士団は疲労のため本来の力が出せずに、魔王相手に次々と撃破されていく。


 そして、その損耗率から騎士団団長は城への退却命令を出し、その殿を引き受けたのがユーウェインとスギハラであった。


 二人は必死に魔王相手に、仲間が撤退する時間を稼いだ。

 だが、仲間が撤退した頃には二人はもう疲労困憊で、魔王に倒されるのは時間の問題であった。


「スギハラ、味方は撤退したか!?」

「ああ、何とか撤退したみたいだ」


「じゃあ、オマエも撤退しろ! その間ぐらいは、俺一人で魔王を引き止めてやる!」

「はぁ!? 何を言っているんだ! オマエ一人置いていけるか!!」


「馬鹿野郎! 二人揃ってやられたら、誰が後で魔王を倒すんだ! ここで、死ねばスキルが下って、元に戻すのに何年後… いや、何十年後になるんだぞ! そうなれば、魔王を倒すのなんて、夢物語になってしまうんだぞ!」


「だったら、オマエのほうが人望も才能もあるんだから、俺よりオマエが生き残るべきだろうが!」


 スギハラがこのように言ったのは、自己評価が低く自分自身を高く評価していないこともあるのだが、彼は親友であるユーウェインを本当にそう高く評価していたからであった。


「年下は大人しく、年上の言うことを聞けばいいんだよ!」

「年上って言っても、早生まれで半年だけじゃねえか!」


 とは言ったものの、スギハラは内心では彼のことを親友であり、ライバルであり何より頼りになる兄貴分みたいに思っている。だから、彼は生き残って騎士団を率いて魔王を倒すのは、彼のほうが自分よりも相応しいと本気で思っていた。


 なので、彼も引き下がることが出来ない。


「いいから、早く行け! こういう時ぐらい年上にカッコつけさせろ!」


 ユーウェインの言葉に、スギハラはこう答える。


「いや、やっぱり生き残るなら俺よりオマエだよ! 後は頼んだぜ、縮地!」


 そして、彼はユーウェインを逃がすために残ったオーラを使って、縮地法で魔王に急加速で接近して斬りかかった。


「馬鹿野郎が!!」


 ユーウェインは、自分を逃がすために無謀に突っ込んだスギハラを見捨てることが出来ずに、彼に続いて残ったオーラを使ってオーラステップで魔王に近づいて斬りかかる。


 魔王は二人の攻撃を左手で張ったマジックバリアで楽々と防ぐと、右手から衝撃波を出して二人を吹き飛ばす。


「ぐわっ!」

「ぐぅ!!」


 衝撃波を受けて、地面を2メートル程転がる二人。


「おい、馬鹿野郎……。生きているか……?」


 ユーウェインはそう言いながら地面に剣を刺して、それを支えにしながら立ち上がろうとする。


「ああ……、何とかな……」


 スギハラも地面に刺した刀を支えに、そう返事しながら立ち上がった。

 何とか立ち上がった二人に対して、魔王は興奮を抑えながらあくまで冷静に話しかける。


「わた… 我の目的は果たしたからな……。こっ、今回は二人の健闘と友情を評して見逃してやろう。次会う時までにせいぜい強くなって、我に勝てるようになっていることだな」


 そして、そう言って魔王は懐からロッドを取り出して魔力を込めると、空からグリフォンが飛んできてその背中に乗って、空高く飛び去っていった。


「イケメン二人の熱い友情のやり取り、ごちそうさまでした~」


 魔王は飛び去りながらに、そう言ったが二人には聞こえない。

 こうして、二人は魔王に何故か見逃されて死なずに済んだ。

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