142話 地平線に





 前回のあらすじ

 何故かトロールに狙われる紫音、その理由は目立つ銀色に光るミスリル装備の為であった。

 そのうち光るものを集める習性のあるドラゴンに、攫われて宝物の一部にされてしまうのではないだろうか……


 #######


 倒れたデナリの耐久値を削り切るために、4人は強力な攻撃を続ける。


「双刀連斬!」


 紫音は、オーラを溜めた二刀流で連続斬りを放つ。


「スピンブレイクスマッシュ!」


 レイチェルは、オーラを溜めたゲイパラシュを力いっぱい叩き込む。


「ウォーターストーム!」


 クリスの上級水属性魔法が、倒れたデナリの胴体部に放たれ強力な水流を伴った嵐がダメージを与える。


「火天!」


 スギハラはオーラを溜めた刀を、示現流の『蜻蛉』と呼ばれる構えに似た構えから、デナリの頭に火の如く左右に激しく斬撃を繰り出す。


 他の”月影”メンバーも、前衛はデナリの体のどこかを近接で斬撃を繰り出し、後衛は魔法攻撃に注意しながら魔法攻撃を撃ち込んだ。


「何かコッチが悪者みたいね……」


 今までにない数でのフルボッコに、それを見ていたソフィーは何か気まずい気持ちになる。


(いやー、あの風景はMMORPGの大規模戦イベントにおける、最後のボスに群がるPC達を思い出すね。それで強力な範囲攻撃を受けて、ボスの周りに死体が山積みになるまでが、あるあるなんだよね~)


 アキはその光景を見て、昔プレイしていたオンラインゲームを思い出して、懐かしく思っていた。


 彼女が思い出に耽っていると、デナリに攻撃をしていた前衛の足元にキリマンジャロの唱えた魔法陣が現れ、デナリ諸共逃げ切れなかった者達にダメージを与える。


「野郎! 敵味方お構いなしか!?」


 なんとか反応して難を逃れたスギハラは、そう苦々しく吐き捨てる。そして、味方ごと魔法攻撃をしてくることを読めなかった判断の甘さを後悔する。


「無事な者は、すぐさま負傷者を回復役の場所まで連れて行って!」


 クリスはすぐさま負傷者の搬送指示を出す。


 紫音はデナリの上に乗って攻撃をしていた為に、少し反応が遅れた為に左足だけ魔法攻撃を受けてしまったが、魔法耐性のあるミスリルの脛当てのおかげで、ダメージは軽症ですんだ。


「ああ……、高価な脛当てが凹んでる……。修理費が……」


 その代わりに脛当てが凹んでしまい、それを見た紫音は気持ちも凹んでしまう。


 普段の紫音ならこのまま“もう帰ろう”となるところだが、女神の秘眼で精神が強化された彼女は凹まされたことに対して、沸々と怒りが込み上げてきた。


 魔法を放ったのがキリマンジャロだと認識していない紫音は、魔法を使ったのはデナリだと思いその怒りを向ける。


(この修理費どうしてくれるのよ! せっかくお金に余裕ができたら胸が大きく見える服を買って、もうソフィーちゃんに地平線胸なんて言わせないって思っていたのに! おかげで、私のバストアップ計画は地平線の彼方まで飛んでいったじゃないの!!)


 紫音は自分のささやかな胸を大きく見せるための、『ささやかな乙女の願望計画』を台無しにされた怒りを、オーラと共に刀に宿していく。


「燃えろ! そして、怒りと共に猛り狂え、私のオーラ!」


 紫音はオーラを刀に溜め込むと、裏山昇龍波を放つ為に脇構えでいたが、地面に倒れているデナリに対して切り上げる技は有効ではないと判断し、上段に構え直してそのまま振り下ろした。


「いっけぇ-! 裏山昇…えーっと、スゴイオーラウェイブ(仮)!!」


 放たれたオーラウェーブは、卒業試験でロックゴーレムの左腕どころか体の左半分を削り取った、あの大きな光波となってデナリ目掛けて飛んでいく。


「グオォォォォォォォ!!」


 スゴイオーラウェイブ(仮)を受けたデナリは、断末魔の声をあげながら頭から縦に真っ二つとなって魔石へと変化した。


「乙女のささやかな夢を奪った罪は重いんだから!」


「よくやったわ、シオン!」

「シオン君、すごい技だったね」


 紫音がほぼ八つ当たりで攻撃したとも知らずに、周囲の人間は彼女を褒め称える。

 デナリを撃破した紫音達は休憩を兼ねて、薬品を飲んで消耗したオーラやMPを回復させることにした。


「さあて、カムラードを手伝いに行くか!」


 スギハラの号令とともに戦える者は、キリマンジャロと戦っているユーウェイン達の側に向かう。アイアンゴーレムを倒したアキ達もキリマンジャロに近づいてくる。


 それにより、キリマンジャロは三方向から囲まれることになった。


「アキちゃん、来てくれたんだね!」


 紫音は大回りでアキの元に来ると嬉しそうにアキに声をかける。


「まあ、この世界の人類の未来のかかった作戦だから、手伝おうと思ってね。あと今の私は『交渉人』ロール・スイスだからね!」


 その嬉しそうな親友の姿を見て、アキは最後に紫音に指をビシッと指してそう言った。


「今回のゴーレムは強そうだね」

「その分魔力と時間が掛かって、戦うのが遅れたけどね……」


 アキの側に立っている黒い鉄のゴーレムを見て、紫音がそう感想を述べるとばつが悪そうな顔で返事するアキは、すぐさま紫音のことに話題を変える。


「ところで見ていたよ。紫音ちゃんの最後に放った技、凄かったね」


「技名がまだ決まって無くて、スゴイオーラウェイブ(仮)なんだ。何かカッコいい名前ある?」


 紫音はゲーマーのアキに、カッコいい技名を知っていないか聞いてみた。


「そうだね……。『ごっついオーラウェーブ』はどうかな?」

「もう、ちゃんと考えてよ!」


「由緒ある必殺技の名を参考にしたんだけど……」


 アキは紫音に却下されたので、新しい名前を考え彼女に発表する。


「じゃあ、ホライゾン・ブレストはどうかな?」


「ホライゾン・ブレスト……、ちょっとカッコいいかも……。ん? ホライゾン・ブレスト……」


 紫音はホライゾンとブレストの和訳を思い出す。


「ホライゾンは地平線、ブレストは胸……、地平線胸じゃない! アキちゃんのバカーーーー!!」


 怒りの余りにアキの腕をバシッと叩くと、紫音はスギハラ達の方に半泣きで走って行った。


「相変わらずかわいい反応するなぁ、紫音ちゃんは……」


 彼女に叩かれた腕を擦りながらそう呟く。


「倒錯した愛情表現ね……」


 その二人のやり取りを見て、ソフィーは呆れた表情で言った。

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