114話 巷に雨の降るごとく




 前回までのあらすじ?


「燃えろ、私のオーラ!」


 紫音は自分の内にあるオーラを燃焼させる。


「品乳座紫音の最大奥義、裏山昇龍波!!」


 そして、彼女の放った裏山昇龍波は、見事瀑布を逆流させるのであった。


 ######


 滝を逆流させた紫音に皆が彼女を称えるために、滝の近くに近寄ってくる。


「みんな、どうだった? 私の裏山昇龍波は……」


 紫音がそこまで言ったその時―

 ハイパーオーラウェイブと共に空中に舞い上がった滝の水が、大雨のようになって一同を襲う。


 一同は不意の大雨のような滝の水で、びしょ濡れになってしまった。


「…………」


 ずぶ濡れになった一同は黙りこんでしまって、辺りに気まずい沈黙が流れる。

 その沈黙を破って、第一声を放ったのはやはり彼女であった。


「シオン・アマカワ、なにか言いたいことはあるかしら?」


 紫音は少し間をとった後、皆から目を逸らしてこう詰問してくる。


「ホント、山の天気は変わりやすいね……」


 ソフィーは言い訳する紫音に対して、静かに怒り始めた。


「みんな、水も滴るいい女だね……」

「言いたい事はそれだけかしら?」


 紫音の言い訳に、ソフィーの語気も荒くなる。

 ソフィーの怒りを感じとった紫音は、素直に謝罪することにした。


「みんな、ごめんなさい……。」


「何が裏山昇龍波よ! 何が瀑布を逆流させるよ! 逆流させたのは凄いと思うけど、お陰でコッチはびしょ濡れよ!!」


「はうぅぅ……、ごめんなさい……」


 ソフィーは更にまくしたてる。


「そもそも、オーラを溜めるのにあんなに時間が掛かっていたら、実戦だったらやられちゃうわよ! それに、こんな燃費の悪い技そうそう使える訳ないでしょうが!」


「ですよね……。名前まで付けたけど、自分でも薄々そう思っていたんだ……」


 紫音はソフィーに指摘され、自分でもそう思い始めていた事を吐露した。


「とりあえず、このまま濡れたままでは風邪をひいてしまうので、早く下山してお風呂で暖まりませんか?」


 エレナがそう提案してくる。

 このままでは、トロールの襲来するこの大事な時に、風邪をひいてしまうかもしれないからだ。


「賛成ッス!」

「そうね、そうしましょう」


 一同はエレナの提案に賛同し、下山の準備を素早く始める。

 下山の準備をしていると、リズはミリアが濡れていないことに気付く。


「ミリアちゃんは、どうして濡れてないッスか?」


 リズの質問にミリアはこう答える。


「ケットさんが、マジックバリアで水を防いでくれたの」

「さすがケットさんッス」

「ナー」


(あの黒猫モドキ、有能すぎるでしょう……)


 ソフィーは二人のその会話を聞きながらそう思った。

 一同は下山の準備を終えると、急いで山を下山する。

 その最中にソフィーは紫音に質問してきた。


「あのお仕置きプレートは、まだ残っているかしら?」

「残念だけど、あの忌まわしいプレートはもう処分したよ」


 その答えを聞いたソフィーは、平然とした顔でこう言ってくる。


「別に無いなら、新しく作るだけだから。」


(ああ、またあのプレートを掛けるんだ……)


 そのソフィーの言葉を聞いた紫音は、また年下ちゃん達の前でダメな姿を見せないといけないと思うと、気分が落ち込んでしまう。


 一同が山から降りてくると、フィオナとミレーヌがお茶を飲んで優雅に過ごしていた。


「あら、皆さん。どうしたんですか、ずぶ濡れじゃないですか?」

「山で雨にでも降られたのかい?」



「すみません、フィオナ様、ミレーヌ様。その話はまた後でします。まずは、お風呂に入って体を暖めたいんです」


 フィオナとミレーヌの問いかけに紫音はそう答える。

 すると、それを聞いたフィオナはこう返してきた。


「そうですね、そのほうがいいですね」

「すぐに、風呂の用意をさせよう」


 ミレーヌが早足で屋敷の中に入っていく。

 一同は一度フィオナと別れ、自室に戻ってからお風呂に入る。


 風呂で体を暖めた一同はフィオナとミレーヌの元に戻ってきた。

 戻ってきた紫音の首には、すでにプレートが掛けられておりこのように書かれている。


 ”私はヒンヌーのクセに、余計な技を開発しようとして、みんなをずぶ濡れにしました”


 そのおかげでフィオナとミレーヌは、説明を受けなくても山で何が起こったかを理解した。


「シオンさん。あまり皆さんに迷惑をかけるようなことをしてはいけませんよ?」

「はい、フィオナ様……」


 その紫音のプレートを見たフィオナが、注意をすると彼女は素直に聞き入れる。


「お前が言うな、このポンコツ大主教!!」


 ミレーヌが彼女にアイアンクローをしながら、みんなの気持ちを代弁してそう言った。


「痛い、痛いわ、ミレーヌ~」


 ミレーヌはつい最近自分もやらかしておいて、それを棚に上げて紫音に注意したポンコツ大主教をアイアンクローから解放する。


「あうぅぅ……、見ないで! またこんな駄目なお姉さんになってしまった私の姿を~」


 涙目で年下ズに、そう言う紫音。


「あうぅぅ……、ごめんなさい。ちゃんと反省しているから、許してミレーヌ~」


 涙目でミレーヌに謝るフィオナ。


(やっぱり、この二人、少し似ているなぁ……)


 涙目の二人を見て一同はそう思うのであった。


「これは一体、何が起きたのですか?」


 屋敷を尋ねてきたクリスが、この不可解な光景を見て驚き質問してくる。


「お姉様! どうしたんですか?」


 ソフィーがクリスに近寄って、彼女に来訪の用件を尋ねた。


「トロールの旗が23本になったから、その報告とアナタ達がまた何か問題を起こさないように注意しに来たのよ。でも、もう何か起こしたみたいね……」


 すると、ソフィーは山での出来事をクリスに話す。


「なるほど、うらやま…しょうりゅう…は? だったかしら? その技は大型の魔物か四天王相手なら切り札になるかもしれないわね。ただし、使うなら真上にではなく斜め上の方が良いかもしれないわね」


 クリスは慣れない漢字の技名に苦戦しつつ、紫音にアドバイスする。


「あとソフィーの言うとおり、使用するときは状況を見定めないと危険よ」

「はい」


 紫音はクリスのアドバイスを脳裏に刻みつけることにした。


「では、明日トロールが侵攻してくるから今日はもう休んで明日に備えるように!」


 クリスはそう一同に言って、クランに帰っていった。


(とうとう明日か…。フィオナ様のためにも頑張らないと!)


 紫音と一同は明日のトロールとの戦いを前に、決意を新たにするのであった。



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