113話 山での修行 其の弐




 前回までのあらすじ?


 武器の説明を聞きに、2回目の山にやってきたソフィー。

 だが、またしても説明はなかった。


「慰めるんじゃないわよ!」


 大荒れのソフィーは慰めるミーを足払いして、その上にフライングアタックするのであった。


 そして、帰り道の馬車の中、パイのお見舞い予告をするのであった。


 ######


 早朝ストレッチの済んだ紫音は、荒れるソフィーを置いて一人山の中を朝食まで走っていた。


「ハァ、ハァ……」


 久しぶりに本格的に山の斜面を駆け回った紫音は、平地では感じなかった足への負担を感じ鍛錬していることを実感する。


(久しぶりに、きついな……。でも、これこそ鍛錬だよ!)


 紫音がキャンプ地に戻ってくると、リズはゴッデスシールドファミリア(GSファミリア)の試運転をしていた。


「ミ―、GSファミリア展開ッス!」


 ミーはリズの命令を受けると、彼女の目前にGSファミリアを展開させる。


「じゃあ、投げるわよ!」


 ソフィーが手頃な石を拾うと、リズめがけて放り投げると、GSファミリアの一つがミーの操作で勝手に動いて、飛んできた石を防いでリズを守った。


「すごいね、本当に勝手に動いて防いでくれるんだね」


 ソレを見ていた紫音が感想を述べながら近づいてくると、リズが紫音に気付いてこのような提案をしてくる。


「シオンさん、試運転に付き合って欲しいッス」

「何をするの?」


「シオンさんに投げた石を、防げるか試したいッス」

「いいよ、リズちゃん」


 これが上手く行けば、ミリアや他の後衛の人を守る事ができると思った紫音は、そのテストを引き受ける事にした。


「じゃあ、行くッス! ミー、GSファミリアで、石を投げられるシオンさんを守るッス!」

「ホーー」


「投げるわよ、シオン・アマカワ! 避ける準備はしておきなさいよ」


 そう言って、ソフィーは石を紫音めがけて放り投げる。

 すると、ミーに命令されたGSファミリアの一つが紫音に向かって移動し、飛んできた石から彼女を守った。


「すごいね、これで敵の矢が飛んで来ても安心だね」

「2つしかないので、2本以上来たら駄目ッスけどね……」


 紫音の意見にリズは、ジト目でそう答える。

 リズはこう言ったが、無いよりかはマシといえるだろう。

 紫音達はエレナの作った朝ご飯を食べて、雑談しながら少し休憩しその後に修業を再開する。


「さあ、ソフィーちゃん。模擬戦を始めようか?」


「そのことなんだけど、今回は対トロール戦を想定した練習をしたほうがいいんじゃないかしら?」


「それって、どんな練習をするの?」


 紫音がソフィーに、対トロールの練習方法を質問すると、彼女は説明を開始した。


「今までのように打ち込み合うのは、あまり意味はないわ。少なくとも、今アナタが身につけようとしている片方の武器で防御して、その隙きを突くっていうのはトロール相手ではまず無理ね。受けた途端潰されるわよ」


「そうか。クリスさんが説明してくれた時に、回避しないといけないって言っていたね」


 紫音は昨日の会議でのクリスの説明を思い出す。

 ソフィーは紫音も経験したであろう戦いを例に挙げ説明する。


「冒険者育成学校の卒業試験で、ロックゴーレムと戦ったでしょう? トロールとの戦いはアレに近いわ」


 紫音は卒業試験の時に、苦戦したロックゴーレム戦を思い出す。


「相手の攻撃を回避しながら、こちらの攻撃範囲に飛び込んで攻撃する。これだよね?」


「そう、それよ。更に今なら、オーラウェーブで遠隔攻撃もいいわね。だから、練習は高所からの打ち下ろし攻撃をイメージしながら、ソレを回避して攻撃するとかのほうがいいんじゃないかしら。まあ、たまに薙ぎ払い攻撃もしてくるけどね」


 ソフィーは続けて練習方法を提案してくる。


「あの木をトロールの足と想定して、練習してみたらいいんじゃない? 相手の攻撃をイメージして、それを回避してあの木に攻撃するってやってみたら?」


「打ち下ろしの攻撃に対応する為の山ならではの修行……」

「ちょっと、聞いているの?!」


 紫音はソフィーの提案が耳に入らないほど集中して修行方法を考え、一つの方法を思いつく。


 それは、山に来た当初の目的と合致する彼女にとっては名案であった。

 紫音はブーツとすね当てを脱ぐと、滝の前に立つ。


「この滝を逆流させるほどのオーラウェイブを放てるようになれば、トロールの強力な振り下ろしの一撃に対抗できるはず……」


「はぁ?! アナタまた何言い出しているのよ! 回避すればいいのに、何故対抗する必要があるのよ?」


 ソフィーが紫音の修行を呆れた感じで窘める。


「滝を逆流させる修行、燃えるシチュエーションッス!」

「できればね……」


 その熱いシチュエーションにリズは賛同するが、ソフィーは呆れ果てた感じで呟いた。


 紫音は滝の前にある滝壺の水面から都合よく出ている岩に立つと、目を瞑って精神を集中し女神武器の天道無私を脇構えで構え、オーラを刀に送り込んでいく。


(ゴーレム戦では、未熟でオーラウェイブを一回しか放てなかった。それにオーラに耐えきれずに刀が壊れてしまった。だけど今は違う、オーラウェイブも放てるし、オーラに耐えきれる刀もある。今の私になら出来るはず!)


 滝は幅5メートル程、落差は50メートル程のモノで、紫音の前に勢いよく流れ落ちていて先程から水しぶきが体中に当たって正直少し冷たかった。


「燃えろ、私のオーラ! いっけぇーー! ハイパーオーラウェイブ!!」


 紫音は溜めに溜めたオーラを纏った刀を滝目掛けて、脇構えから切り上げるように振り上げる。


 紫音の放ったハイパーオーラウェイブは、瀑布を押し返しながら上昇していく。

 そして、遂に落ちてくる滝の水を全て逆流させて、巻き上げた水と共にさらに空へと上がって空中で掻き消えた。


「やった……」


 紫音はオーラをそれなりに使って、少しふらっときたが達成感に浸っている。


「嘘でしょう!?」


 信じられないと言った表情で、でその光景を見ているソフィー。


「凄いッス!」


 リズはこの漫画みたいな展開に、心が踊ってテンションが上がった。


「凄いです、シオンさん!」

「すごいです……」


 エレナとミリアは目の前の光景に、珍しく興奮している。


「やったよー、みんな!」


 紫音は皆の方を向くとそう言いながら手を振った。


(この技を、裏山昇龍波と名付けよう!)


 そして、心の中でこう名付けるのであった。



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