108話 困った聖女様
「そういえば、私はまだアキの描いた漫画をまだ見たことがないのだけれど……」
「そっ、それは……。読み切りばかりで……、なかなか単行本化されなくて……」
アキはフィオナのその問いかけに、内心ドキドキしつつ、何とか誤魔化しながら言い訳を続ける。
「なので、単行本化した暁には必ずフィオナ様に持っていきますから、それまで待っていてください」
「わかったわ、楽しみにしているわね、アキ」
BLだけではなく、一般漫画の新刊も早く出さないと思うアキであった。
「フィオナ、まだいるか!」
そんな話をしていると玄関の方から、ミレーヌの声が聞こえてくる。
「ミレーヌ様の声だ。まだ、帰宅時間には早いのにどうしたんだろう?」
紫音の疑問に、フィオナが手をパンッと叩いてこう言った。
「私が先程アキを待っている間に連絡しておいたの。きっと、私に会うために早く帰って来てくれたのね~」
フィオナがルンルン気分で玄関の方に向かう。
「ミレーヌ、おひさしぶりね~。会いたかったわ~」
フィオナが、そう言いながらミレーヌに近づくと、彼女は再会の挨拶もせずにこう問いかけてきた。
「フィオナ! アナタここに来るまでの旅の途中に、トロールに関する神託を受けてない!?」
「え? 旅の途中、毎日祈りは捧げていたけど、教会に立ち寄っておこなっていたわけではないから……。神託は教会の女神像の前でないと受けられないから、わからないわ……」
「では、神託を受けに行ってないんだな?」
「でも、私は女神様の神託でアキに会いに来たから……。」
「フィオナ、アナタが王都を旅立って何日目?」
「神託を受けたのが5日前で、その日に旅立ったから……」
「5日前ということは、リザードを撃退した次の日か……」
「それが、何か関係あるんですか?」
紫音の質問にミレーヌがこう答える。
「この5日、神託が無かったのではない。あったかも知れないが、このポンコツ大主教が受けに行かなかったから、無かった事になっているということだ!」
「なんだってーーー!?」
一同はその事実に驚愕した。
「でっ、でも~、私はその神託でここに来たのだから、そんなことはないと思うのだけど……」
「女神様もこの緊迫した状況で、旅の途中に教会に神託を受けに来ないなんて、想定していなかったのではないでしょうか?」
紫音はフィオナの意見に反論する。
「フィオナ様! いますぐ教会に行って、神託があるかどう確認してきてください!」
アキはフィオナに指示を出す。
「フィオナ、外に馬車を待機させているから、私と一緒にダッシュで行くわよ!」
「はい~!」
フィオナはミレーヌに連れられて、屋敷から出ていった。
暫くして、二人は教会から帰ってくる。
ミレーヌはフィオナの頭に、アイアンクローをしながら屋敷に入ってきた。
「痛い、痛いわ、ミレーヌ~」
「黙れ、このポンコツ大主教!」
フィオナは涙目でミレーヌに訴えたが、彼女からは厳しい言葉が返ってくる。
「ごめんなさい~」
紫音達はその光景を見て、神託があったのだなと察した。
「神託によると、トロールは旗が24本。つまり、予想ではあと2日で侵攻だと思われる」
「私は今すぐ要塞と冒険者ギルドに、この信託を連絡してくる。もちろん、このおっとり大主教がやらかしていたことを伏せてな」
このようなことが表立てばフィオナ個人ではなく、フェミニース教会の威信に関わるからである。
「その前に、この駄目な聖女様にお仕置きしておかないとな……」
こうして、フィオナは首からプレートを掛ける罰を暫く受けることになった。
”私はポンコツのクセに注意不足で、神託を受けるのを忘れて迷惑をかけました”
「はうぅぅ……、見ないでアキ! 今のこんな駄目なお姉さんの私の姿を見ないで~!」
フィオナのこの叫びにアキは無表情でこう言う。
「大丈夫です。私はフィオナ様が少し駄目なお姉さんだってことは、お世話になった当初から思っていましたから」
「がーーーん!!」
フィオナはアキの返事にショックを受けた。
(アレ? この光景をつい最近どこかで見た記憶があるな……)
それを見ていたエレナとソフィー、そして発言者のアキはデジャヴュを感じる。
「フィオナ様、アキちゃんは本気で言ってないですから」
そう言って、フィオナを慰める黒髪ポニー。
(ああ、この娘だった……)
三人は一昨日の紫音の状況を思い出していた。
(そうか……。私が女神様の紹介とは言え、初対面のフィオナ様を警戒しなかったのは、無意識にどこか紫音ちゃんに似ていると思ったからかもしれない……)
アキはそう思うと、自然と笑顔になって二人を見てみる。
四人はフィオナに適当な言い訳をして、部屋の外に出てくると紫音がみんなに話しかけた。
「今度のトロールとの戦い負けられないね!」
「そうですね。もし負けてしまったら、フィオナ様の責任にされるかもしれません」
エレナも紫音の意見に賛同する。
「お姉様達にも伝えて、協力をしてもらったほうが良いんじゃないかしら?」
「そうだね、その方が良いかも知れないね。でも、あまり多くの人に知られるのは不味いから、信頼できる少数の人だけにしたほうが良いよね?」
「そうね。まあ、その辺の人選はお姉様がしてくれるわ」
ソフィーはクリスに連絡を取ることにした。
アキはみんなの会話を、何かを考えながら聞いていたが、何かを思いついた後にこう言う。
「私は今から要塞にいるエスリンさんに、会いに行ってくるよ」
「アキちゃん、一人では危険だよ?」
「そうよ、馬車は時折魔物に襲われるから危ないわよ」
ソフィーも紫音の忠告に賛同してくる。
「アキちゃん、私がついていくよ」
「駄目よ、アナタは私達と一緒に”みんなで頑張ってトロールを倒そう会議“を、しなくてはならないんだから」
ソフィーはそう言って、アキの護衛役を彼女にさせることにした。
「アフラに付いて行かせるわ。あの娘にフィオナ様の事を話したら、うっかり話しちゃいそうだし」
ソフィーはアフラに連絡して、要塞行きの定期馬車停留所でアキと合流するように指示を出した。
アキが要塞に出かけてから暫くして、入れ替わるようにクリス達が屋敷にやってきた。
食堂を会議室にして、トロールを倒そう会議がおこなわれることになる。
メンバーは紫音、エレナ、リズ、ミリア、ソフィー、スギハラ、クリス、カシード、フィオナで皆が席についた所で紫音が、コホンと咳払いをしてから会議開始の宣言をおこなう。
「それではこれより”みんなで頑張ってトロールを倒そう会議“を始めます」
宣言したあと紫音は議題を発表する。
「今回の会議の内容はフィオナ様がポカをやらかして、このままでは人類が要塞戦で敗北した場合フィオナ様がみんなに怒られてしまうかもしれないので、ここにいるみんなで頑張ってトロールを倒そうっていう会議です」
「ちょっと、シオン・アマカワ。アナタの言い方だと、危機感をあまり感じないけど!」
ソフィーは紫音の緩い言い方に、異議を唱えた。
「だって、ソフィーちゃん。本人がいるのに、”人類の命運が掛かっているかもしれないのに、その信託を受けるのを忘れていたなんて大失態を犯して、そのせいで人類が負けるかもしれない”なんて、酷い言い回しできないよ?!」
「はぅ! ごめんなさい、ごめんなさい」
紫音の発言を聞いて、平謝りするフィオナ。
「誰が、そんな身も蓋もない言い方しろって言ったのよ!」
「はぅ! フィオナ様、ごめんなさい、ごめんなさい」
ソフィーのツッコミを受けた紫音は、つい迂闊に口を滑らせてフィオナの傷に塩を塗ってしまったことに気付き謝罪する。
(いきなりこの調子とは……。この会議、前途多難スね……)
リズは駄目なお姉さんズのやり取りを見てそう思った。
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