107話 サプライズ成功なるか?
フィオナが屋敷に来てから30分が過ぎたが、アキはまだ戻らない。
(きっと、BL漁りに夢中になっているに違いない……)
紫音はそう思いながら、会話の途切れたこの気まずい沈黙をどうしたものかと悩んでいた。
彼女は正直フィオナのような偉い人と、何を話せばいいのかわからなかったので、無難に天気の話をしたがその後に会話が続かない。
そのため紫音は、同席しているソフィーに助け舟を求めるために、彼女を見ると大主教であるフィオナの前で緊張して目が泳いでいて、とても気の利いた会話ができそうになかった。
(あのいつも高飛車なソフィーちゃんが、借りてきた猫みたいな感じになっている!)
紫音はソフィーを見てそう思ったが、それも当然である。
この世界の信仰対象は、フェミニース教だけでその大主教が目の前にいる。しかも、それが初対面ともなれば彼女の様な反応になるか、感動のあまりに涙を流すかのどちらかであろう。
異世界から来た紫音やアキは、フィオナの偉大さがあまり解らずに偉い人だとは感じるが、少しのんびりした美人の優しいお姉さんくらいにしか思えなかったので、初対面でもそこまでのリアクションにはならなかった。
しかし、この世界に暫く滞在したことで紫音は、フィオナがすごく偉い人だと解ったので今は粗相がないようにしなければと思っている。
そのため、どのような会話が失礼に当たらないか解らず、苦戦する事となっていた。
それでも紫音は何とか会話を続ける。
「それにしても、アキちゃん遅いですね……。もう少し早くおいでになっていれば、出かける前に出会えたんですが……」
(言えない……。朝起きられずにこんな時間になってしまったことを……)
紫音のその言葉を聞いて、フィオナは必死に嘘にならないように理由を考えて、紫音に説明することにした。
「やっ、宿で、いろいろ(寝坊)……、ありまして……、それで、来るのが遅れてしまったのです……」
だが、その説明はとても辿々しく明らかに、今考えながら話していることが分かる。
冷静なソフィーやリズならば、「あっ、これ言い訳しているな!」と気づいたであろうがこの場にいるのは、テンパった紫音と借りてきたツンデレ猫ソフィーなので、フィオナの稚拙な言い訳に突っ込むものは誰もいなかった。
「ただいまー、今帰りましたー」
そうこうしている内に、アキ達が帰って来る。
「アキが帰ってきました! では……」
フィオナが、アキのいる玄関に向かうために立ち上がろうとすると、”サプライズを演出したい”と”フィオナ様にBLを見せてはいけない!”と考える紫音は慌てて制止する。
「フィ、フィオナ様! フィオナ様はここで待っていてください。私がアキちゃんに何も言わずに、この客間に連れてきますから。それで、サプライズを!」
「はい、ではお願いします」
紫音の提案にフィオナはそう答えると、客間で待つことにした。
客間から出ると、紫音は急いでアキのいる玄関に向かう。玄関に着くと、アキ達は自分の部屋に向かうため階段を登りかけていた。
「アキちゃん待って!」
「どうしたの、紫音ちゃん?」
彼女の呼び止める声にアキは反応すると、そう言いながら階段を降りて近づいてくる。
「えーと……、あの……、その……」
「用がないなら、私早く部屋に帰ってエレナ氏と戦利品の品評会をしたいんだけど……」
紫音が客間へ誘導する言い訳を考えていると、アキが怪訝そうな表情でそう言ってくるので、慌てて思いついた言い訳を口にする。
「客間に、お宝BL本が届いていたよ!」
紫音は咄嗟にそう言った後に、すぐさま”イヤイヤ、咄嗟に思いついたとはいえ、流石にコレはないわー”と、自分の心の中で突っ込んだ。
が―
「それは本当かい紫音氏!?」
アキはすぐさま喰い付いてきた。
(こんな、嘘全開の言い訳に喰い付いたーー!!)
紫音が驚いているとアキは同士エレナに語りかける。
「では、お宝を求めて客間に行こうかエレナ氏!」
「はい、先生。お供します!」
二人は獲物を狙う獣のような眼をして、客間に向かおうとする。
「アキちゃん、荷物は私が部屋まで持っていってあげるよ」
「それは、かたじけない紫音氏」
アキは紫音に買ってきた戦利品の入った袋を渡す。
まず、ミッションの1つ目、フィオナ様に見せてはならない戦利品を確保した。
それを受け取った紫音は、今度はエレナに声を掛ける。
「エレナさん、少し二人だけで話したいことがあるんですけど?」
「はい、何でしょうか?」
紫音は近寄ってきたエレナを、アキから離れた所まで連れて行き彼女の耳元でアキに聞かれないように、小さな声で話しかけた。
「エレナさん、実は……」
もちろんその内容は、客間にフィオナがいてアキにサプライズを仕掛けようとしていることであった。
「フィオナさ― 」
驚いて、フィオナの名前を叫ぼうとしたエレナの口を、紫音は素早く抑える。
「しー! 声が大きいよ、エレナさん!」
「すっ すみません…」
二人はアキに聞こえないように話を続ける。
「そういう訳で、私は二人の再会をお膳立てしないといけないから、エレナさんにはこの戦利品をフィオナ様の目に付かないように部屋に持っていって欲しいの」
「そういうことなら、戦利品は私にお任せください、シオンさん」
「ありがとう、エレナさん」
「私もこの戦利品を部屋に置いたら、フォローに向かいます」
「お願いします、エレナさん」
紫音はツンデレが借りてきた猫みたいになっていて、役に立たないところに心強い仲間を得た。
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