85話 リザード軍到着






 リザード軍が要塞目前まで、侵攻して来た頃―


 紫音達の乗せたラッキー7号はアキが魔力補充をしながらの飛行のために、魔力を押さえているために巡航速度で飛んでいた。


「紫音ちゃん! 今時速60kmぐらいだから、外に手を出すと手にDカップに相当する重さを、感じることが出来るらしいよ。AAAの紫音ちゃんには一生体感できない重さを体感することが出来るよ!」


 アキは少し意地悪な感じで、高級魔力回復薬を飲みながら紫音に言う。


「フフン! アキちゃん、それは過去の私の話だよ。今の私はフェミニ―ス様のお陰で、何とAAなのだぁ!!」


 紫音は文字どおり胸を張って、ドヤ顔でアキにそう言った。


(あまり変わらないような……)


 親友がそれでいいと思っているならいいか、と思いアキは話を続ける。


「じゃあ、やめとく?」

「やる!!」


 紫音は即答して、コクピットから手を出す。


「これがミレーヌ様の体感している世界か……。ソフィーちゃんにも、この未知の世界を体感させてあげたいなぁ……」


 紫音は同士ソフィーを思うのであった。


「くしゅん」


 ソフィーは、くしゃみをする。


「きっとお姉様が、私の心配をしてくれているんだわ!」


 ソフィーが都合の良い解釈をしているその横で、ミリアの肩にいるケットさんが可愛らしい前脚を城壁の方に向けて鳴く。


「ナー」


 ケットさんは、ミリアに城壁の上に行けと催促する。


「上は危ないよ?」

「ナー」


「ケットさんが守ってくれるの?」

「ナー」


「まあ、まだ敵も遠いし、いいんじゃない?」


 ソフィーがそう言ったので、一同は城壁の上に向かう。

 ミリア達は城壁のリズのいる所にやってくると、リズが質問してくる。


「おや、みなさんどうしたッス? ヒュドラ見学ッスか?」


「ケットさんが、城壁に行こうって……」

「ケットさんは、スパルタなんッスね。」


 ミリアが城壁の上に来た理由を説明すると、リズはこのように言葉を返す。


「アレがヒュドラ……。足元のリザードと比べると、10メートル以上、いやもっとありそうですね……」


 エレナはつい不安な声で言ってしまった。

 ヒュドラを見たミリアは、城壁の上に来るんじゃなかったと後悔する。


「大丈夫よ! うちのクランで一度倒したことあるから!」


 ソフィーが不安になっている一同に、そう言って聞かせた。


(ヒュドラ単体でだけど……)


 リザード達の先頭は、要塞の500メートル先まで到達すると、その場で隊列を整え始め硬い鱗で覆われたリザードの戦士達が、隊列を組んで人類側と対峙する。


「来たか! 各員、戦闘体勢!」


 ユーウェインが要塞の前で、近接戦闘部隊と戦闘態勢を取ると、前回と同じように5つの堀の縁の出口で待ち構えた。


 リザード軍に対して左の堀の縁から、エスリン、タイロン、ユーウェイン、スギハラ、レイチェルが担当する。


「武器だけでなく口にも気をつけろ! 奴らはあの鋭い牙で噛みついてくるぞ! 尻尾の一撃にも気をつけろ! 攻撃は硬い鱗で覆われていない部分を狙え。弱点は氷属性だ」


 各担当司令官は、リザードとの戦い方を説明した。


 リザード軍はヒュドラの到着を待ちつつ、部隊の配置を行っている。

 指揮官である四天王はナイルとミシシッピで、二体は真逆な性格であった。


 ナイルは獰猛なクロコ部族の猛将タイプ、ミシシッピは温和なアリゲ部族出身の冷静な智将タイプである。


「ゼンエイハオレノ、スキニサセテモラウゾ!」

「カマイマセンヨ。ワタシハ、ウシロカラ、ユックリイキマスヨ」


 二体は話し合うと、前衛後衛に別れ指揮を始めた。


「ユウカナル、ウロコノセンシタチヨ、ユクゾ!!」


「オーーーーーーーー!」


 前衛担当の近接戦リザード達が雄叫びを上げる。

 ナイルは前衛部隊を鼓舞すると、自ら率いて前進を開始した。


「ヤレヤレ、コレダカラ、ヤバンナブゾクハ、コマルンデスヨ」


 ミシシッピはそう言うと、部隊を率いてゆっくりと前進し始める。


「いきなり、四天王が来るのか!?」

「投石機を持ってきてないから、後方でいる必要がないんだろう」


 兵士達が、今までにない敵の行動に話し合う。


「だが、それなら!」


 その瞬間、リザード前衛部隊は今回新たに掘った落とし穴に落ちていく。


 落とし穴はリザード達の部隊配置の、前方200m先に横一文字に掘ってあり底には丸太で出来た尖った杭が設置されており、落ちてきたリザード達にそれなりのダメージを与える。


 だが、日数がさほど無かった為に、幅がそれ程無く前衛部隊の半分ほどしか落ちなかった。


「殺れるとは思っていないが、それなりにダメージを受けてくれれば!」


 いち早く落とし穴から出てきたナイルは、その硬い鱗によりダメージをほぼ受けていない。


「ニンゲンメ、コザカシイマネヲ!」

「ヤレヤレ、シカタナイデスネ。ヒュドラ!」


 ミシシッピは後ろからついてきているヒュドラに命令すると、ヒュドラは落とし穴に向かってウォーターブレスを吐く。


 すると落とし穴に見る見るうちに水が貯まって、落とし穴に落ちていたリザード達がその中から飛び出してくる。


 この世界のヒュドラは毒を吐かない代わりに、強力なウォーターブレスとファイヤーブレスを吐いてきた。


 それは毒の恐怖が無い代わりに、別の問題を生み出す事を意味する。


「カムラート! こいつはやばいぞ!」

「ああ、わかっている!」


 スギハラがユーウェインに、これから起きるであろう最悪の事を話そうとすると、彼も気付いているようであった。


 そして、それはミシシッピによって、すぐさま実行される。


「ヒュドラヨ、スベテノクビカラ、ウォーターブレスヲハイテ、ヨウサイマエノホリヲ、ミズデミタスノダ!」


 ヒュドラは9つの頭全てから、ウォーターブレスを要塞前の障子堀に向けて吐き出す。


 ウォーターブレスは堀のかなり前までしか届いていないが、その着地点から大量の水が堀へ目掛けて流れ、堀に水がどんどん流れ込んで行く。


 要塞前の堀は、瞬く間に空堀から水堀に姿を変えた。

 通常なら水堀のほうが防御側有利となるが、水を得意とするリザード相手では逆効果になる。


 これでいつもの堀の縁の出口で待ち受け、各個撃破するという作戦が使えなくなった。

 リザード達は縁を進まずに、水堀を自由に移動できるし、危なくなれば飛び込んで身を潜めることも出来る。


 魔法で堀の水を凍らせても、恐らく今度はヒュドラのファイヤーブレスで、溶かされるだろう。ユーウェインは決断を迫られる、籠城に切り替えるか、堀より向こうで戦うか……


「籠城するか……」


 ユーウェインが人的被害の少ないであろう籠城戦を口にするが、スギハラがすぐさま反論する。


「籠城すれば、ヒュドラのブレス攻撃を城壁どころか内部まで、受けることになるんじゃねえか?! それで要塞の大型誘引灯を壊されたら、元も子もないないぞ」


 エスリンも進言する。


「籠城すれば、今回は勝てるかも知れません。ですが、次は壊れた城壁でもっと辛い戦いになるかもしれません」


「今ならまだ、城壁に設置された投石機やバリスタで、ヒュドラを牽制して前進を鈍らせることが出来ます。その間に、リザード共を減らせば、まだ勝機はありますぜ」


 タイロンも前進策を進言したので、ユーウェインは決断した。


「我々はこれより堀より前に打って出る! 城壁の上にいる後衛部隊は一部の者を残して、下に降りて後方から前衛を支援せよ! 投石機とバリスタはヒュドラを攻撃して足を止めろ! 以上だ!」


「それでは、前進する勇気ある者達に、女神の加護を一時的に与えます。ゴッデスプロテクション!」


 エスリンが神聖魔法ゴッデスプロテクションを唱えると、女神フェミニースの聖印が上空に現れ、前進部隊に強力な身体強化効果を与える。


 ユーウェインはグラムリディルを抜くと、それを高く掲げて鼓舞した。


「諸君達には女神フェミニースの加護がある! 恐れることはない、行くぞ!!」

「オーーーーーーーー!」


 兵士達は、雄叫びを上げて自らを鼓舞すると前進を開始する。

 一応下まで降りてきたリズ達は、どうするか話し合いをすることにした。


「私達は、どうするッスか?」

「リズ、アナタは私と来るのよ!」


 リズが話し合いの第一声を発すると、リディアに首根っこを持たれてそのまま前線まで連れて行かれる。


 リズ、話し合い開始五秒で参加(強制)決定!

 残りの者たちは話し合いを再開した。


「どうする? 外はかなり危ないわよ」


 ソフィーがそう意見する。


 ミリアは親友のリズが連れて行かれてしまったので、彼女のことが心配ではあるが、正直怖いのでどうしようかと悩んでいると、肩のケットさんが「ナー」そう鳴いて、またもや可愛い前脚で外を差す。


「ケットさんは、行くべきだって言っているね!」


 アフラはケットの言葉が解るのかそう言った。

 ケットさんは「ナー」と、鳴きながら頷いたので正解のようだ。


「そうだね……、リズちゃんを助けてあげないとね……」


 ミリアは震える手で、母の形見グリムヴォルを握り締めながらそう言った。


「決まりね。私達もアンタを護るから頑張りましょう!」


 ソフィーがそう言いながらミリアの肩に手を置いて、彼女の不安を少しでも払おうとする。


「燃えてきたね!」


 アフラがウォーミングアップの為、シャドウを始めた。


「私も回復がんばります!」


 エレナも覚悟を決める。

 門を抜けて外に出ようとした時、ソフィーはアフラにクリスから預かっていたミトゥトレットを渡す。


「コレ、お姉様から預かっていたモノ、一応渡しておくわ。装備するだけで、決して力を使うんじゃないわよ!」


「わかっているよ、ソフィーちゃん。倒れちゃったら、みんなを守れないからね!」


 アフラは受け取ったミトゥトレットを右腕に装着する。

 要塞に集った者達の戦いが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る