86話 苦戦、リザード戦







 遂に両軍が激突する。

 数では要塞側が勝ってはいるが、個の戦闘能力はリザードの方が上であるため、戦いは一進一退の油断のならない状況となっていた。


 スギハラがナイルに向かって、駆けていくとそのまま司一文字で斬りつけるが、その斬撃は防がれてしまう。


「テメーの相手は俺だ!!」

「ワザワザ、オレニイドンデクルトハ、イイドキョウダニンゲン!」


 ナイルの繰り出す攻撃は強力で、上手く受け流すか回避しないと打ち負けて、ダメージを負うか体勢を崩されてしまうであろう。


 その事をわかっているスギハラは、ナイルの攻撃を上手く受け流しながら何度か斬り結ぶ。


(こりゃあ、一瞬でも気を抜くと終わるな……)


 スギハラが一度間合いを取る為に後ろに下がると、ナイルの足元に魔法陣が現れ、氷属性魔法が発動するが、ナイルはすぐさま反応してバックステップで難なく回避した。


「さすがは、四天王反応が速い」


 クリスが魔法で、苦戦するスギハラを援護する。


「今回ばかりは、助太刀助かる!」


 スギハラはクリスの助太刀に感謝する、だが二人掛かりでも苦戦になるほど、ナイルは強敵であった。


 スギハラとクリスが命がけでナイルを惹きつけている為、ユーウェインや四騎将、レイチェルは雑魚の数を少しずつ減らしていく。


「魔法剣フリーズ!」


 ユーウェインは魔法剣フリーズを、叩き込んでリザードを魔石に変えると指示を出す。


「数はこちらのほうが上だ! 必ず複数でリザードと対峙しろ!」


「ミー、GCファミリアッス!」

「ホ――」


 ミーはリズの命令を受けると、GCファミリアを飛ばし彼女の周りに展開させた。

 彼女は着弾予測眼を発動させると、味方に接近している複数のリザードの頭にターゲットマーカーを付ける。


「ミー、GCファミリア発射ッス!」

「ホ――」


 GCファミリアから発射された魔法の矢は、複数のリザードの頭に見事に当たり怯ませることに成功し、その怯んで出来た隙に味方が攻撃していく。


「その隙き貰った! タイラントブレイク!」


 リズが作った隙きを見逃さずにタイロンは、オーラを宿したブルトボルグを左薙、袈裟斬り、唐竹の三連続斬撃をリザードに叩きつけ撃破する。


「リディアの妹ちゃんか。面白い武器を、持ち出してきたじゃねえか」


 タイロンはリズの周りに浮いているクロスボウと、頭の上に浮いているフクロウ(?)を見てそう感想を呟いた。


「アレがリーゼロッテ様のアイギスシャルウル……。言い伝え通り本当に複数同時攻撃が出来るのね」


 リディアも妹の攻撃を見て、先祖の武器の性能に感嘆の念を抱く。

 氷属性の最高位魔法『フリーズ』が戦場に二発続けて発動され、二つの巨大な氷の柱が複数のリザード達を氷漬けにして、大ダメージを与える。


 一つは四騎将エドガーが放ったもので、もう一つはミリアが放ったものであった。


「あの幼い少女が、フリーズを放ったのですか。すると、あの子がミレーヌ様の姪御さんのミリアちゃんですか。流石は大した才能ですね」


 エドガーがミリアをそう評する。


「ミリア、アナタ普段大人しい割に、たまに派手な魔法使うわよね」

「あぅぅぅぅ……」


 ソフィーのその言葉に、ミリアは最高位魔法を放ったことで、注目を浴びていることに気付いて、照れて帽子を深く被ってしまう。


 ミシシッピは、その一連の光景を見て、弓部隊に指示を出す。


「アノ、マホウツカイヤ、ユミツカイヲ、ネラエ! ヤツラニンゲンハ、ワレラトチガッテ、コウゲキサレレバ、カワシタリ、フセイダリ、シナケレバナラナイ。ソウスレバ、ヤツラハコウゲキデキナイ。アタラナクテモイイカラネラエ」


 ミシシッピの命令を受けたリザードの弓使いは、ミリア達後衛部隊に矢を射掛けてくる。

 ソフィーとアフラは飛んでくる矢を必死に切り落とすが、数が多くて数本は撃ち漏らす。


「ナー」


 ケットさんが左脚の魔力の爪”ストライク・ニャ―ニャ―・クロ―“で、その撃ち漏らした矢を切り落とした。


 さらに、リズに向かって飛んできた矢を、肉球から魔力を凝縮したビーム(?)を発射して撃ち落とす。


「ケットさん、素敵ッス! ありがとうッス!」


 リズがケットさんにお礼をすると、「ナー」と鳴いて答える。


(あの黒猫(?) 高性能すぎるでしょう……)


 ソフィーはそう思いながら、大活躍のケットさんを見ていた。

 そして、ケットさんはアルトンの街の方の空を見ながら、「ナー」と鳴く。


(あれ? 今またラッキー7号が勝手に進路を微調整した……)


 アキは出発してから、度々飛行ゴーレムが勝手に進路を調整することを不思議に思っていた。


 だが、先程からアルトンの街が、前方に見えていることから進路は合っているようなので、外部からの妨害でないと解ったので安心する。


「誰かが、導いてくれているの?」


 アキはそう呟くと、紫音が後ろから声をかけてきた。


「アキちゃん、後どれくらいで着きそうかな?」


「要塞まで残り20kmちょっとだから、私のMP回復の都合上あと5分ぐらい時速約60kmで進んで、そこから魔力フルパワーで時速300km出して3分で到着だから、合わせて8~10分かな」


 アキは今日3本目の高級魔法回復薬を飲みながらそう答る。


 アキはMPが続く限り時速300kmの推進飛行で飛んで、切れたら時速60kmを維持しながらの惰性飛行で飛ぶ間に、MP回復を繰り返しここまで飛んできていた。


 正直もう回復薬を飲みたくないが、何とか飲んでいる……


 事が全て済んだら、今回の事を盾に新作のBL漫画に紫音をTS化したキャラを出して、総受けさせるのを承諾させ、思いの丈に描きまくる欲望だけが、今の彼女を突き動かしていた。


 勿論、親友との友情のためでもある。今の比率は欲望7:友情3


 その頃、ユーウェインはヒュドラが近づく前にカードを一枚切る事にし、レイチェルに指示を出す。


「レイチェル、女神武器で出来るだけ数を減らしてくれ!」


 ヒュドラが近づいてきて、ウォーターブレスの範囲に自軍が入る前に、できるだけリザードの数を減らしたい為であった。


 女神武器の特殊能力は、基本的には武器に取り付けられている、女神の宝玉に蓄えられたオーラ若しくは魔力を消費して使用するため、一度使用すると再使用には時間が掛かる。


 不用意に使用してしまうと、必要な時に使用できない事態に成りかねず、そのため使用する時は状況を判断して行わなければならない。


 レイチェルはゲイパラシュの特殊能力を、発動させると近くにいたリザードに突進する。


 リザードの槍による突きを躱すと、リザードが槍を引き戻して再度突くよりも速く、オーラを放出して加速させた戦斧の部分で、リザードの袈裟に重い一撃を叩き込み、そのまま横に構えてオーラを放出させ加速させたゲイパラシュでリザードの首を切断した。


「アクセルブレイクスマッシュ!」


 レイチェルはそのまま次の敵に向かい、一体又一体と倒していき7体倒した所で特殊能力の発動が終わってしまう。


 だが、そこで遂にヒュドラがウォーターブレスの射程内に人間達を捉えた。

 ヒュドラは9つの頭全てから、ウォーターブレスを吐いて戦っている兵士・冒険者を襲い始める。


 ウォーターブレスは水属性であるため、水属性に耐性の高いリザードにとっては、大したダメージにはならないが、人間にとっては大ダメージになる。


 そのため、ヒュドラはリザードごと標的の人間にウォーターブレスを当ててくる為、リザードとの戦闘に気を取られている人間は次々とダメージを与えられていく。


 ヒュドラにより人間側は一転して、危機に陥る事になった。


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