80話 腐女子少女と聖女様 その3







 次の日、アキが昨日と同じ時間にナタリーの部屋で、BL談義をしていると彼女からこういう話をされる。


「アキ、アナタこの漫画をもっと多くの人達に、見て貰いたいとは思わないかしら?」

「それって、どういう意味ですか?」


「これ程キュンキュンする作品が、このまま埋もれるのは勿体ないわ。これを印刷して、多くの同輩達に読んでもらいましょう。まずは、この教会にいる同士達に配りましょう。それで、作品の反応を見ましょう」


「でも、今の私には製本代はありません……」


「それは、私が出すから気にしないで。私はこの作品を広めて、今の不遇なBL界を盛り上げたいの」


 ナタリーもこの世界における、今のBLの現状を憂いていたようだ。


「では、お願いします」


 アキはナタリーに賛同して、原稿を託すことにした。

 一週間後、いつものようにアキがナタリーの部屋に来ると、彼女から少しのお金を渡される。


「これは?」


「アナタの漫画の売上よ。今回は試しとして格安の値段設定と少ない部数で販売したから、売上がそれだけしか無いけれど作品は好評だったから、次回からはもっと価格設定を上げても良いかも知れないわね」


「製本代はナタリーさんが出したんですから、このお金はナタリーさんが……」


「大丈夫よ、ちゃんと製本代は貰っているから。私は教会に仕える身だから、それ以上のお金はいらないわ。それに、漫画を描くにもお金はかかるでしょう?」


(確かにいつまでも、フィオナ様に頼るわけにもいかない……)


「わかりました、遠慮なく頂いておきます。ところで聖職者って、お金儲けしても良いんですか?」


「これは、私の商売ではなくアキ、アナタの商売よ。私はその道筋をつけているだけよ」


 アキはナタリーが同士とはいえ、どうして自分の為にそこまでしてくれるのか疑問に思い尋ねることにする。


「どうして、そこまでしてくれるのですか?」

「もしかして、迷惑だったかしら?」


「いえ。私としては、とてもありがたいことです。でも、ナタリーさんにはメリットが……」


「フィオナ様がね、アナタの絵が上手だから将来その道で、活躍させてあげたいと言っていたの。だから、アナタの漫画を見た時にコレはいけると思ったわ。まあ、フィオナ様が思っているような作品の作家ではないけれど……」


「フィオナ様が、そんなことを……」

「アナタがBL漫画家になる計画を、このまま進めても良いのかしら?」


「はい、お願いします」

「次の作品も期待しておくわ」


 アキはその日から新作を描き始めた。


「販売するとなると前作より絵の質を上げて、ページ数も増やして……」


 だが、それは作業量の増加を意味しており、家事の合間に作業をする今のスタイルでは時間が掛かる。


「そうだ、ゴーレムを作って簡単な作業をさせよう。戦闘をこなせるなら、簡単な作業だって出来るはず」


 アキはさっそく庭に出ると、女神の鞄にしまったきりであった【女神武器】エメトロッドを取り出すと、鞄に入っていた説明書の通りに頭に造りたいゴーレムをイメージしながら、ロッドに魔力を込めてゴーレムを造り出す。


「いでよ、ゴーレム!」


 アキの前に魔法陣が現れ輝くと、魔法陣の中からイメージ通りの可愛らしいゴーレムが出現する。


「よし、さっそく命令を出してみよう」


 アキは頭に消しゴム掛けの作業をイメージしながら、ロッドに魔力を込めるとテスト用原稿に消しゴム掛けを命じた。


 ゴーレムはぎこちなくではあるが、消しゴムかけを行う。


「よし、うまくいったわ。これで、作業の時間短縮が出来る」


 アキはその後、もう一体造り出しベタを塗る作業を命令する。

 だが、流石にベタ塗りは難易度が高く最初は上手く行かなかったが、アキは根気よくゴーレムに作業を覚えさせて、何とかベタ塗りの作業をできるようにさせた。


 そして、何とか1ヶ月でゴーレム達の手伝いもあって、第二作目を完成させる。

 アキは、完成した漫画をナタリーに見て貰うために教会に向かうと、女神像に向かって祈りを捧げている銀髪の少女がいた。


「女神様、どうか私にレアカードを引く幸運を与えて欲しいッス! ドラゴンを、それが駄目ならせめてヒュドラを!」


 どうやら、今流行りのカードゲームのいいカードが欲しいようだ。

 アキは、その少女を横目にナタリーの部屋に向かう。


「これ、前回の作品を増刷して得た売上よ。教会の同士から口コミで世間に広まったみたいで、是非売って欲しいと頼まれて増刷したの」


 ナタリーはアキに漫画の売上を渡す。

 アキは売上を受け取ると、第二作目を彼女に見てもらう。


「すごいわね、アキ。コレほどの漫画を、家事をしながら1ヶ月で描き上げるなんて」


「実は……」


 アキはゴーレムのことをナタリーに話した。


「ゴーレムを……。そのことは、フィオナ様は知っているのかしら?」

「いえ、まだ言っていません。今は私の部屋に隠れさせています」


 アキはこの世界に来てゴーレムを一度も見たことがなかったし、今まで目にした物語にではゴーレム作成は秘術となっている設定の作品もあったため、見せても良いものかどうか判断に迷ったからである。


 その話を聞いたナタリーは、慎重な彼女を褒めつつ注意を促しておくことにした。


「アキ、それは賢明な判断ね。ゴーレムを生み出す魔法は、普通の冒険者なら珍しい魔法だから貴重な人材となるけど、フェミニース教では擬似とは言え、生命を生み出す行為だから禁忌とされているわ。命を生み出すのは、あくまで女神様の御業とされているの。だから、できるだけ隠しておいてね」


「わかりました」


 二人が部屋から出てくると、丁度フィオナと会う。


「あの……、アキ。最近ナタリーとよく会っているようだけど、どうしてかしら?」


 フィオナがアキに質問してくる。


(BL漫画家の話は、フィオナ様にはしないほうがいいかな……)


 アキはそう考えると、彼女にこう答えた。


「相談相手になって貰っているんです」


 嘘は言ってない、そう考えてのアキの言葉。

 ナタリーもアキのその答えに合わせる。


「そういうことです」


 二人の答えを聞いたフィオナはアキにこう言ってきた。


「その相談は、私では解決できないのかしら?」


 フィオナが、自分も頼って欲しいとチラチラ見てくる。


「いえ、その……」


 アキが返答に困ると、ナタリーが助け舟を出してくれた。


「フィオナ様。では、私の相談に乗っていただけますか?」


 フィオナは、ナタリーに頼られて嬉しそうに、相談の申し出を了承する。


「いいですよ、ナタリー。私に困っていることを言ってみてください」


「では。私の上司が朝いつもギリギリに来て困っています」

「はぅ」


「ギリギリに来るだけならまだしも、たまに忘れ物をしてきます」

「はぅ」


「さらに、遊びに来た子供達の相手をするのに夢中になって、他の仕事を疎かに……」


「もう、ナタリーのそれは相談ではなくて、私への愚痴じゃないですか! ナタリーのいじわるぅ~!」


 フィオナは、半泣きで逃げるように去っていった。



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