81話 腐女子少女と聖女様 完結編






 そして、この世界で一年が過ぎた頃、アキはすっかりこの世界での生活に慣れてきて、気づけばゴーレムの数も六体に増えていて、扱いにもかなり慣れてきていた。


 ゴーレムは魔石電気充電スタンドに置けば、自分の魔力を消費せずに維持して動かし続ける事にも気付く。


 だが、さすがにフィオナにBL漫画のこともゴーレムのことも、隠すのが難しくなってきており、アキがナタリーに原稿を見せに来ると、いつも冷静な彼女が少し興奮した感じで報告してきた。


「アキ、出版社がアナタと契約を結びたいと言ってきたわ!」

「本当ですか?!」


「ええ、アナタの漫画の評判が、遂に彼らにまで届いたのよ。でも、商業用作品ともなると今の制作スタイルでは無理ね……。フィオナ様の家を出る時が、来たのかも知れないわね」


「家を出る……ですか?」


「ええ、不安になるのは解るけど、BL漫画を総主教であるフィオナ様の家で、大々的に造るわけにはいかないでしょう?」


「たしかに……、そうですね……」

「アキ。どうするかは、アナタが決めなさい」


 アキは悩んだ。BL漫画家になるのは夢の一つであったし、こんなチャンスはそうそうないこともわかっている。


 この歳で一人暮らしは正直不安であるし、まだ何も恩を返せていないのに世話になったフィオナと離れるのは心苦しく、何より姉のように敬愛している彼女と別れるのは寂しかった。


 アキがそう悩みながら暗い顔で、夕食を食べているとフィオナが語りかけてくる。



「アキ、何を悩んでいるのですか?」

「えーと、その……」


「アキ、ナタリーから聞きました。私の事を気にする必要なんてないのです。アナタの夢を追いかけるべきです。誰の人生でもなくアナタの人生なのだから、後悔しないようにして欲しいのです。」


「でも、私がいなくても朝起きられますか?」


「大丈夫ですよ。アナタが来る前だって、ちゃんと起きていたのですから。だから、気にせず夢の為に頑張ってください」


「フィオナ様……」

「頑張って漫画家になってくださいね」


 ちなみに、フィオナはナタリーからアキは普通の漫画家になるために、出ていくと説明されていた。


「はい、がんばります」


 こうして、アキはフィオナの家から、ゴーレム達を引き連れて出ることを決意する。

 アキが出ていったその日、教会でフィオナとナタリーがこんな話をしていた。


「明日から、アキが居なくてちゃんと朝起きられますか?」

「もう、どうして二人して同じことを聞くのですか!?」


 フィオナは少しムスッとした顔をしながら、ナタリーに言い返す。


「ソレが事実だからです」

「ちゃんと、起きられますよ! 明日見ていなさい!」


 フィオナはナタリーに宣言した。


 次の日の朝

 フィオナの枕元にある目覚まし時計のベルが部屋に鳴リ響く。


「目覚し時計さん、うるさいです~」


 フィオナは寝ぼけながら、目覚しのベルを止めて二度寝に入ろうとすると、何かに体を揺らされる。


「あと五分、いえ、あと七分眠らせてください……」


 フィオナが起きずに抵抗すると、何かに頭をハリセンで叩かれてしまう。


「あうっ」


 彼女が驚いて起きるのを確認すると、その何かはアキの部屋だった場所に急いで戻っていく。フィオナが後を追って部屋に入ると、ハリセンを持ったネコに偽装された可愛いゴーレムが、魔石電気充電スタンドで魔力を充電していた。


「可愛いネコさんですね、アキ……」


 フィオナは、こうしてアキが居なくても、遅刻しないで済むようになった。


 アキはその後一年間は、ナタリーが手配してくれた王都の借家でゴーレム達とBL漫画制作に奮闘し、時々フィオナやナタリーに会いに行ったりして過ごす。


 そして、人気新人BL漫画家になったアキは仕事量も増え、そのために増やしたゴーレムの数が10体を超えたところで、借家が手狭になってしまったため新たな家に引っ越すことにする。


 風景の資料として集めていた中に、元の世界で住んでいた風景に似ているファルの村の風景があり、そこだと人も少ないためゴーレムも目立たないと思い、今まで得た売上を使って思い切って移住することにした。


 ゴーレムではなく普通に人を雇うのも考えたが、健気に頑張って作業している可愛いゴーレム達を見ていると、情が移って土に返すのが可愛そうになってしまったからだ。


 王都を旅立つ日アキは世話になった、フィオナとナタリーに今までお世話になったお礼をするために教会に来る。


「アキ……、たまには、遊びに来てくださいね……」


 フィオナは悲しそうにアキにそう言った。


「フィオナ様、自分からそういう事を催促しないでください」


 ナタリーは少し呆れながら、フィオナにそう言ってから、アキの門出を祝う。


「元気でね。アナタの活躍を期待しているわ」

「はい、ナタリーさん。今までありがとうございました」


「フィオナ様、必ず遊びに来ます。私もフィオナ様に会いたいですから……。あと、あのネコをできれば大事にしてやってください」


「はい、勿論大事にします。アキ……、いつでも私の家に帰ってきてもいいですからね。元気でね……」


「はい、フィオナ様もお元気で……」


 二人は抱き合い、しばしの別れを済ます。

 こうして、アキは恩人二人と別れてファルの村に住むことになり、アキが旅たった後、二人は会話する。


「寂しくなりますね……。それにしても、良かったのですか?」


「可愛い子には旅をさせろというではないですか。それに、私が冒険者育成学校に入って両親から離れたのは13歳でした。アキは今16歳ですから、一人で旅立つには早くないと思います」


 フィオナは、アキが立派な漫画家に成ることを祈り、ナタリーは立派なBL漫画家になっていい作品を、どんどん供給して欲しいと思うのであった。


「ということで、第二部”アキちゃんBL漫画家になる”は、以上で終了です」

「アキちゃんは、フィオナ様と少しの間一緒に暮らしていたんだね」


「うん、すごくお世話になったよ。今でも新作ができるたびに王都まで行って、ナタリーさんにその新作を渡して、そのままフィオナ様に会っているんだ」


「そうなんだ。じゃあ、今回も行くの?」


「うん、明日にはカリナさんが刷り上がった新刊をアルトンの印刷所から持ってきてくれるはずだから、それを受け取ったら行くつもりだよ」


 アキが嬉しそうにそう語る。


「そうかぁ、私も一緒に行こうかな~。私も、フィオナ様にはお世話になったし……」

「じゃあ、一緒に行く?」


「うん」


 もうすっかり忘れているが、リザード侵攻まで後1日。

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