73話 少女の過去
前回のあらすじ……
宝って人それぞれだよね、仲間だったり、貴重品だったり、BLだったり、そういうお話でした。
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紫音達が街に帰ってくると、街では獣人侵攻軍の四天王が二人で来るという神託の話で持ちきりであった。
「今度の防衛戦は、大変なことになりそうね……」
ソフィーがその話を聞いてそう呟く。
他の者も前回参加した時のことを思い出し、そうなるであろうと考えていた
紫音は屋敷に戻ってくると、ミリアが部屋に戻ったのを確認してリズに話しかける。
「リズちゃん、もしかして気付いている?」
「宝のことッスか?」
「やっぱり、気付いていたんだ……」
「まあ、アレだけ時間が掛かった割に、持って帰ってきたのが薬品3つッスから……。私達をがっかりさせないために相談していたのか、ミリアちゃんがやらかしたのか、まあどっちかとは思っていたッス」
「リズちゃん、ミリアちゃんには……」
「解っているッス。お姉さん達が頑張って対応したのに、そんな野暮な真似はしないッス」
リズはそう言って、部屋に戻っていった。
「あのジト目、結構良いやつじゃない……」
ソフィーが話を聞いていたのか、紫音の後ろからそう話しながら近寄ってくる。
「リズちゃんは元から、良い子だよ。まあ、たまに言い過ぎるだけで……」
紫音はフォローできたかどうかわからない事を言ってしまった。
次の日、クリスから話がしたいと呼び出され、ソフィーに気付かれないように屋敷を抜けて彼女と合流する。
二人は以前話をした街外れまで来ると、クリスは紫音に話を始めた。
「シオン、獣人侵攻軍の神託の話は聞いたかしら?」
「はい、四天王が二人来るって奴ですよね?」
「そう、それよ。今でも戦力がギリギリなのに、かなり厄介なことになるわ。シオン、貴方とリズちゃんはどれだけ武器を使いこなせるようになったの?」
「リズちゃんは、かなり使えるようになっていると思います。私の二刀流は正直な所、付け焼き刃ってところです……。ソフィーちゃんにも、一刀のほうが強いって言われちゃいました……」
クリスは紫音の進捗状況を聞くと彼女にこう話す。
「そう、ではやはり戦力補強のために、例のカードゲームの作者に会うしかないわね」
「あの、転生者かも知れないと言っていた人ですか?」
「ええ、そうよ。もう一度なんとか会うためのアポを取ってみるわ。シオン、アナタは他の転生者らしき人物を知らないかしら?」
紫音はそんな人思い当たるわけがないと思ったが、昨日のエレナとのやり取りで一人頭に思い浮かぶ。
「オータム801さん……」
「オータム801? それはペンネームかしら?」
クリスの質問に紫音は頷くと続けて答えた。
「はい。その……、漫画家さんです。私の知り合いの話によると、今までにない表現方法で2年ぐらい前から突然現れた方なんだそうです。カードゲームの作者さんに似ているとは思いませんか?」
「確かにそうね……。会って見る価値は、あるかも知れないわね」
「でも、クリスさん。例え会えたとしても、一緒に戦ってくれるでしょうか? もしかしたら、私達のようにフェミニース様の強化を、受けていないのかも知れませんよ? だから、冒険者ではないのだと思います」
紫音の見解にクリスは自分の考えを述べる。
「アナタの言うことも一理あるけど、あの女神様の性格上未強化で、この世界に放り出すといことは無いわね。恐らく力はあるけど戦うのが怖くて、戦い以外の道で生きていくことにした者だと思うの」
クリスは更に話を続けた。
「私達は武術を習っていたから、戦うことに抵抗感がなかったけど、そうでないならあの平和な世界で育った者は、力があっても戦おうとは思わないかも知れないわね」
(確かに、そうかも知れない。私自身剣術を習っていたけど、魔王を倒せと言われて正直なところ最初は嫌だったし…)
紫音は過去の自分を省みて、クリスの意見に納得する。
「それに女神様は無理に戦わなくてもいい、人々の役に立つ立派な女性になるようにと言っていたでしょう? まあ、カードゲーム作者や漫画家がこの戦いの世界で、どう評価されるのかはわからないけど……。そういう活躍の仕方もあるということよ」
紫音は剣術以外にも、何か役立つ事を習得しておけばと思う。
「では、シオンはオータム801さんに会ってみて。私はカードゲームの作者に会って見るから」
「わかりました」
「あと、タイムリミットは三日後までよ。それが、リザードが侵攻してくる一日前よ」
(エレナさんにオータム801さんが、どこにいるか聞いてみよう)
紫音はクリスと別れて、屋敷への帰り道を走りながらそう考えていた。
(しかし、帰り道を走って帰って少しでも鍛錬しようって発想になるあたり、私はホント体育会系だな……)
屋敷に帰ると、ソフィーが騒騒しくやってきて紫音に詰め寄る。
「ちょっと、朝っぱらから黙ってどこに行っていたのよ!? まさか……、私に黙ってお姉様と会っていたってことはないでしょうね?!」
(ソフィーちゃん鋭いな、コレが恋する乙女の勘ってやつなのかな?)
ソフィーの乙女の勘に感心する紫音。
(勘に感心するって……、ダジャレじゃない!)
紫音はくだらないダジャレに自分で突っ込んで、思わず可笑しくなってしまう。
「何一人で急にニヤニヤしだしているのよ、気持ち悪いわね」
そう指摘され紫音は少し恥ずかしくなって、違う話題を切り出す。
「ソフィーちゃん、練習は暫く無しにするね。オータム801さんに、会わなくてはならなくなったの」
「オータム801って、エレナさんが持っていた例の漫画の作者よね!? アンタまさか……」
ソフィーは紫音からその名を聞いて疑いの目を向ける。
「ソフィーちゃん。興味があるなら、お姉さんと一緒に会いに行くかい!?」
紫音はソフィーの肩に手を置きながら彼女を誘う。
「行かないわよ、私は微塵も興味ないわよ! エレナさんとでも行きなさいよ、私は屋敷で一人訓練でもしているわよ!」
(これでソフィーちゃんは来ないと…)
紫音がソフィーを態と来ないように仕向けたのは、オータム801が転生者だった場合、話の内容次第では聞かれては色々まずいからである。
「ソフィーちゃん!」
ソフィーは誘いを拒否するとその場を後にしようとするが、紫音に大きな声で呼び止められる。その声には明らかに圧があった。
「なっ、何よ、いきなり大きな声出して……。疑ったこと怒っているの?!」
「どうして、エレナさんは”さん”付けなのに、私はフルネームかアナタ呼びなの?!」
「そういうところよ!」
ソフィーはそう言うと今度こそ、その場を後にする。
ツンデレ少女と別れた紫音は、エレナにオータム801の居場所を聞きに来ていた。
「エレナさん、以前言っていたオータム801さんが、今いる場所をもう一度教えて下さい」
「アルトン南西の山を一つ越えた所の、山間部にあるファルの村です。ここからだと定期馬車で1日といったところでしょうか。しかし、どうしてそれを?」
「いえ、ふと気になっただけです」
紫音は急いで旅支度をすると、ファルの村行きの定期馬車に何とか間に合って乗り込んだ。
馬車は田舎行きの為か乗客は紫音一人であった。
馬車の中で、紫音は一人で乗っているためか眠気に襲われる。
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中学3年生の夏――
「紫音ちゃん。明日、一緒に秋葉原に行かない?」
「ごめん、アキちゃん。明日は出稽古の日だから」
「そうなんだ。じゃあ、頑張ってね」
「うん」
次の日、私が出稽古から帰ってくると、村は大騒ぎになっている事に気づく。
「どうしたの、お母さん? 村がなんだか騒がしくなっているけど……」
「大変よ、紫音! アキちゃんが! テレビ見て!」
「え!?」
テレビに流れたニュースには、秋葉原で通り魔事件があったと流れていた。
葬式が終わった後、私は自分の視界が暗くなっていく。
そして、そのまま意識を失う。
弱い私は幼馴染のアキちゃんの死を、その深い悲しみを受け止めることができなかった…
だから、アキちゃんとの思い出を記憶の奥に封じ込めて、忘れることで悲しみに対する心の平穏を保ったのだ。
だから、その後の高校で他人と深く交わらずに一定の距離を保って過ごした…
二度と大切な人を失う悲しみを味合わないように……
こちらの世界に来てから、アキちゃんのことを思い出すようになったのは、この世界に来る前にフェミニース様が私の心を強くしてくれたため、心の弱さが封じていたアキちゃんのことを強くなった心が今なら受け入れられると、その封印を解いたのかも知れない…
私は馬鹿だ……、悲しみに耐えられないからと言って、大切な親友のことを忘れてしまっていたなんて……
紫音は目覚めると、全てを思い出して一人馬車の中で涙する。
暫く窓から馬車の外の風景を見ていると山肌に囲まれた風景から、峠道を抜けたために景色が広がった。
紫音は下り道から眼下に見えるのどかな山間部の村の風景を見て、元の世界で住んでいた村の風景と重なる印象を受ける。
そして、それはここに住むことを選んだオータム801が、親友のアキであることを裏付けるような気がした。
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