72話 宝って・・・






 残りのオーガ二体は、攻撃されたリズの方に向かっていく。

 それを見た紫音は、すぐさま後を追いかける。


 迫ってくるオーガに冷静に照準を定めると、リズはミーに魔法の矢の発射命令を出す。


「ミー、GCファミリアを先頭のオーガに4発、後ろに2発、発射ッス!」

「ホ――」


 ミーが命令通り発射すると先頭のオーガの頭に、GCファミリア4発とリズの放った矢が当たり魔石へと姿を変えるが、後ろのオーガは健在で少しふらついた後再びリズに迫ってきた。


 リズが回避行動に移ろうとした時、オーガの周りをGCファミリアが飛び回り撹乱する。


 オーガは武器で切り払おうとするが、女神武器はオリハルコンよりも硬い材質で作られているため、このオーガの持つ武器では破壊できない。


 オーガがGCファミリア相手に梃子摺っている間に、ソフィーがリズを抱えて助け追いついた紫音がオーガを斬り捨てる。


「ソフィーお姉さん、ありがとうッス」


「びっくりだわ。アンタもそうやって素直にお礼が言えるのね」


 ソフィーはリズが素直にお礼を言ってきたので驚いた。


「私はツンツンお姉さんと違って、”もう! 今のは、別に助けてもらわなくても、大丈夫だったんだからね!”とか捻くれたことは言わないッス。ちゃんとお礼が言える良い子ッス」


「アンタのどの口が良い子とか言えるのよ! あと誰がツンツンよ!」


 紫音が言い争っている二人を仲裁する。


「二人共喧嘩はそこまでだよ。まだ、拠点の中に魔物が残っているんだから」

「はいッス」


 魔法回復薬で、MPを回復させながら反省するリズ。


「わかっているわよ……」


 ソフィーも大人気なかったと反省しているようだ。


「ところで、今日はここでもう帰らない?」


 さっきの戦闘で精神的に疲れて、つい弱音が出てしまう紫音。


「何言っているのよ! あと、残り少ないんだから頑張りなさいよ!」


 紫音はソフィーにそう言われて、折れかけた心をなんとか立て直す。

 何より、年下達の自分を見る期待の目に答えたかったからである。


「そうだね、私が悪かったよ! よーし、残り頑張るぞ!」

「ホントびっくりするわね……」


 ソフィーは、紫音の冒険者としての覚悟の無さに少し呆れながらも、立ち直ったので彼女への評価は、まあ今回は次第点としておくことにした。


「ソフィーちゃん。拠点の中にいる敵は、どうやっておびきだすの?」


「そうね……。色々あるけど今回は拠点自体小さいから、ミリアに魔法で燻り出せるのもありかもね。あの見えている入り口の奥の方に魔法を撃ち込むの。詠唱途中で気づかれたらそのまま戦闘、詠唱できてそのまま魔法で倒せるのが一番いいわね。外れたら敵が出てくるからそれを倒す。まあ、そんなところかな」


 リズの回復を待って作戦は実行される。


「オーガは雷が弱点だからね」


 ミリアはソフィーのアドバイスを聞くと、射的距離ギリギリから魔法を詠唱した。

 紫音達は、オーガがいつ襲ってきてもいいようにミリアの前で武器を構える。

 暫くすると長い詠唱が終わり、ミリアが魔法を放つ。


「スパーク!」


 ミリアはご丁寧に雷属性最高位魔法“スパーク”を、拠点内部に叩き込んだ。

 拠点内部に轟音と共に激しい雷が、眩しい光を放ちながら放電され続ける。


「眩しい!!」


 一同は拠点内部の激しい放電の光で、まともに拠点を見られずにいた……

 魔法が終わると、暫くしたからヨロヨロとオーガ三体が瀕死の状態で出てくる。


「ミー、GCファミリア発射ッス!」

「ホ――」


 リズが無慈悲に発射命令を出し、三体のオーガに2発ずつ魔法の矢を命中させ魔石へと変化させた。


「慈悲はないッス!」


 紫音は宝を回収するため注意しながら拠点の中に入ると、中は外見通り狭く中には魔物はもういない。


 そして、部屋の奥には宝箱だったらしきものがあったが、スパークで見事に消し炭になっていた……


「これは……、どうしたものか……」


 紫音は手招きでエレナを呼ぶ。


「シオンさん、どうしたのですか?」


 そして、エレナは中を見て呼ばれた理由を理解した。


「これは、困りましたね……」

「もう、貴方達何をやっているのよ、さっきから!」


 ソフィーは年上二人が拠点に入ったまま出てこないので、業を煮やしてやってくる。


「ああ、そういうこと……」


 そして、中の惨状を見てソフィーは全てを理解した。


「どうしようこれ!? ミリアちゃんが知ったら、自分のせいだって落ち込んじゃうよ! それで部屋に閉じこもっちゃうかも……。そうしたら、みんな揃ってミレーヌ様にアイアンクローだよ!?」


「嫌よ、あんなの二度とごめんよ!」


 ソフィーは以前された時のことを思い出して、思わず頭を護りながら発言する。


「こんなことなら、魔法を拠点内部に撃ち込もうって言いわなきゃよかったわ~!」


 半泣きのソフィーが、自分の提案を後悔していると紫音がこう言ってきた。


「今更言っても仕方ないよ! それより今は宝をどうするかだよ」

「これがあったことにしましょう!」


 お姉ちゃんズが動揺しながら思考していると、エレナは鞄からBL本を取り出す。


「これは、オータム801先生の初期の作品で流通量が少なく、ファンの間ではまさに<お宝品>なんです!」


 エレナは動揺のあまりとんでもないモノを取り出した。


「エレナさん落ち着いて! 純真なミリアちゃんにそんなモノ見せたら、それこそアイアンクローだよ! さらにプラス何かされるよ!」


「でも、私達が今持っているもので、誤魔化すというのはありなんじゃないの? 宝箱には必ずしも高価なものが入っているわけじゃないの。特にこんな小さな拠点のはね」


 ソフィーがそう言いながら、いいモノがないか鞄の中を探る。

 紫音達も、鞄の中を探してみた。


「宝箱の中身として合いそうなのは、この間の要塞防衛戦の時に支給されて、そのまま貰った高級体力回復薬ぐらいかなぁ」


「私も、そんな感じですね」


 エレナも高級体力回復薬と高級魔法回復薬を取り出す。


「私もそんなところね……。でも、高級回復薬が宝箱から出てくる時もあるみたいだからこれでいいかもね」


 紫音は思案して、一つ良い事を思い出した。


「そうだ、いい言葉を思い出した! ”宝は一緒に冒険した私達、仲間達なのだよ!”は、どうかな!」


 紫音が少しキメ顔で言ってみた。


「”宝は仲間”……、確かに素敵な言葉ですね、良いかも知れないです」

「いや普通に考えて駄目でしょう……」


 エレナは納得しかけるが、ソフィーがすぐさま冷静に否定する。

 ようやくお姉ちゃんズが、拠点から出てきた。


「どうだったッス、何かあったスか?」


 リズがジト目で聞いてくる。


「高級体力回復薬が2本と、高級魔法回復薬が1本だけだったわ……」


 ソフィーが薬品を見せながら答えた。

 彼女が答えたのは、年上二人は嘘が下手なので、ボロをだしそうだったからである。

 現に二人共、ソフィーの後ろで不自然な笑顔で立っていた。


「やはり、この程度の拠点ではそんなものッスね。その戦利品は、お姉さん達で分けてください」


 その答えを聞くと、リズはそう意見を述べる。

 リズとミリアが残念そうにしているのを見た紫音は、二人にキリッとした顔で思わずこの台詞を言ってしまった。


「リズちゃん、ミリアちゃん。宝は一緒に冒険した私達、仲間達なんだよ!」


 リズは「そうッスね」みたいな薄いリアクションを返してきたが、ミリアはその言葉に感動している。


 街への帰り道、冷静さを取り戻した紫音はエレナに、彼女だけに聞こえるような小さな声で質問した。


「ところでエレナさん。どうして、あんな本を持ち歩いていたんですか?」

「それ、私も気になったわ。さっきは動転してスルーしたけど……」


 ソフィーが聞こえていたのか、話に入ってくる。


「それは……」

「それは?」


 二人が興味津々で聞き返すとエレナは、目を輝かせて興奮気味に答えた。


「布教用です! 私はあと鑑賞用、保存用の2つを持っていますから!!」

「同じものを合計3つ!? 流通量の少ないお宝じゃなかったの?!」


 ソフィーが、すぐさまキレのある突っ込みを行う。


「私は販売当初に買ったので、そうではなかったのです! そういう理由ですからどうですか? 興味があるならお貸ししますけど?」


「結構よ!!」


 ソフィーは即座に拒否する。


(そう言えば、アキちゃんもお気に入りの本は、”お布施”だとか言って3つ購入していたなぁ……)


 紫音はそう思い出を振り返りながら、街への帰り道を歩いていた。

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