54話 謎の影、遂に現る・・・
この世界には獣人本拠点以外に、各地に生み出される獣人達が集まって小規模や中規模拠点が造られる。
その拠点の奥には、獣人達がどこからか集めた貴重な金属や宝が宝箱に収められており、大手ギルドはもっぱら要塞防衛よりも、貴重品の手に入るそちらの攻略を優先させていた。
とはいえ、拠点にはそれなりの高レベルの魔物がいて、戦力はそれなりに必要になる。
紫音とクリスが話し合いをした次の日、アルトンの街から南東に二日行ったところにあるオーガ野営陣に、大型クラン”龍の牙”がその宝を求めてやってきていた。
”龍の牙”は団員数50名で、”月影”のような突出した個はいないが、総合的な戦力では上である。”龍の牙”はいつも通りの手段で、まず拠点の外にいるオーガを各個撃破させていく。
「よし、次は拠点内部のオーガを殲滅するぞ! そうすれば、宝は俺達のモノだぞ!」
そうクランメンバーを鼓舞したのは、団長のダーレン・ウィンターであり彼は歴戦の猛者で、冒険者ランクSスキルランクAAの実力者であった。
”龍の牙”が拠点内部のオーガと戦闘を仕掛けようとした時、地面に大きな影が三つ現れる。
「何だ!?」
団員達がその影の正体を確かめるため空を見上げると、大きなグリフォンが三体空を飛んでいた。
「馬鹿な……!? どうしてこんな所にグリフォンが、しかも三体も突然現れるんだ!」
彼らが驚くのも無理はなかった。グリフォンが一度に三体も現れることは、今までなかったことだからだ。
すると、グリフォンの背中から全身黒い女性用鎧を着た女魔戦士が、”竜の牙”の後方に飛び降りてきた。
飛び降りてきた女魔戦士の顔は仮面で誰かはわからないが、黒い金属で造られた薙刀のような武器を持つ姿は只者ではないことが解る。
「何者だ、キサマ! 魔王の部下か!?」
「何者って? 聞かなくても解るでしょう? アナタ達を斃すものよ」
ダーレン・ウィンターが黒い女魔戦士に問いかけると、黒い女魔戦士は¥、悪意に満ちた笑みを浮かべそう答えた。
黒い女魔戦士が、薙刀の刃の部分の下に付いた宝玉に魔力を込め掲げると、彼女の前に大きな魔法陣が現れ黒く輝き出す。すると、その中から高レベルのロックゴーレムが現れた。
「さあ、やりなさい。ロックゴーレム!」
その命令を聞いたロックゴーレムは、”龍の牙”を襲い始める。
「さあ、もう一体いくわよ!」
黒い女魔戦士は先程と同じ手順で、もう一体ロックゴーレムを造り出す。
「アナタも行きなさい!」
ロックゴーレムに命令を出すと、彼女は薙刀を高らかに掲げると薙刀の宝玉が赤く輝く。
「オーガ達、アナタ達も攻撃を開始しなさい! そうそう、女は殺しちゃ駄目よ。あとイケメンと素敵なオジサマもね。魔王様はイケメンが大好きだから、お土産にするわ!」
そう指示を出すと、拠点からオーガ達が次々と出てきて、”龍の牙”達を背後から襲い始める。前からロックゴーレム2体、後ろからオーク達に襲われた”龍の牙”団員達は、苦戦を強いられ次々と戦闘不能に追いやられていく。
黒い女魔戦士は高級魔力回復薬を飲みながら、余裕の態度で高みの見物を決めている。
「このままでは、厳しいな……。だが、あの女魔戦士を斃せば魔物への命令が解けて、逃げ出せるかもしれん」
ダーレン・ウィンターは最後の望みをかけ、ロックゴーレムの攻撃を掻い潜り女魔戦士に突進した。
「私を斃せば……って訳ね。いいわ、相手になってあげる」
黒い女魔戦士は飲んでいた薬を捨てると、ダーレン・ウィンターが近づいてくる前に遠隔攻撃を行う。
「いけ! ステュムパリデス!」
そう叫ぶと、彼女の背中とマントの間から六つの金属で造られた物体が、彼を目掛けて飛んでいく。
ダーレン・ウィンターは、オリハルコン製の剣の二刀流でその遠隔武器を全て切り払うと、そのままオーラステップで急接近し鋭い斬撃を連続で繰り出す。
その強力な斬撃に、女魔戦士は防戦一方になり追い込まれていく。
「やはりな! キサマのような召喚士タイプは、近接戦闘スキルは大したことない!」
ダーレン・ウィンターの強力な攻撃の前に、遂に女魔戦士は薙刀を弾かれ、手から放してしまった。
「しまった!?」
「これで、終わりだ!」
ダーレン・ウィンターがそう言葉を発して、武器を失った彼女に剣を振り下ろそうとしたその時―!
彼の剣を持った腕と体に激痛が走り、自分の体を見ると体に先程切り払った金属で造られた物体が六つ刺さっている。
「勝ったと思った? 残念! それはね、私が造ったオリハルコン製の鳥型小型ゴーレムで”ステュムパリデス“っていうの」
ステュムパリデスは彼女が造った、特別製のゴーレムである。ゴーレムだから勿論、自立型で動いて目標に攻撃を行う。
オリハルコン製なので、小型でも強力なダメージをその尖った嘴で与えることが出来る。しかも、鳥型なので空を自由に飛んで、死角から攻撃できるため回避も難しい。
「わざと押されている振りをして、油断させたのよ」
女魔戦士はそう言いながら、瀕死の彼を横目に薙刀を拾い上げる。
「こんなゴーレムがあるとは……、ゴフッ」
ダーレン・ウィンターはその場で血を吐いて、力尽き倒れた。
「団長が……」
絶対的なリーダーであったダーレン・ウィンターが敗れたことで、”龍の牙”の団員達は心を折られ次々と敗れていく……
「さてと、抵抗しないなら殺しはしないわ。さあ、オーガ達! 男性団員を全てあのグリフォンに取り付けられている檻に入れなさい。女性団員は街に帰っていいわよ」
男性団員達にはすでに抵抗できるだけの力はなく、オーガ達に檻の中に運ばれていく。
女性団員達は、連れて行かれる者達に負い目を感じながら抵抗する術もなく、重症のリーダーを連れてその場を去っていった。
「精々、派手に宣伝してね……。人間達が、後方でも油断できなくなったことを……」
その女性たちを見ながら、彼女はそう呟いた。
「魔王様に、いいお土産が出来たわ。さあ、魔王城まで帰るわよ!」
女魔戦士はグリフォンの背中に乗ると、グリフォン達に命令を出し魔王城に帰還するためその場を後にした。
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