43話  これってNTR?





「ついに到着した……」


 あと数時間で熾烈な戦闘になると思うと、紫音は急に緊張してきて馬車から降りるのを躊躇してしまう。


(降りずにこのまま帰るっていうのも、アリなのではないか……)


 紫音はそう思ってふとミリアを見ると、彼女が自分を見ながら不安そうにしていることに気付く。


(駄目! 駄目! 私はミリアちゃんやリズちゃんに、憧れられるようなお姉さんにならなければなんだから! 私が範を示す行動を取らないと!)


「ミリアちゃん。さあ、勇気を出していこう!」


 紫音は自分を奮い立たせるとミリアに手を差し伸べて、今自分にできる最高に自信に満ちた顔で、彼女と自分に言い聞かせるように言葉を口にする。


 ミリアはその頑張って虚勢を張っているお姉さんを、憧れの眼差しで見ながら自分も頑張ろうと決意し、紫音の指し出した手を握って座席から立ち上がった。


 要塞の大きな門を抜けた先の入り口付近で、兵士が薬品の支給品を配っていたのでそれを受け取り要塞内部に入る。


 スギハラやクリスの後ろに付いて歩いていると、内部は兵士や冒険者達ですでに一杯になっていた。


「人がいっぱい居ますね」

「ここの兵士や他のクランの冒険者、単独の冒険者など合わせて200人ぐらいはいるだろうな。数の上では互角だが……」


 スギハラはそこで話を止める。


 暫く歩いていると、”月影”のメンバーが集っている場所にたどり着く。

 紫音達に気付いたアフラが近寄ってくると挨拶してきた。


「今日はみんなと、カシード先輩の代わりに一緒に戦うよ、よろしくね!」


「はい、よろしくおねがいします」


 アフラの挨拶を受けた紫音一行は、彼女に返事を返す。


「居たッス!」


 暫くするとリズがキョロキョロ周りを見ていると、誰かを見つけて紫音の後ろにすぐさま隠れる。


 紫音はリズが見ていたほうを見ると、城壁の上で指示を出している立派で強力そうな弓と同じく立派な軽装鎧を身に纏った女性が立っていた。


「あの人がリズちゃんのお姉さん?」

「そうッス。見つかると厄介なので、暫くこうさせてくださいッス」


 紫音が自分の後ろに隠れているリズに尋ねると、彼女は背中から答えてくる。

 リズの姉はこちらを見ると突然城壁からジャンプして、その下の建物の屋根に降りるとそこからさらに降りてこちらにやってきた。


「凄い、あの高さから降りてくるなんて……」


 その光景を見た紫音が、感嘆の声を挙げているとリズの姉がこちらに近づいてくる。


「リズ。アナタが要塞防衛戦に、参加するなんて思わなかったわ。どうせアナタの事だから、面倒くさいって言って来ないと思っていたわ」


「人違いでは? 私はリズなんて子ではないですよ」


 リズは少し声を高くして、語尾の“ッス“もやめて紫音の後ろから否定した。

 だが、リズの姉はすぐさま妹のミスを指摘する。


「リズ、グシスナルタを持っていて、誤魔化せると思っているの?」

「そうだったッス……」


 ジト目少女は観念して、渋々紫音の後ろから出てきた。


「アナタがシオン・アマカワさんかしら? アナタのことはミレーヌ様から聞いています。うちの愚妹がいつもお世話になっています。私はリディア・エドストレーム、この要塞で弓部隊を率いています。どうぞよろしく」


 リディアはリズと同じ銀色の髪で、髪は邪魔にならないように、紫音と同じでポニーテールにしている。


 リズと違ってジト目ではなく、意志の強そうな眼をしており、優しい中にも厳しさのあるそんな印象を受ける綺麗で凛とした20代前半の女性だった。


「シオン・アマカワって言います。こちらこそ、妹さんにはいつもお世話になっています」

「フフッ……。別に気を使わなくてもいいのよ、シオンさん。どうせこの子ことだから、矢弾代をカードゲームなんかに使って迷惑をかけているのでしょう?」


(さすがお姉さん、鋭い!!)


 紫音は思わずそう言いかけて、言葉を何とか飲み込んだ。


「いっ、いえ。妹さんは弓の技術が、とても凄くてとても頼りになっています」

「そう、それなら良かったわ」


 リディアは妹が役に立っていると聞くと嬉しそうだった。


「スギハラ、今回も頼むぞ」

「おう、カムラード任せとけ」


 ユーウェインがスギハラの所に歩いてきて、そう言い合いながら二人は握手する。


「シオン君達もよく来てくれた、感謝する」

「はい、迷惑にならないように隅の方で頑張ります!」


「シオン君。できれば君にはスギハラ達と一緒に前線で、戦って欲しいのだがどうだろうか?」


 ユーウェインは、申し訳無さそうな表情で紫音に依頼してきたが、初めての要塞戦で不安な彼女はこう答えた。


「防衛戦は今回が初めてなんですけど……」


「君の実力なら充分、前線での戦力になると思っている。我々には正直な所、君のような優秀な冒険者を後方で遊ばせておく余裕はない。人類の未来のためにも頼む!」


 紫音は少し考えた後、一念発起して力強く答える。


「わかりました、やってみます!」

「無理を言ってすまない」


 彼女がそう答えると、ユーウェインは申し訳無そうに礼を言ってきた。


「シオンさん、リズを私の指揮下に置きたいのだけどいいかしら? 弓兵は1人でも多く必要なの」


 そうリディアに聞かれてリズを見ると、彼女はジト目で紫音を見ながら首を横に振っている。


 だが、そんなリズに一念発起して気分が高揚している紫音は、目を輝かせてこのように熱く語りかけた。


「リズちゃん、人類の未来のためだよ!」


 紫音は” 人類の未来のため”という、ワードに胸を踊らせている。


(まあ、お姉ちゃんの側に居たほうが、むしろ安全かもしれないッス。それにお姉ちゃんの心象も良くなるかもしれないッス)


 そう思ったリズは…


「そうッスね! ”人類の未来のために”、私も頑張るッス!」


 ジト目を輝かせて、紫音のノリに合わせた。

 そのジト目の輝きは、もちろん打算によるモノである。


「リズ、よく言ったわ! アナタも少しは成長して、そんな事を言えるようになったのね! 何か裏がありそうだけど!」


 その妹の発言を聞いた姉は褒めながら、その考えを読んでいることを示唆してきた。

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