30話  新たな環境






 ロックゴーレムとの戦いから既に一週間が過ぎており、その間紫音は魔物を倒しオーラ技の修業を続けていた。リズやミリアと合流するまでは、遠出の依頼は受けられないと思ったからである。


 そんなある日、卒業式を終えたリズから連絡があり、教会前で待っていて欲しいと言われたので、二人は教会前まで来ると紫音は以前から気になっていたことをエレナに尋ねた。


「あの教会裏の施設の煙突から出ているキラキラと光る煙、アレは何ですか?」


 それは教会施設内にある本堂の裏に建てられた施設で、屋根から大きな煙突が出ており絶えずキラキラと光る煙を出している。


 紫音は脚を挫いてこの教会を訪れた時に見てから、ずっとあのキラキラと輝く煙の事が気になっていた。


「アレは【女神の炉】で【魔石】から、【魔石電気】に変換する時に出るものだと言われています。詳しいことは私達一般の信徒にはわからないのです」


 エレナは申し訳無さそうに答えた。

 しかし、元の世界でもそういう偉い人しか入れない不思議な施設はあったので、紫音はそれ以上聞かないことにする。


「そうなんですか……」


(元の世界の石炭火力発電所みたいなものかな? そうだとすると、大気汚染物質でないといいけど……)


 そう思っていると、目の前に見覚えのある馬車が止まる、ミレーヌ様の馬車だ。

 馬車の中からマスクとサングラスを掛けたミレーヌが出てくる。


「やあ、待たせてすまない。メガネが― セルフィが五月蝿いから少し時間が掛かってしまった。まあ、乗りたまえ」


 そう言われて馬車に乗り込むと、ミレーヌの横に座って寝ているエルフィの姿があった。


「あまりに五月蝿いのでな… スリープの魔法で眠らせたんだ」


(お気の毒に……)


 紫音はエルフィに同情しながら、一応ミレーヌにその奇妙な格好― もとい変装のことを尋ねておくことにする。


「ああ、これか。流石にこの時間帯に総督が馬車に乗って、うろついて居るところを見られると色々まずいのでな」


 公務をサボっているという認識はあるようだ。


(流石は総督に選ばれるだけの人、そのような客観的な視野はあるんだ…)


 そう感嘆する紫音であったが、同時にこうも思う。


(でも、それでも大事なミリアちゃんのためなら、秘書さんを眠らせて公務をサボるんだ……)


 だが、口には出さない。何だったら、顔にも出さない。

 もし、このような事を考えていると彼女にバレたら、アイアンクローをされるかもしれないからだ。


「そうなのですか……」


 紫音がそう答えると、エレナが驚いて彼女に質問してきた。


「総督って、まさかこの方はミレーヌ様ですか?!」

「エレナさんは、ミレーヌ様と初めてお会いするのですか?」


「はい。遠くからお見かけしたことはありましたが、会うのは初めてです」


 そう答えたエレナは、緊張と興奮が混じった表情で返事する。


「そうか、君がシオン君のPTメンバーのエレナ君か。こんな格好で失礼、始めましてミレーヌ・ウルスクラフトだ。よろしく頼む。ちゃんとした挨拶は屋敷に着いてからさせてもらうよ」


「はっ、はい。エレナ・ウェンライトです。閣下、よろしくおねがいします」


 ミレーヌを前に緊張するエレナの姿を見た紫音は、こんなおかしな格好した人でも、普通の人なら緊張するのかと思う。


 屋敷に到着すると、ミレーヌは変装をとりエルフィを起こす。


「はっ!? 私は一体!? ここは……!?」


 エルフィが突然起こされ困惑している内に、ミレーヌは馬車から降りる。

 紫音たちも馬車から降りると、ミレーヌに屋敷の中に招かれた。


 屋敷に入ると、入り口のソファーにリズとミリアが座って待っており、二人は紫音に気付くと近寄ってくる。


「お久しぶりッス、シオンさん」

「おひさしぶりです、シオンさん……」

「お久しぶり、ミリアちゃん、リズちゃん」


 3人は一週間ぶりの再開を喜ぶ。

 だが、ミリアはエレナの存在に気づくと、思わずリズの後ろに隠れてしまう。


 エレナは年上から挨拶すべきと思って、二人の目線まで体を屈める。


「はじめまして、リズちゃん、ミリアちゃん。エレナ・ウェンライトです。ヒーラーをやっています、これからよろしくね」


 そして、優しい笑顔と声で挨拶した。

 まあ、エレナは見た目はおっとりしたお嬢様風なので、そこまでしなくても相手に威圧感は与えないので問題は無い。


「リズ・エドストレーム ッス。弓使いッス、エレナお姉さん、よろしくッス」


 リズはそう元気に挨拶すると、エレナと握手する。

 お姉さんと付けているところが、まだ完全に心を許してくれてないのかなとエレナは思った。


「ミリア・パーネル……です。魔法使いです……。よろしくおねがいします……」


 ミリアは、何とか聞き取れるくらいの小さな声で、そう自己紹介する。

 大人しそうな表情と自信のない少し潤んだ目に、エレナも紫音と同じく庇護欲を大いに掻き立てられた。


 今すぐミリアを抱きしめてあげたい衝動を押さえながら、エレナはミリアと握手する。


「シオンさん、やっぱりいい子達ですね」


 エレナは紫音に嬉しそうに話しかけた。


「はい。そうですね」


 紫音も笑顔でそう答える。

(リズちゃんには気をつけて)と思いながら…


 こうして、紫音は新たなパーティーで冒険をすることになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る