29話  新たなる仲間







 紫音達が【冒険者育成学校】の試験スタート地点に戻ってくると、校長が三人の冒険者プレートを預けるように言ってきた。


「君達は、見事試験に合格した。これから冒険者プレートに冒険者ポイントを足して、【冒険者育成学校】卒業の証ランクFにする」


「私は卒業試験を、クリアーしただけなんですけどいいのですか?」


 紫音の質問に校長はこう答える。


「あのロックゴーレムを倒した君なら、冒険者ランクFに相応しいだろう」

「良かったッスね、シオンさん!」

「おめでとうございます、シオンさん」


 リズに続きミリアも小さな声で、祝福の言葉を言ってくれた。

 三人は冒険者プレートを校長に渡すと、校長は職員室に入っていく。


「三人は今のうちに装備を返してきたらどうだい?」


 ミレーヌの提言に従って、三人は装備を装備室に返しに行くことにする。


「シオンさんのお陰で私達も、無事試験合格することができたッス」

「ありがとうございました、シオンさん……」


 リズは装備を返却口に返しながら、紫音に感謝するとミリアも出せる限りの声で、紫音に感謝の言葉を述べた。


「こちらこそ、二人がいたからロックゴーレムを倒すことが出来たよ。二人共ありがとう」


 紫音は二人と握手すると、二人との別れが近づいていることを感じ寂しく思ってしまう。

 二人とは今日あったばかりなのに、何故か古くからの知り合いのような気がする。


 装備室から三人が戻ってくると、校長が三人のプレートを持って待っていた。


「おめでとう、これで君達は冒険者ランクFだ。これからも精進を怠らぬように」

「ありがとうございます!」


 冒険者プレートを渡された紫音達は、それぞれ校長に感謝の言葉を述べる。

 校長がプレートを紫音達に渡して立ち去った後、紫音は名残惜しいが二人に別れの挨拶をすることにした。


「リズちゃん、ミリアちゃん、今日はありがとう。私も頑張るから二人もこれからも冒険者としての― 」


「シオンさん…。私が【冒険者育成学校】を卒業したら… パーティーを一緒に組んでください…!」


 ミリアが紫音の別れの挨拶を遮って、今迄で一番大きな声でPTの申込みをしてきた。


「ミリアちゃん?!」


 紫音を始めリズ、ミレーヌが突然のミリアの申し出に驚く。


「わたし……、今まで引っ込み思案で……、リズちゃんとミレーヌさん以外まともに話したこと無くて……、それに人前だと緊張して上手く出来なくて……、怖がりだから魔物と戦うのもうまくできなくて……、それで、みんなに迷惑かけて……」


 ミリアは今まであまり人と話したことがないため、うまく話を纏められなかったが自分の気持ちを紫音に、伝えたくて必死に話を続ける。


「でも、シオンさんはそんな私を信じてくれて……、スライムを押さえてくれました。それに、ロックゴーレムの時も……、自分の身を犠牲にして守ってくれました……。だから、私はそんなシオンさんとこれからも一緒のPTで……、いたいです!」


「でも、ミリアちゃん。次は【冒険者育成高等学校】に入るんじゃあ……」


 そう言いながら、紫音はミレーヌの方を見る。

 すると、ミレーヌは少し考えた後にこう言った。


「ミリアちゃんがそう選んだのなら、私には何も言うことはない。私はただ見守るだけだ。それにミリアちゃんの才能なら、【冒険者育成高等学校】に行かなくてもあまり問題はない。卒業してもランクEになるだけだから、頑張り次第では先にランクEになれるかもしれない」


「だったら、私もミリアちゃんなら断る理由はないよ。むしろこれからも一緒にPTでいられるなら私もすごく嬉しいよ。でも、ミリアちゃん、私は今エレナさんって人とPTを組んでいるのだけど大丈夫かな? あっ、エレナさんは、とてもいい人で優しい人だから心配はないよ」


「シオンさんがそういう人だというなら、大丈夫だと思います……」

「そう、ならこれからもよろしくね」


 紫音はそう答えるとミリアに握手を求める。


「宜しくお願いします、シオンさん」


 ミリアは嬉しそうにそう言いながら、差し出された手に握手した。

 その2人の握手している手に、リズも手を乗せてきてこう言ってくる。


「ミリアちゃんが、シオンさんとPTを組むなら私も勿論一緒に組むッス。いいッスよね、シオンさん?」


「私は構わないけど、リズちゃんのお家の方は許してくれるの?」


 紫音のこの問いにリズはこう答えた。


「多分、大丈夫ッス。自分の家は優秀な姉が継ぐことになっているんで。それに、何かあったらミレーヌ様が上手くしてくれるッス」


「やれやれ……。まあリズ君がいてくれたほうが心強いか。それにしても、これも運命かなにかなのかな。200年前に魔王を倒した子孫の三人がPTを組むとは……」


 ミレーヌは自分でそこまで言って、この不思議なPT結成に数奇な運命を感じる。

 そして、ふとある言葉を思い出し呟いてしまった。


「全ては、フェミニース様の御心のままに…… か」

「何かおっしゃいましたか?」


 何か聞こえたような気がしたので、エルフィがミレーヌにそう訪ねる。


「いや、なんでもない」


 すると、ミレーヌは自笑しながらそう答えを返す。

 三人は栞の番号を教えあうと、この後のことを話し合う。


「卒業式が一週間後にあるので、それが終わったら連絡するッス」

「うん、待っているね。それまで二人共、元気でね」

「はい」


 そして、三人はしばしの別れるを済ませる。


(あっ、エレナさんに相談せずに決めちゃったけど大丈夫かな……)


 紫音が帰りの馬車の中で、勝手に決めたことを心配していると


「シオン君、今回は本当によくやってくれた。それにミリアちゃんを守ってくれて、ありがとう」


 ミレーヌが頭を下げて礼を言ってきた。


「やめてください、ミレーヌ様! 私はただ当然のことをしただけで……」

「フフ…… そうか。では、これからもミリアちゃんの事を頼む」


「はい!」


 紫音はこんな偉い人なのに頭を下げて礼をしてくるなんて、ミレーヌ様は本当にミリアちゃんが可愛くて仕方ないのだなと思った。


 紫音はミレーヌに宿まで送ってもらうと、馬車から降りる前に彼女からこう言われた。


「今回の報酬は面倒ではあるが、冒険者組合から受け取ってくれたまえ。あと、これは私の栞の番号だ」


「あっ ありがとうございます。これは私の番号です」


 そして、番号が書かれた紙を貰ったので、紫音は慌てて自分の番号も渡す。


「エレナさんとシャーリーさんに謝らないと……」


 紫音は今回の件で、やはり偽名は騙すような行為なのでダメだと考え、信頼を取り戻すために、偽名を使用していたことを二人に謝ることにした。

 さっそくエレナに偽名の使用を謝ると、エレナはあっさり許してくれる。


「それぐらいの嘘で、私のシオンさんへの信頼は揺るがないです。だって、シオンさんは私にとってそれ以上の恩人なのですから」


「エレナさん……」


 紫音は続けて、ミリアとリズの話をした。


「すごい、魔王を倒した子孫の方が2人もPTに入るなんて!」

「勝手に決めて、ごめんなさいエレナさん」


「いえ、シオンさんが認めた子達ならきっと良い子達なんでしょう。二人に会うのが楽しみです」


(ミリアちゃんはとっても良い子だけど、リズちゃんは……、リズちゃんもきっと良い子なはず……)


 紫音はリズに関しては少し疑問に思ったが、良い子な筈とする。

 しかし、今日は本当に長い一日だった、この世界に初めて来た日以来の長さに感じた。


 初めてきた日、アリシアのことが頭に思い浮かんだが、今日は疲れたから明日連絡しようと思う。


 翌日、紫音達は冒険者組合に報酬を貰いに向い、紫音はさっそくシャーリーに偽名を使っていたことを謝る。


「知っていたわよ。スキルプレート見せてもらった時に名前見たから。でも、偽名を使っているから、それに合わせたほうがいいのかと思っていたの。だから、気にしなくてもいいのよ」


 シャーリーは笑顔でそう答えた。


「でも、そういう理由で使っていてよかったわ。別の理由だったらどうしようかと思ったわ。例えば罪を犯しているからとか……ね」


 紫音はすぐさま首を横に振って否定する。


「では、これ報酬の30万ミースね」


 紫音達は報酬を受け取った。


「これで、しばらくお金には困らなくて済みそう」


 紫音は初めての高額報酬に、ようやく冒険者として活躍できたのではないかと実感する。


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