26話 奮戦!ロックゴーレム戦
「こっちに気付いたみたいね」
三人はロックゴーレムに近づくと、ロックゴーレムが反応する。
ミリアが魔法攻撃のできる距離ギリギリで止まり、紫音とリズはさらに接近しリズも弓の有効射程で止まると、ロックゴーレムを中心に円を描くように側面に回り込む。
ロックゴーレムに近づくと、紫音はその大きさに驚く。
「近くで見ると、大きいな……。これ8メートル近くあるんじゃないかな。膝ぐらいまでしか斬撃が届かないかも」
紫音が近づくとロックゴーレムが、拳を振り上げ攻撃してきた。
ロックゴーレムの大きな拳を回避するには大きく移動しなければならない。
さらに、ロックゴーレムの拳が地面に衝突した時、周囲の地面を揺らし衝撃波を生むため、大きく回避しなければ吹き飛ばされてしまう。
紫音のスピードなら回避できるが、大きく移動しなければならないため、攻撃に移るのに遅れを取ることになる。
そのため紫音は、ロックゴーレムの攻撃力の前に中々近づけずにいた。
「これ、本当に他の試験を受けた人達は倒せたのかな……」
「このロックゴーレム、話に聞いていたより手強くないッスか…」
この大型の魔物の強さに、紫音が疑問を感じていた頃、リズもそれを感じていた。
紫音がゴーレムのレベルを確認するとLV15となっていたので、離れたリズの近くまで行って話しを聞くことにする。
「リズちゃん、ゴーレムのレベル15だけどこんなに強いものなの?」
「レベルはそんなものだと思うッス。でも、強さの方は自分も戦うのは初めてなので、何とも……」
リズへの質問を終えた紫音は、疑問は解決しなかったが考えていても仕方ないので、再びロックゴーレムに近づくと、攻撃の機会を窺う。
「お姉さんが攻撃して、ゴーレムを引きつけてくれてからと思っていたけど仕方ないッス」
リズは魔法スクロールに魔力を込める。
すると、ロックゴーレムはリズに反応し彼女の方に動き出す。
「やっぱり、こんな魔力でも反応するッスか!」
リズは慌てて距離を取る。
「やっぱり、関節部分を狙ったほうがいいよね!」
しかし、紫音はその隙を見逃さずロックゴーレムの後ろに回ると、ロックゴーレムの膝の裏に斬撃を入れる。
ロックゴーレムは、突然の膝裏への攻撃に歩みを止め後ろに振り返ろうとするが、紫音はロックゴーレムの足の外回りを素早く移動して、再びロックゴーレムの後ろにつくと先程斬りつけた場所に、体を大きく捻りその回転を利用した強力な横薙ぎを放つ!
「廻転斬!」
この技は体を大きく捻るため、破壊力は高いが隙が大きく実戦では使う機会があまりないが、ロックゴーレム程の鈍さなら多少隙ができても充分使える。
ロックゴーレムの膝裏に大ダメージを入れた紫音は、もう一撃入れようとしたがロックゴーレムも学習したのか、今度は上半身を捻り足元に居る紫音に拳を下ろしてきた。
「うわっ!」
紫音はロックゴーレムの攻撃を回避して、一度距離を取ることにする。
すると、紫音が与えた膝裏のダメージポイントにリズの放った矢がピンポイントで刺さり、魔法スクロールの水属性攻撃によりさらにダメージを与える。
「すごい、私の斬撃したところにピンポイントで当てた!」
紫音はリズの精密射撃に驚いて彼女の方を見ると、リズの眼が見開かれ瞳が金色になっていた。
「あれって、秘眼!?」
リズの秘眼は自分の放つ矢の着弾予測点が視える、まさしくチートと呼べる代物であり、その秘眼は見た相手までの正確な距離、風速が観測できそれを元に秘眼がリズの脳を勝手に使って計算する。
そのためリズの頭の中は、彼女の知らない公式や計算方法がぐるぐるまわっており、この計算が素早く行えるのも彼女の明敏な頭脳があってのことである。
勿論実際撃った着弾点には、色々な要因で多少の誤差が出てしまうが、そこは彼女の修練から来る経験で補うためかなりの命中率を誇った。
「名付けて着弾予測眼ッス!」
残念ながら、リズにはネーミングセンスは無いようだ。
彼女は着弾予測眼を使って、続けて射撃を行う。
「そこッス!」
放った矢は、寸分違わず先程と同じところに見事に命中し、ロックゴーレムの膝を破壊した。
リズは秘眼の発動を止めると、鞄からバナナを取り出し素早く口に放り込む。
酷使した脳へ糖分補給を行うためだ。
「モグモグ、バナナはおやつなので、モグモグ、試験に持ち込んでもいいんッス!」
(※勿論、後で怒られました)
「ミリアちゃん!!」
片足が破壊されその場に膝から崩れ落ちたロックゴーレムを確認した紫音が、ミリアに魔法詠唱の合図を送る。
すると、ミリアは紫音の合図に頷き魔法の詠唱を始めた。
紫音はロックゴーレムから、少し距離を取り警戒する。
ロックゴーレムはミリアの魔法詠唱に反応すると、片足と両手を使ってミリアの方に何とか移動しようとするが、その移動はとても遅くおそらくミリアの詠唱終了のほうが速いであろう。
紫音とリズがその様子を見て、心の中で勝ったと思った瞬間――
ロックゴーレムは左腕を丸い岩に変形させる!
「そんな!? 岩石投げは使ってこないはずッス!?」
リズは戸惑う。
何故ならば、彼女は事前に複数の試験合格者達から、ロックゴーレムが”岩石投げ“を使用しないと聞いていたからだ。
そうしている内に、ロックゴーレムは右手で左腕が変化した丸い岩をミリアめがけて、放り投げる。ミリアは魔法詠唱に集中していて、岩石投げに気付いていない。
「ミリアちゃん、前! 岩ッス!!」
ミリアに大声でそう叫ぶと同時に、リズは彼女に向けて走り出す。
走りながら紫音を見ると、紫音はすでにミリアに向かって走っている。
ロックゴーレムが岩を投げる前から、紫音は反射的に走り出していたのだ。
ミリアはリズの声で岩が飛んでくるのに気付くが、その恐怖で身が竦んでしまって動けなくなってしまう。
紫音がミリアに声をかけずに走ることに全力を注いでいるのも、ミリアが恐怖で動けなくなると予測していたからであった。
(ミリアちゃんを魔法の射程距離ギリギリの位置に配置して、私達と距離を置いたことが完全に裏目に出た!)
紫音は自分の考えた作戦を後悔しながら、全力で走り続ける。
(まずい! まずい! まずい! 間に合え! 間に合え! 私が必ず守るって約束したんだから!!)
ミリアとの約束を守るため何より彼女を守るために、紫音は一心不乱に全速力でミリアに向かって駆けていく。
「馬鹿な!? 試験のロックゴーレムは岩石投げをしないはずだろう!!」
その様子を見ていたミレーヌも、そう叫ぶと急いで走り出す。
だが、ここからでは到底間に合わない。
(シオン君、ミリアちゃんを助けてくれ!)
そう願いながら走るミレーヌ。
紫音は、ミリアにあと少しで辿り着く前に岩に追い越されてしまうが、岩石はミリアの少し手前で地面に落ちたため地面との摩擦でスピードを落とすが、惰性で彼女に向かって転がっていく。
しかし、スピードが落ちたおかげで紫音は、間一髪のところで岩よりも早くミリアに辿りつく事ができて、彼女の体を押して岩の進行方向から逃がすことが出来た。
「やった― 」
紫音が安堵したその瞬間―
彼女の全身に強い衝撃を感じる。
(これって、あの時と同じ……)
紫音は意識が遠くなっていく中で、前の世界でトラックに跳ねられた時のことを思い出していた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます