第02話 プロローグ その2





「はぁ…はぁ…」


一人の男が夜の街、なるべく人通りの少ない細い道、裏路地などを縫うように駆け抜けていく。


 ユグドラシルで。みんなと遊んだのはどれくらい前だったろうか…


 気が付いたらあっという間に、あれから2年半という月日が過ぎてしまっていた。




 モモンガさんに「あの相談」を持ち掛けてからすぐ、致命的なデータを発見してしまった。

 それからすぐ、なるべく早い時期にモモンガさんに会いに行き、「しばらくは仕事の都合でログインする機会が極端に減ってしまうと思います。」と告げに行った。


 会えなくなること自体を惜しんでくれたが、先に相談していた内容が内容だけに、

「くれぐれも気を付けてください。 また…会えますよね?」と心配をさせてしまった。


「えぇ…きっと…」と、根拠のない言葉で、別れることとなってしまったが、それから少ししてから、ギルドになる前、その前身、クランだった頃のクランリーダー、

たっちみーさんからメールで連絡があった。


「話がある、渡したいものもあるから、時間があるとき、いつでもいいから連絡が欲しい」ということだった。


 ボクも、ユグドラシルを辞めるつもりがあったわけではなく、仕事で、ログインが遠のくという認識だったので、アバターの削除まではしていなかった。


 その為、「なんだろう?」と思いつつも会いに行ったらば、ギルドの中で、唯一、鍛冶職に精通していて、メンバーたちの武器防具などを作る際には必ずと言っていい程、手伝いを買って出ていた「あまのまひとつ」さん、それと「たっちみー」さん。


 この二人が出迎えてくれ、「必ず戻ってこい、これは餞別だが…可能ならいつかこれを返しに〝顔を見せに”来てくれると嬉しいんだが…」と、一つの<神器級/ゴッズ>装備を手渡してくれ、その使い方、どんな性能があるかなど、一通り教えてくれ、「あまのまひとつ」さんからは「<伝説級/レジェンド>ですらないのが申し訳ないが…」と、申し訳なさげに一振りの<聖遺物級/レリック>武器を手渡された。


 それらを装備して、「使いこなせられるようにの特訓だ」と言われ、しばらくは、たっちさんと二人で、手加減状態のPVPの手ほどきをされたのはいい思い出だ。


(本気で相手をされたらボクでは1分も保てないだろうからな…)


 


 しばしの間、そんな思い出を回想していたが、そんな状況ではないと気を引き締める、今はそれどころではなかったのだ。


 それは、自分がユグドラシルを始めてから8年目を迎えた日、その仕事中、というよりも…社員の一人が珍しく肺炎になり、緊急入院となったため、一人分の仕事量が増えた、その為に自分は一番最後まで残業を余儀なくされてしまったことがあった。


 自分の仕事を全て片付け、さて、最後に不備がないか見て回ろう。


 そう思って、それぞれの社員の持つデスクトップPCのマウスを少し動かして回る。

 シャットダウンし忘れていた場合、それで反応したりすれば、そのパソコンを改めてシャットダウンするためだ。


 幸い、ほとんどのPCは何も問題はなかった。


 しかし最後のパソコン…その部署の部長のパソコンのマウスに手をかけた時、モニターの画面が明るくなった。


「なんだよ、部長、自分は口うるさく行ってるくせに…」


 なんてボヤキを口にした直後、固まった。


 なんで、部長のPCにこんなデータが?


 不思議に思い、もう一度見てみる、見て、読んで、理解してから思った。


〝これは見つけるべきではなかったと”


 しかし、見てしまった以上、見て見ぬふりはできない。


 その文書のデータを、いつも「何かあった時のために」と準備している記録用のバックアップメモリーにそれをコピーして、一通り保存していく。


 これは…不正の証拠だ。


 自分が勤めているのは、とある大企業の子会社。


 そこの経理部。


 自然と、経理関係のデータは集中する。


 今まで疑問に思っていたことが、この書類のデータを見て氷解した。


 それよりも、問題なのは部長のPCからこれが見つかったということだ。


 ということは、部長も上からこれの指示を受けて手を染めているのかもしれない。


 となると、上層部のどのあたりまでがこのことを知っているのだろうか…?


 下っ端である自分がこれを持っていても手に余る。


 そう思った。


 幸い、今、この時間にこのフロアに居るのは自分一人、このことを知ってる者は他にいないというのは幸いだった。


 これの扱いをどうするべきか…悩みながら、帰路に就いた。


 もちろん部長のPCは、一応、映っていたデータを「上書き保存」して、間違っても消失してしまわぬように気を付け、シャットダウンさせてから消灯、施錠して会社を後にした。


 その夜は無事、帰宅できた。


 そして、何気なく気が付いていないふりをして、この2年半、ずっと抱え込みながら仕事に励んできたが、それでも、日々、仕事をしている内に自然と、自分にそんな都合の悪いデータのプリントアウトを頼まれる機会が何故か頻繁に訪れる。


 今となってはそのデータも、もうかなりの量になっていた。


 そんな日々が続き、どうにも心のざわめきが抑えられない、気が付いたら、かつてのギルドメンバーの一人に連絡を取っていた。


 ギルドの中でも「悪」という言葉一つに美学を求め、「なにかを成し遂げるためには例え、周囲から「悪」の烙印を押されようと、自分が迷わず正しいと信じた道を突き進める心の強さ、そういう悪に憧れる、独りよがりの善と、中途半端な悪ほど、醜悪なものはない」


 と常々と言っていた彼に連絡を取る。


 すでに<YGGDRASIL>がリリースされて…12年もそろそろか…という時期になろうとしている今、彼はギルドをすでに去っていた、なぜなら、自分がギルドにログインできない日が続いていた中、たっちみーさんが家庭の事情、なにやら娘さんに見過ごせない非常事態が発生してしまったらしく、「多分、もう来られないと思う」という言葉を残し、去ってしまったことがあったようだ。

 モモンガさんからのメールではその時期を境に、どんどんギルドメンバーは激減してしまい、その「彼」も、たっちさんとは仲が悪く、よく対立していた人だったが、

きっとその人にも何らかの事情があったのだろう。


 今となっては「彼」もギルドに今は訪れなくなっているらしかった。


 そんな「彼」が今さら自分に手を貸してくれるかは不透明でしかなかったが、他に頼れそうな「誰か」に心当たりがなかったため、ギルドメンバー時代から使っていた隠語、お互いだけに通じる言い回し、暗号などを使い、たとえ、誰にこの文面を見られ、読まれることになろうとも、決して悟られないように「自分の手には負えない厄介ごとに巻き込まれたかもしれない、会えないだろうか?」という趣旨のみを、返答が来るかもわからない「彼」にメールで伝えていた。






 後日連絡があり、日時と場所を指定された時には驚きと喜びが一気に押し寄せていた。


 相変わらず、彼の文面は普段の口調同様にぶっきらぼうだが、不要な言い回しや、回りくどい挨拶などない分、今回の件に関してはありがたい。


「それでお願いします。」


とだけ、返信をして、その日、その時間に間に合うように仕事を終わらせ、そのデータを持って、待ち合わせ時間の場所に向かった。


 その場所に到着する前に、念のためと、メモリーデータの中の文書を、コンビニのコピー機で、出力し、プリントアウトして、実際の文面として、持参することにした。


 そして、個室のある居酒屋チェーン店の中で店員に「先に来ている仲間がいるんですが」と伝え、名前を言うとすぐに通された。


 まだ<YGGDRASIL>でみんながギルド、アインズ・ウール・ゴウンに夢中だった頃、一度だけオフ会をしたことがあった、彼はその時のままの佇まいでそこにいた。


「しばらくだな…元気だったか?」


 口数少なくそれだけ言うと、彼は席を勧めてくれた。


「えぇ。あなたも元気そうで何よりです。」


 そう言いながら、個室の、勧められた椅子に腰掛ける。


「ところで…なんだって? なんか厄介ごとだそうだが…?」


 目が真剣みを帯びている、彼のリアルの仕事は知らないが、中途半端な悪を働く者、団体などを相手取って、「真の悪」とはどういうものか…そういう目に合わせることを仕事として選んでいると何かで、誰かから聞いたことがあった。


「実は、これなんですが…」


 と、書類を出す、もちろん、今までの「そういった」種類のデータ一式全てだ。


「ほぉ…こりゃ…たしかに、普通の一般市民じゃ手の出しようがないな…」


 この人は「悪」というものにこだわりはあったが、それ以上に、自らの父親の死に様に納得がいっていない、その為、「理不尽」ということに徹底的に立ち向かい、抗うことを生きがいにしている。


「強きをくじき、暴虐を振るう者には暴虐をもって返礼してやろう」なんてことを…


 ゲームの中でも…よく言っていた。 …そういうスタイルの人だった。


 この人は自分にとって憧れの内の一人だ、もう一人の憧れは「世界において最強」という【称号】(ゲーム内でだけど)を与えられた人、でも僕が頼ったのはその人じゃなく『災厄』の名を欲しいままに…そして、その名に恥じないよう振る舞っていた…今、自分の目の前にいるのがその「彼」だ。


 強者が弱者を虐げる(それがクランやギルド内の立場であっても社会的であっても…)そんな行いに敢然と立ち向かえる人だったから…今回、頼れる先はこの人しか思いつかなかった。


 

 ネットでの付き合いをリアルでも持ち越すのは間違ってる、それはわかっていたんだ…でも…自分には何の因果か、何故か見つけてしまい、手に入れてしまった「その情報」は荷が重すぎた、おそらく腐敗したあの社会で、警察などに言っても『例外的なあの人』でなければもみ消されてしまうだろう…いや、それも違うな…あの人もたしか組織の中ではトップじゃなかったはず…上下関係のキツイあの組織内では、きっと、あの人だって、「上層部がNO」と言えば、それに逆らえないだろう。

 


  であれば…結局のところ、話の分かる上司(が居たとして…)その人にその情報が届く前に証拠ごともみ消される、それが分かっていたから、ゲーム内でも対極の立場だった、この人に頼った。


 普通だったら迷惑だろう。


 そんな身を滅ぼす結果しか見えない情報を渡されるのだ…誰だって「なんでオレなんだよ、他にもっとそっち向きのヤツいるだろ?」って返ってくるのが当たり前だ。



 


 


 …なのにこの人は受け取ってくれた。


 その人はゲーム内で使っていたアバターがきっとするだろうイメージの…


 味方には頼もしく、敵には寒気を与えていた、あの当時そのままの…「悪」を背負うにふさわしい笑顔で…


 笑って受け取ってくれたんだ。


 


 もし何かあったら、証言をしてくれるか?とも言ってくれた。


 考えるまでもなく自分はこう言っていた「アナタの力になれるなら!なんでもします!」って…


 


 ………そう約束したはずなのに…


 


 


 


 油断してたんだ…いや、警戒の仕方がまずかったんだな、きっと。


 


 


 誰も通らないような人通りの少ない道を選んで見つからないように、隠れるように家路につく予定だった。


 証拠を手渡せた安心感で、緊張感も薄らいでいたのだろう…


 油断していた。


 ボンヤリと…「そういえば、メールの返信の中にモモンガさんからのメールもあったな…」そう思い、携帯式の電話から、ネットに接続、フリーメール経由で、モモンガさんからのメール内容を読む。


「え? ウソ! 今日ってユグドラシル最後の…サービス終了の日なの?」


 今まで、仕事時間以外でも、こんな会社の暗部のことに意識を奪われ、ログインが減っていったとは言え、サービス終了が近づいていたことにも気づいていなかった自分を恥じる。


時間は、23時32分、まだ急げば、一言、二言、少しの会話ならできるかもしれない。


 そう思い、足が自然に急ぎ足になる。


 その時、曲がり角を曲がろうとして、足に衝撃が走った。


「うあぁ!!」


 あまりの衝撃に、急ぎ足だったせいもあり、前のめりに転倒してしまった。


 顔を上げる。


 一体何が起きたんだ?


 今も事情が理解できない自分の前後に2人の人影、頭から真っ黒の、両目と口の部分だけ穴の開いたマスクをかぶった誰かが、そこに立っていた。


「な…なんだよ、お前ら…」


 強がってそう言っては見るものの勝てる見込みはない、今自分は満足に動けもしない状態だからだ。

 それに対して、一人は自分より明らかに体格のいい格闘系の者。

 そして、もう一人は、暗い路地裏なので照明もないこの道ではよく見えないが、鉄パイプだろうか…それとも金属バット?のようなものを肩に乗せていた。


 おそらくは、今の衝撃はあれで足のスネの部分を強打されたのだろうと予想はついた。


 その二人の内の一人、体格のいい方の人物が口を開いた。

「ふん…何も教えることはないな…自分の不幸を呪えばいいさ…」


 意味が分からない、彼は何のことを言っているのだろう?

「な…なにを?」


「さんざん嗅ぎまわってくれたようだが、それもこれでおしまいだな…、証拠の方はあとで勝手にお前の部屋に入って物色させてもらうとするからよ…それとも、今持ち歩いてるかもしれねぇな…、身動きすら出来なくなってからゆっくり探してやるから安心してあの世とやらに行きな」


 二人の内の一人がそう言葉を紡いでいく、しかし、その声には聞き覚えがある。


 会社で、ずっと近しい距離で聞いてきた声だからだ、間違えるはずもない。


「お前…穴沢か?」


「ふん…気が付いたかよ…まぁ、そうでなきゃ張り合いもないがな…」


「おいおい、だから言っただろ?お前が来ると正体がバレるだろ?ってよぉ」


 正体のわからない方の男がぼやいているが、穴沢の方は意にも介さない。


「俺はこんな日が来るのを待ってたんだよ、こいつに俺の屈辱の何分の1かでも味合わせてやれる機会をずっとうかがっていたのさ!」


「ボクが…お前に何をしたって言うんだ!」


「お前は知らないだろうな…お前が中学を中退してからの話だからな、こっちはいつもお前と比べられてきたようなものなのさ、お前は中学を中退するまではクラスでもトップクラスの成績だっただろ?覚えてるか? 中退するやつのために先生までが送別会とかって言って、別れを惜しんでよ、クラスメイトも同様だったよな」


「そんな昔の事…なんでいまさら?」


「それだけじゃねえんだよ、お前が居なくなってから、どんなにテストで上位になってもいつも周りの評価はお前の方が上だって認識が変わらなかった…お前が在学してたら1点差で、きっと鈴川…お前が1位だっただろうってな…。」


「そんな…なんで…それはボクには関係…」


「それだけじゃねぇよ! 俺より先にダイブマシーンを購入しやがって…俺の方が先に予約して、確保してたのに、運よく売れ残ってるダイブマシーンを見かけたってだけで何の苦労もなく手に入れやがって、部下に先を越された間抜けな上司、だなんて評価は御免だからな…こっちから予約の方はキャンセルして、ダイブマシーンなんて全く興味ないふりをしては居たがな…、ずっと内心では煮えくりかえってたんだよ!」


 そう言うと穴沢は、ボクの胸倉をその両腕でつかみ上げる、さらに足を折られたのか、満足に立てない自分を道の奥の方に放り投げた。


「なんで…、そんなの…もう10年も前の話じゃないか…ずっとそのことを…根に持っていたのか?」


「正確に言うと、10年と7か月前のことだがな…長かったぜ…この日をどれだけ待ち望んだことか…。」


 放り投げられた先には、打ち捨てられたゴミの山、立ち上がれず、そこに背を預ける形の自分に、ゆっくりと穴沢が歩みを進めてくる。


「そういえば、ネットニュースでやってたが、今日が鈴川…お前が以前、オレを誘ってくれた<ユグドラシル>とかってゲームの最終日なんだってな? ちょうどおあつらえ向きのがあるじゃなぇか…お前の最後にふさわしいモンがよ…」


 穴沢はそういうとボクを軽く蹴って横にどかし、ゴミの山から何かを見つけたようでそれを引きずり出していた、それはリクライニングソファー風のダイブマシン、自分が持っているのと同型の、だが、かなり使い込まれていた物なのだろう…ソファー部分の革の部分は所々破れ、中の綿が外からも見えていて焦げ茶色に変色している。


 さらに、その場でしばらく放置されていたのだろう、要所要所に、水滴が付いていた、きっと数日前の雨の日にもこの場に捨てられていたのだろう。


 <YGGDRASIL>が終了間近だというのを知って、早々に見切りをつけて捨ててしまったプレイヤーの…過去に見切りをつけた残骸なのかもしれない。


 そう思った。


「それが…なんだ? それで何をするつもりだ?」


 声が震えているのがわかる、どう考えてもイヤな予感しかしないからだ。


「ちょうどこれを持ってきて正解だったな、単なる思い付きだったんだが…」


 穴沢はそう言って、ポケットから小さなスポイトを取り出し、地面に溜まっていた水たまりの水をスポイトで吸い取って行く。


「お前も知ってるよな? 鈴川…お前みたいな貧民の首の後ろにつけられている端子部分…そこに汚水なんてモンを流し込まれたら、どうなるのか…」


 そこには、自分が知っている、今まで言葉を交わしていた仲の良い上役の姿はなく、ただただ醜く歪んで、こっちをあざ笑い見下ろす、見たこともない表情をした、かつては同じ学び舎で勉学に精を出していたことのある同窓生の顔であった。


 もう一人の格闘系の男は後ろの壁にもたれ、こっちの様子を見ているだけだ。


「それに、お前の人生の最後に棺桶替わりとしちゃ、これ以上に相応しいものはないんじゃないか?」


 そう言いながら、捨てられていたダイブマシーンの通電プラグがコードごと切られていないことを確認して、適当な建物の壁についているコンセントを見つけると、そこに接続させる。


「お? やっぱりお前は運がいいな、鈴川…これ、壊れてないみたいだぞ? しっかりランプがグリーンで点灯してやがら、これでお前も心残りはないだろ?」


 そう言って、ニヤけた面を見せつけながら、穴沢は足の爪先でボクのみぞおちを蹴り上げた。


 まともに食らってしまった為、身体を「く」の字に曲げ、苦しんでいると、首の後ろにある接続端子にスポイトの中の汚水を注入し、間髪入れず、そこにネット接続用のプラグを差し込んで来た。


 首の後ろが今までに感じたことがないほどに熱い…まるで背骨にまでバチバチと電流が暴れまわって、弾け続けているようだ。


「ほらよ」


 そう言って穴沢は、ボクの体をダイブマシーンにもたれ掛けさせた。


 少しの間、そこで苦しんでのたうち回った後、まるで体が硬直したように弓なりに反っていた。


 もはや、自分の自由などはない、脊髄反射で動いているだけのように、自分の思うように体が動かなくなっていた。


 そんな状態で、顔が上を向いていると…「ザザ…」と砂嵐のような画面が目の前に現れる。


 そこには、モニターのタイトル画面に似たような風景が見えた。


 しかしそれは似て非なるモノ…


 目の前に見えてはいるが、それは「目の前」ではなく、額の上方、わずかに中空辺りにスクリーンが浮かんでいる様に感じられる。


 その砂嵐は、場面を変えて、色んな画像を見せてくる。


 自分が良く知る、ギルドのログインポイント、円卓の間、そこのテーブルに荒々しく拳を叩きつける骸骨、きっとあれは装備からしてモモンガさんだ。


 次には、後ろにNPC達だけを引き連れ、プレイヤーは彼一人だけ、その彼が、玉座の間にまで来て、玉座に座る。


 どうやら時間をカウントしているようだ、手を持ち上げ、何かを数えるように人指し指を上下に何度か動かし…そして、力なく腕を下げていた。


 そんなシーンが流れるまま、見ていると、モモンガさんらしき…いや、あの人ならサービスの最後の一秒まで<YGGDRASIL>と一緒にいるのは間違いないだろう。


 ならあれは絶対にモモンガさんだ。


 そのモモンガさんが、玉座に座ったまま、ギルドの象徴、「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を高らかに持ち上げ、何かを言おうとしていた。


 …あの挙動は…、間違いない、みんなでよくやっていたアレだ…。


 モモンガさん、そんなの1人でするなんて、止めて下さいよ、


 どうせやるなら自分も一緒です…


 ログインには間に合いませんでしたけど…一緒に<YGGDRASIL>に居てあげることは出来ませんでしたけど…、心は、常に貴方と共にあります。


 最後の最後くらい…、一緒に言いましょうよ…ボクらだけの…輝かしい、心から誇れるたった一つの…みんなと共に集めた…作り上げた全て、それを湛えるあの言葉を…。


 自分が、今どういう状態で居るかなんて、もう頭になかった。


 音声が聞こえてこないのは、きっとこのダイブマシーンが壊れているからだろう。


 なぜログイン画面を介していないのに、モモンガさんの様子が見えるのか…そんなことはどうだっていい…、死んでしまうその瞬間くらい…ボクにも…その言葉を…

 モモンガさんと共に言わせてください…。


 すでに力があるのかどうかすら…リアルの自分の腕がちゃんと持ち上がっているのかも、実はもう分からなくなっていた。


 だが、それでも…自分の認識の中だけでも、右腕に拳を握り、上に高く掲げる様にした。


 本当に持ち上がっているかなんてどうでもいい。


 大事なのはこれからなのだから…。


「おい、あいつ、今さら何かしようとしてやがるぜ? 見てみろよ?」


 どこからか、誰かの声が聞こえる、だがそれも、もうどうでもいい…。


 あとは、この言葉を、モモンガさんと共に叫ぶだけなのだから…。


 玉座に座るモモンガさんが高く持ち上げる「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」に続くように、みんなでよく叫んでいたタイミングは今でも良く覚えてる。


 身に染みついたタイミングで、その言葉を「せめて、ボクら2人だけでも」という思いであらん限りの力を振り絞って叫ぶ。


「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」


 その言葉を叫ぶと同時に、目の前に映っていたスクリーンが徐々に薄れて行き、意識は次第に闇へと落ちて行った。




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