気が付いたら大自然、至高のお一人、ご降臨

カクヨムの初心者 LV1

第01話 プロローグ その1


時は、西暦2138年…、場所は日本のとある地域、とは言っても、今の日本という国は結局、どこであろうと変わらず、色々と終わっているという認識の者は多い。


自分はそれでも恵まれている方だという認識はある、下を見れば、数えきれない程の「貧困層」と呼ばれる者達は存在しているのだ、もちろん自分より恵まれている者らも同様に多いのだが…


「貧困層」なのに恵まれているとはどういうことなのか…、そもそもの歴史は伏せられているが、かつて、自分がプレイしていたゲーム、<YGGDRASIL>というゲームで知り合ったギルドメンバー、リアルでは大学教授をしていたという人が教えてくれた話では、今の若年層には決して知らされない、伏せられた歴史があったという。


 時は西暦2000年を20年も過ぎていないくらいの時、それは起きた。


 そもそもの始まりはいつもあるような災害だったという、ただの津波。


 皆が皆、そう思っていたソレは…あっという間に地を飲み込み、濁流で家々や、あらゆる建造物を押し流した、そして、とうとうソレは到達してはならない建造物にまで及ぶ。


 その当時は絶対安全とまで言われていたらしい、今となっては信じられない妄想という認識が浸透しているが…その時は誰もが、そうなればどうなるかなど、知識としては知っていたが、実際に起きるという想定をしている者はいなかったのだという。


 その建物は、原子力発電所。

 起きた現象はメルトダウン


 あっという間にその津波という暴力は、ソレを飲み込んでしまい、被害が甚大になった。


 かろうじて、中で働いていた人達の力、使命感、命を投げうってまで被害を押しとどめようという精神を持つ者たちがなんとか爆発という致命的な危機を回避してくれた…そのたった一つの思い―――その偉業で自分たちはなんとか救われたが、残されたのは核燃料、もちろん放射能に汚染されている…それを長い間、原子力発電所が復旧するまでは…と、とにかく先延ばしにしていた時の権力者たちは、最終的に、海に流すか、地に埋めるか…という究極な選択を選ばざるを得ず…結局「海に流すのは下策」とばかりに地中深くに埋めたらしい。


 もちろん、核燃料だったもの…すでにソレは汚染物質であることに変わりはなく、厳重でとにかく強固な容れ物に「その液体」を人の力ではなくロボットにそれを行わせ、汚染されたロボットごと、地下深くにソレらを埋めたということだ。


 そして、日本という国は誰もが知るように地震大国と呼ばれている。

 そんなものを地面の下、地下深くに埋めて、数百年、数千年、無事で居られると誰が考えたのだろうか…?


 地の底に埋めたことで、その土地以外に住んでいる者達は、時を追うごとに心の中から危機意識…そんな事件が起きたこと、そんな危ないモノが地の底に埋まっているという事実すら頭の中の記憶から薄れさせていった。

 そして、月日が流れた西暦2092年、ついに大地震が起きてしまい、地の底で眠っていた脅威が目を覚ました。


 それまでも大小、様々な地震があった、きっとそれも要因の一つだろう、全ての要素が重なり合い、引き金となったのがその大地震だったと言っていたのはその大学教授、アバター名は「死獣天朱雀」さんの談であった。


 地下深くに埋められていた核燃料の汚染物質を入れていた容器の損壊…それも1つや2つどころではない…掘り下げて確かめたわけではないらしく、詳細は分からないという話だったが、恐らくほとんどの容器からソレらは地面に浸透してしまったらしい。


 そこからは難しい話になって、詳しくはわからなかったが、朱雀さんいわく、大自然の循環によって、地面から地下水にまざり、地下水から時間をかけて地上近くまで染み出てきたソレは、植物や、食物などを通して広がる。

 植物に浸透したということは、光合成などによって、浄化されないまま少しずつではあるが、大気にまで広がっていく。


 無論、根から吸い上げた汚染物質を取り込んでしまった樹々たちも無事では済まず、それらから先に汚染されて行く事は、誰も止められずにいたのだそうだ。


 そして、ついには空まで汚染された世界。


 そこまで行ってしまったら後は加速度的に汚染は広がり、止められるものではなかったという。


 もちろん植物や野菜なども気が付いたら手遅れおなるのは当たり前だろう。


 学者たちはしきりにそうなる前に警告は発していたらしいが、それは時の権力者によって「市民たちに動揺を与えないため」という「お為ごかし」で、情報操作をされ

地位のある者、資金力のある者、国にとって重要であろう者らなどなどを厳選して、逃げ場所<シェルター>を作り始めた。


 その<シェルター>は、特に大きな規模で建造され、まだ汚染されていなかった地域(海を隔てた先の土地、北海道や、沖縄など)から健康的な土壌から水から何から、あらゆるものを運び込み、さらには特別な濾過、蒸留がされた純水を作り出せるようにと、そういう技術、装置を作り出すのにも余念はなく、いつから準備していたのであろうかと思わせる程、その区域での生活には全てがあり、全てに於いて完結して、すべて自給自足できるようにと、技術の粋を集められ、そうして作られた「絶対安全」な領域を人類は完成させた。


 後にその区画にできた一帯を人は「アーコロジー」と呼ぶことになる。


 最初に話した「貧困層」と言われる者達は、そのアーコロジーの「外」に住まざるを得なくなった者たちの総称。


 更にアーコロジーの「内側」に住む健康的な生活を送る者達全てを当てた言葉。

 それが「富裕層」だ。


 そこに住めた者達は無論、権力者だけではなく、その施設を作るために巨額の費用を用立ててくれた者や、その家族。

 有名な…もしくは著名な…、又は人々の人心掌握に一役も二役も買ってくれそうな者らも含まれていた。


 そういう者でなくとも多額の資金を吐き出して、そのアーコロジーの住居を購入できるだけの資産を持っている者らは、文字通り「金の力」で、安全な立場を買う事も出来た。


 そんな世界に於いて、アーコロジーに住む者達からすれば、外の者らは汚染された者であり、それ以上でもそれ以下でもなく、富裕層の多く(全てではない)が、使い捨ての消耗品としての価値しか、アーコロジー外の者らに見出さないという割合が多くなる。


 仕事などではそれが特に顕著で、現場仕事、危ない仕事、汚染された大気の下、営業回りをさせられるなどは、主に貧困層に割り当てられる。


 しかしそれでも、そんな中だとしても、一日に数百人規模で死なれては困るようで、すぐに呼吸する時用にと、清浄呼吸用の外出補助フィルターが発売された。


 だがそれは大変高額で、アーコロジーの住民レベルでなければ手が出ない程、もちろん保険などが利くはずはない…なにしろ「貧困層」の住民で国が要求する保険の月額を払える者など、数えられるほどしかいない…それこそ富裕層でなければ支払い続けるのは難しかったのだから…


 無論、高い金を出せば、その呼吸用のフィルターを購入する事はできるが、その為に資産を投げうって生活(飲食や住環境など)ができなくなっては意味がない。そのため、ボクら「貧困層」は市販の花粉症や、粉塵などを吸い込まないようにする、という程度のマスク装着を余儀なくされていた。


 もちろんそんな生活環境で外と中の移動、そして、そんな空気を吸いながらの仕事環境などを毎日続けていれば、自然と…当たり前だが身体は蝕まれていく。


 高額な方の呼吸補助フィルター付きのマスクがあればそんなことも起きないのだが…かと言って後ろ盾のない「貧困層」の住民がそんなものを万が一でも持っていたら、一日…いや、1時間と保たず、別の「貧困層」の誰かに奪われ、そして、奪っていった者も、その瞬間に奪われる側になる。


 そんな世界で、自分は父も母もいて、共働きという環境ではあったが、それは周囲のみんなも同じ環境だったため、少しもさみしくないし、疑問もなかった。


 だが、そうは言っても世の中の流れは止まってはくれない。

 世間の常識は、自分が生まれるよりも前に、あっさりと変わってしまった。


 義務教育は「小学生まで」と国が決めてしまったのだ。


 それもギルドメンバーだった大学教授の人がその理由を教えてくれた。


「国は反乱分子を作らないために、市民に頭の良さを求めない、自分たちに都合のいい駒を作れればいいということになったのだよ」と…。


 小学生を卒業するだけでも、そんな世の中では、実は至難の業であった。


 なにしろ一般の病院で処方される薬でさえ、「富裕層」向けの病院とは区別され、一般の病院から自分らに回されるのは、期限の切れた、金持ち連中が買わなかったようなモノしか回ってこない現実も厳然としてあったのだから…


 それなのに、学校の授業料が良心的であるはずもなく、6年も支払い続けられるだけでもレベルの高い行い…給食費だってバカに出来ない、安全安心な食材など、そんな汚染された世界では滅多に出回らず、ほとんど液体のような栄養だけ摂取できるようにされた加工食品、そんな物でも自然と価格は高騰する、ボクの両親は、そんな状況で中学まで行かせてくれた。


 父の仕事が急速に悪化し、資金繰りがうまく行かなくなったために、2年生の3学期が終るより前に中退という形になってしまったが、小学校では学べなかった知識などが少しでも学べたのは大きかった。


 中学中退で社会に出たはいいが、扱いは「小卒」以外の何物でもない…。

 数年、職場で肩身の狭い想いはしたが、それもその数年で済んだ。


 中学に居た時にクラスメートで友人だった穴沢が管理職候補として入社してきたためだ。

 中学の卒業というステータスは高校卒業に比べれば数段劣るものの、小卒を束ねる責任者という立場に据えるには適任のようだった。


 入社してきた「穴沢」と自分は、顔を見るなりお互いのことを思い出し、仕事時間が終わってすぐに飲みに行って意気投合した。


 そして穴沢が上役になってからは、今までの上司からの扱いとは全く違う、別世界のような働き方が出来るようになった。


 そんなある日、国是として、国民全員にナノマシンを体の中に埋め込み、そこからの情報を登録することで、より効率的に住民らの管理をしやすいように…という方針が打ち出された。


 それを埋め込まれる時は抵抗はあったが、国が珍しく、格安でその手術を受けさせてくれ、補助金も出すという待遇ぶり、その当時、国民にも普及しつつあった手ごろなテクノロジーの一環であったダイブシステムにも使えるよう…他にも汎用性を広げようと、首の後ろに穴のようなものをつけることを推奨された。


 それを付けられる際、首の後ろに接続端子がいきなり自分の体にできるのだ。

 それは、自らの脊髄に直結するように埋め込まれるため、一人一人認識コードが違い、万が一、水などが染みたりすれば死活問題だという事前情報は知る事が出来た。

 不安でもあるし、担当の医師からも注意がなされる。


 水に注意すること、入浴は首までつからないこと、防水用のネックカバーを購入しておきなさい、スチームバス程度に普段は抑え、常に首の後ろは濡らさぬように…

 という条件も毎日の生活で気をつけねばならなくなった。


 プラグを差し込む端子部分には浸水しないようにシャッター式の…皮膚と同質素材の疑似肌肉を、保護用としてつけられることになった。


 制限も多かったが、その分、<YGGDRASIL>での期待の方が当時は大きかったように思う。


 それを付ければ、イヤホンジャックのように、専用のプラグを差し込むだけで、ダイブシステムにアクセスできる…という娯楽向けの理由が表向きだったが、それもサーバー単位で、国民を登録し、簡単に犯罪歴や、家族構成など、必要な情報を掌握するため、必要なものを収集するために…と、「貧困層向け」に開発されたものだと、<YGGDRASIL>を始めてから知ることになる。


 その手術でつけられたナノマシン、それをつけられた個人を特定する暗証番号と、「認識コード」、そして「生体ID」、それが付いているため、<YGGDRASIL>ではサブ用のアバターを作るのは至難の業だと言われていた。


 そういうテクノロジーの知識に詳しい者は、それでも「穴」を見つけ、作れる者もいたようだったが、自分にはそれは無理だった。


 もちろん、その当時は、ゲームとは言え、新しく発売されたVRゲーム、その新ジャンルである「DMMO-RPG」それらを遊ぶために使う機材、ハードの類を買い揃えるのは高い買い物だったが、ダイブシステム一式、そして、<YGGDRASIL>の専用ダイブアプリの購入、さらには別売りのツールなど…


 それらの資金が行きつく場所のことなど、当時は考えることなどなく…。

 一大ブームになっていたあの時は欲しくて欲しくて衝動買いしてしまった。


 穴沢も、大いにそれに驚き、うらやましがってくれた、一度誘ってみたことはあるが、あまり乗り気ではなかったのが不思議だったが、まぁ、人の好みなどそれぞれ…


 ゲームの好みだって、あるだろうとあまり気にしなかった。


 それから<YGGDRASIL>をボクが遊び始めてから優に6年は過ぎた頃だろうか…。


 仕事中に、とある経理申請用の書類をコピーしてくれと頼まれ、プリントアウトしたものを担当の部署に持って行って欲しいという内容を頼まれた。


 いつもとは言わないが仕事の中では、ままあることだし、職務の一環ではあったから、その時は気にしなかったが、画面のプレビュー画面を見た瞬間、「何かおかしい」と違和感を覚えた。


 それが何かわからなかったため、上司に怒られることだけは避けたいと、後で間違いでもあったら修正をしようと思い、そのデータをコピーした。


 そうして、その時は何も問題はなかったものの、同様の依頼をされることがよくあり、その度にそのデータを不測の事態が起きた時のためにと別のメモリーに保存し続けていた。


 もはや、何の疑いもなくその行動が半分日常化していた、そんなある日、その「なにか」に気が付いてしまった。


 それはボクが<YGGDRASIL>を始めて、8年目…<YGGDRASIL>がリリースされてから9年と5か月目を迎えた初日のことだった。












「どうも、モモンガさん、今日も来ましたよ。」


「あぁ、どうも、よかった、お仕事で忙しいかと思いましたが、来られたのですね」


 自分が来るといつも居てくれるギルド長、名前はモモンガさん、アンデッドの種族を選び、オーバーロード、つまりは死者の魔法使い、それの最上級の職業まで突き詰めてアバターを磨き上げた人だ。


 自分はモモンガさんを評価しているが、モモンガさん自身は「自分はそんなに大したことないですよ」と、本気でそう思っているらしい。


「あれ? それにしても今日はボクが一番乗りですか? 意外ですね、この時間、いつも誰かしら居る時間なのに…」


「あぁ、今しがた数人、どうしてもリアルで外せない用事ができたようでして、落ちてしまったばかりなんですよ。」

 

 そうさみしそうに笑うモモンガさん。さみしそうなのはそう自分が感じたというだけ。


 <YGGDRASIL>では表情まではアバターの顔に浮かぶことはない、それぞれの感情表現はPOPアイコンという感情を表したような絵柄を浮かび上がらせるだけで、自分の気持ちを相手に伝えるしかできない仕様となっている。


 あとはチャット機能だとか、音声での会話、あとはメールの文面でのやりとりなど…であるのだが…。


(ちょうど今、ここにはモモンガさんしかいないんだし、ちょっと聞いてみようかな…)


「すみませんギルド長、少し話をしても大丈夫ですか?」


「えぇ、いいですよ? なんです?改まって…」


「実は仕事のことなんです…せっかくバーチャルの世界に遊びに来ているのに、リアルの話なんか持ち出して、大変申し訳ないのですが…」


「あはは、いいですよ、気にしないでください、ヘロヘロさんなんか最近、転職したばかりで、とにかく環境がひどい、毎日死にそうだよ、なんて愚痴から入ってるくらいですからね、社会人を最低条件にしてるギルドなんですから、そういった話はついて回りますよ」


「ありがとうございます、モモンガさん…実は、私が今している仕事で、妙な事に最近気が付いてしまいましてね…それがどうも…釈然としなくて…、でも詳しい部分での暗部まで解明できてるわけではないんですが、会社的に後ろ暗い空気をそこから感じてしまいまして…どうしたらよいものかと…」


「それ…かなりマズイんじゃないですか?…ヤバイ空気を感じちゃうんですが…」

 

 心配そうな声音でモモンガさんが身を乗り出し、少し声を落とし気味になる。

 いつでも、どんな相手にでも親身にこうした態度で居てくれるモモンガさんは本当にみんなから可愛がられ、慕われ、そして、自分は尊敬している。


「そうなんですよね…最初は違和感だけで、どこがどう…っていうのはわからなかったんですが、最近になって、どうも…会社から出す予算としては、予算としての名目と、記載されてる金額が不釣り合いに高額な気がするんです。 しかもそれが毎月とは言いませんが、2か月に一度程度の割合で、定期的に流れているようで…。」


「うわぁ…なんかかなり危ない感じの印象をバシバシ感じますね…大丈夫なんですか? その職場、離れた方がいいんじゃ…?」


「モモンガさん、ソレは悪手ですよ、ボクは社会一般の認識としてはモモンガさん同様「小卒」ですよ? 中学中退っていうのは誰もそんな要素、見向きもしてくれませんし、最低限の教養しか持たないと見なされてるヤツが会社を去って、次の職場が条件のいい場所だった…なんてこと、ガチャで超々レアのシークレットを10連じゃなく1連でぶち当てるような可能性よりも低いでしょう…今の職場を辞めたら、きっと自分はここを続けられなくなってしまいます、それはさすがに避けたいですからね…。」


「そう…ですよね。こっちも、ギルメンが一人、二人と辞め始めている現状で、また一人来られなくなってしまう人が出てしまうのは悲しいですからね、今のは聞かなかったことにしてください、でもこれだけは言わせてくださいね? くれぐれも無茶はしないようにしてくださいよ? ギルメン同士、自分が力になれる部分は少ないと思いますが、相談ならいつでも乗りますので…。」


「ありがとうございます、モモンガさん、聞いてもらっただけでも少しは心が軽くなったような気がします。」


「いえいえ、自分は話を聞いていただけですからね、そんな大したことはしていないですよ?」と、ここまで話をしていると、ギルドのメンバーがログインすると最初にアバターが出現する場所。「円卓の間」…そこに軽やかなメロディがピロピロン♪と流れる、それはギルドメンバーの一人がログインしたというお知らせの音である。


「お、ペロロンチーノさん、ご無沙汰です。」


「お、珍しいですね、貴方も今日はインできましたか、とりあえずこれで、接近戦 or 魔法のスイッチヒッター、後方からの射撃要員、そして、死霊系魔法に加えてカルマ値マイナス由来の大ダメージをたたき出せる…脅威のPVP負け知らずのモモンガさんの3人がそろいましたね。」


「やめてくださいよ、ペロロンチーノさん、私は初見の相手に気持ちよく勝たせるというギフトをあげる代わりに相手の情報を根こそぎ収集させてもらっているからこそ、勝ててるっていうだけです、それにこの戦い方は「ぷにっと萌え」さんから教えてもらったものでもありますから…威張れたものではありませんよ」


「またまたぁ…そんなこと言って、オレも見せてもらいましたけど、アレ、やれと言われてできる人間って、そうそういませんよ?オレ、やれって言われてもできませんもん」


 そう言って首をすくめたアバター、鳥頭に背中の翼、装備しているまばゆいばかりの<神器級/ゴッズ>武器をひっさげ、軽口を利く男、彼は、ギルド内では「エロバードマン」の通称(愛称?)で呼ばれる、ある意味、愛されるべきキャラの一人。

(女性メンバーにはあまりウケはよくないのだが…)


「そういえば、どうでした?この前貸した、全年齢版の方のあの元エロゲ、面白かったんじゃありません?」


 いきなりペロロンチーノさんがこっちに話題を振ってきた、そういえば数か月前、おすすめの作品がある、きっと気に入るからと、一本のエロゲを勧められたのだ。


 しかし、まだそういうゲームをしたことがなく、どんな内容だか全く知らされずに貸そうとしてきたため、遠慮した。

「いきなりエロゲはハードル高いですよ」と…。


 そう言ったら。後日、「それならこっち」と言われ、Hシーンなしの全年齢版をどこかから見つけてきて、貸してくれた。

 それは今となってはかなり昔のパソコンゲームから移植された家庭ゲームで遊べたソフトのデータ、古き良き作品ということで。ペロロンチーノさんもプレイして、感動したソフトの一つのようだった。


 自分も、「全年齢版」なら…と、一応やってみることにした。


 確かに面白かった。


 その中の女性キャラの、とある形態をモデルにして、自分用のNPCにしちゃおうかと考えてしまうくらいには気に入ってしまっていた。


「えぇ、すごく面白かったですよ、リネ…えっと、なんでしたっけ?あの子、あの子の優しい性格もいいと思いましたが、えぇぇ…っと、エディ?なんとかちゃん?あの子もいいですよね、しかもその子の転生?生まれ変わってから前世で抱いていた思慕の念が主人公に対して全く衰えていないところもまた、気に入りました!」


「お!よかった、その口ぶりだと、すでに何周か、ストーリーを進めてくれてるようですね。よかったです、アレの良さは一度プレイして辞めてしまっては決してわかりませんからね。」


 などと、話のわからないモモンガを差し置いて、二人は大盛り上がり、ペロロンチーノに至っては「そうですか。私も四姉妹の内「四女のあの子」は好きなんですよね、ベルリバーさんは、三女の方でしたか…まさか前世からの転生後でのハッピーエンドに共鳴するとは…以外にロマンチストなんですね。」


「まじめに検証するのやめてくれません? 一応、最後までのストーリーは遊んでから返しますが…もう少しだけ貸してくれません?」


「あぁ、いいですよ?なんなら、気のすむまで持っててもらって…気が向いたらエロゲの方も…」


「それは遠慮しておきましょう、イメージが壊れるのはイヤですからね」


「頑なだなぁ…」


 なんてことを言いながら、3人でレアドロップ狙いで外に出ようとしていた所、索敵&隠密特化の弐式炎雷と、二の太刀要らずとして有名な武人建御雷がログインして来た。

 文句なしの前衛、そして隠密からの初撃であればギルド内トップレベルと言われる弐式炎雷をメンバーに入れた、ベルリバー、モモンガ、ペロロンチーノ、武人建御雷、弐式炎雷の5人編成で、レアドロップを求め、外に繰り出していくのだった。


 いつまでも、こんな楽しい日は続く、決して終わりなど、来るはずはないと…

 モモンガが、そして、ギルドの者もそうであればどれほどいいか…そんな想いを皆が胸に抱きながら…。



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