偽装結婚4

渋谷の雑居ビルの国鉄金融。

国鉄金融の事務所に突入する灯子。

「失礼するわ!」

「どちらさん?」

先日の男が応対する。

「先日こちらの斡旋で婚姻させてもらった、大宮大成高等学校鉄道部の舎利弗、左衛門三郎、文珠四郎、勅使河原の担任教師で生城山、4人の保護者から委任されて交渉に来たわ。単刀直入に言ってあの婚姻を取り消してもらえないかしら?」

「どちらさんか知らねェがすごい無理言うね」

「私の生徒を無下に扱う奴は者は一国の国家元首といえども許さないわ!あなたたちにはきついお灸を据えてあげるわ!」

「おい!こら!オレらを誰だと思ってやがる!?」

「ウっ…」

片方の男が止めに入る。

(コイツ素人じゃねェな…)

男が灯子を見て何かを覚える。

「俺らに手ェ引けと言うのか?」

「ええ、4人の戸籍はちゃんと元通りにしてもらうけど、この子たちは引き渡さないわよ」

「おェ腹括って言ってんのか!?」

男がまたも片方の男を止めに入る。

「断るっつったら?」

「不本意だけど事件にしなきゃならないようね」

「なんだと?」

(先生、私たちのためにあの男と刺し違えるつもり?)

事務所の外にいる鉄道部の4人が壁越しにやり取りを耳にする。

「あなたたちも130万円位の案件で警察沙汰になってもいいのね?」

「何?」

「賃金業なら都道府県知事の監督下だけど、金券ショップなら公安委員会の監督下よ。何かあったときは動きが素早いんだから!」

国鉄金融の金融業は都道府県知事の認可だが、系列の濃いみどりの窓口の金券ショップは古物商、公安委員会即ち警察の認可がいる。

このため他業種に比べて問題発生時の対応が素早いのだ。

(見かけによらず場慣れしてるなこの女…本当に事件になったら割に合わねェ…)

「ちょっとサシで話しようか?」

「ええ」

男は灯子を事務所のソファに通した。

「俺らも表に出したくねェんだがよ…こっちにだって回収しなきゃならねェ金ってもんがあるんだよ」

「4人はまだ高校生、未成年よ。親に成りすまして改姓目的で債務者と偽装結婚させようだなんてよく思いついもんだわね」

「ま、俺もこんなちゃちな案件であんまムキになりたくねェのが本音だ。あいつらに渡したバイト代80万そっくりそのまま返してくれや。それで折れてやる」

すると灯子は財布からおもむろに一万円札を取り出し、机に叩きつけた。

―バン

「私も貧困世帯だからこれで精いっぱいよ!あなたも立場あるでしょうけどこれで負けてくれないかしら?」

「お、お前ェどこまで調子こいてンだ?なめてンのかコラァッ!」

男は激昂して机にあった灰皿を持ち上げ、灯子めがけて振り落とそうとするも、寸でのところで灯子の眼力に圧倒されて固まってしまう。

そしてそのまま灰皿を床に投げつけ、ソファに腰を落とした。

「も、もういい!さっさと去ね!」

灯子が解放され、国鉄金融の事務所から出てきたところを鉄道部の4人は出迎える。

「先生!」

「大丈夫ですか!?」

「話はついたわ。頭カチ割られそうになったけど」

「え?」

「それよりあなたたちに話があるわ」

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