彼女は脛を蹴られても痛くないらしい。

るら

第1話

 暑い。

 誰だ、朝のニュースで「今日は先週の猛暑とは一転、過ごしやすい天気になるでしょう」とか言ったのは。ああ、たれ目が印象的な気象予報士界のゆるふわ担当、由美子お姉さんか。うん、可愛いから許す。


「おい、パス練一緒にしようぜ」

 脳内由美子お姉さんにうっとりしていた俺を、がさつな声が現実に引き戻す。

 どうやら、脳内由美子お姉さんと俺があんなことやこんなことをしているうちに、授業が進行していたらしい。

 がさつな声の持ち主――徳田駿介が、ボールを持ってこっちへ走ってくる。

「断る、と言ったら?」

「無視する! お前に断られたら、俺は今流行りのぼっちになってしまう!」

 そう言ってなぜか胸を張る駿介は、俺の方にボールを蹴った。

 つもりだったらしいが、件のボールは俺の視界を横断していく。どうやったら、そんなコントロールができるのだろうか。逆に知りたい。

「ごめんな、智也……」

 うなだれながら、駿介はボールを追いかける。足が速いのだけが取り柄みたいなやつだから、すぐにボールを回収するだろう、なんて思っていたらボールの進路に障害が現れた。

 脚だ。

 女子特有の白さと、これまた女子特有の細さを併せ持ったそれは、たしかに脚だった。

 紺色の体操服と肌の白さが対照的でなんとも言えず、また、体操服から除く太ももは俺のような思春期男子には実に目の毒で。やわい太ももは膝でキュッと引き締まるが、それもつかの間、肉付きのいいふくらはぎはすぐにまた「運動してません」と主張し始める。そしてその下の脛さえも隠さない、意味などあるのかと問いたくなるような短い靴下は今にも脱がしてしまいたく――。


 駿介が追いつくより早く、ボールは脚の持ち主の前で小さく跳ね返った。

「痛っ」

 そして、ボールはよりによって、「クール」「冷静」「雪の女王」と評判の美少女、松倉華帆の脛に当たったのだった。

 クラスメイトの羽山佳乃とパス練をしていた彼女は、自分の脛に当たったボールを手に取り、自分の方に走ってくる駿介を視界に捉える。

 羽山が「華帆ちゃん、大丈夫?」と駆け寄るので、俺も松倉に近づいてみる。

「ちょっと、貴方――」

「ごめんなさい!」

 松倉の台詞に被せて、駿介が謝る。

「マジでごめんなさい! 本気で反省してるんで。もう二度としないんで、どうか、どうか、許してください!」

 おいおい、雪の女王はそんな謝り方で許してくれるほど優しくないんじゃないか、駿介よ。

「土下座でもなんでもするんで――」

「別に、大丈夫だけど」

 ……雪の女王優しくない? いやまぁ、確かにエルサも優しかったけどさ。ていうか誰だよ、雪の女王とか名付けたのは。あ、この前インスタに彼女との自撮り上げてた杉崎か。うん、許さない。

「痛くないし」

 杉崎への怒りを燃やしていた俺の耳に、松倉のそんな言葉が入ってくる。

 ……え? ボールが脛に当たって痛くないって――え、新種のツンデレか何か? 見栄張るポイントおかしくない? 

「えっ、痛くないんですか?」

 おいおい、真面目に受け取るんじゃないぞ、駿介よ。

「え、ええ。痛くないわ」

 松倉の声が心なしか震えているように感じる。

 そして俺は見た。松倉の右脛がじんわりと赤くなっているのを。

 駿介がこちらを振り向いて、声をあげた。

「おい、智也! 松倉さん、脛にボール当たっても痛くないんだって!」

 知っている。ちなみに、それが松倉の見栄だということも、俺は知っている。

「脛に物が当たっても痛くないとか最強すぎない? ねえ、智也。俺も最強になりたいからさ、俺の脛に向かってボール投げてよ! 脛の耐久力を上げる特訓!」

「アホか」



「松倉さーん。どうしたら脛に物が当たっても痛くなくなるんすかー?」

 アホがいる。

 ツンデレのツンをツンだと気付けないアホがいる。

「別に……何もしていないわ」

 アホがいる。

 意地の張り方を間違えたアホがいる。

「へー。すごいですね! 流石っす!」

 何がすごいのだろうか。

 アホとアホな会話をしてきたアホが、俺のもとへ走ってくる。

「なぁ、智也聞いたか? 松倉さん、生まれつき脛が強いらしいぞ」

 何をどうやったらそう解釈できるのだろうか。

「俺も脛強くしたいんだよなー」

「どうして?」

「脛に物が当たっても痛くなかったら、ヒーローみたいだろ?」

 脛に物が当たっても痛くないと、ヒーローみたいになるのか? じゃあ、駿介の頭の中では、プリキュアは脛に物が当たっても痛くないのか? それとも、プリキュアは女の子だからヒーローではなくヒロインだ、とかつまらないこと言うつもりか?

 疑問が生じるが、この疑問を彼に伝えたところでろくな答えは返ってこない、と俺の長年の勘が告げるので、俺は考えることをやめた。

「どうしてヒーローになりたいんだよ」

「ヒーローになったら誰かを、泣いている誰かを救えるだろ」

「……どうして誰かを救いたいんだよ」

「カッコいいから?」

「どうしてカッコよくなりたいんだよ」

「カッコよくなったら、ヒーローになれるから!」

 駄目だ、これじゃあ堂々巡りだ。何も結論に辿り着けない。駿介は俺が思っていたより馬鹿だった。

 いや、そんな馬鹿を少しでも尊敬しそうになった、俺の方が馬鹿なのか。



「華帆ちゃん、おはよう」

「佳乃。おはよう」

 ふわふわとした可愛らしい声と、研ぎ澄まされた刃物のような凛々しい声が聞こえた。羽山と松倉だ。

 うーん。前から思っていたけど、羽山ってどことなく由美子お姉さんに似てるんだよな。雰囲気とか、髪型とか、たぶん声質も似ているんだろう。

 はっ。いかんいかん。いくら今日の朝のニュースのお天気コーナーが由美子お姉さんの担当じゃなかったからって、浮気はよくないな。

 俺は、自分が禁断の愛に目覚めないように、そっとその場を離れようとした。そう、ちゃんと離れようとしたんだ! だから俺は何も悪くない。

「華帆ちゃん、脛はもう大丈夫?」

 嗚呼、やっぱり声似てるな。もう少しだけ聞いていようかな。俺の固有スキル「影が薄い」を使えばきっと気付かれないよな。

 俺は何も悪くない。羽山が由美子お姉さんに似ているのが悪いんだ。

「今度の体育までには腫れも収まっていると思うわ。きっと佳乃には迷惑かけないから、安心して」

 松倉が笑顔でそう言うと、反対に羽山は不服そうに顔をしかめた。

「私はそういうことじゃなくて、純粋に華帆ちゃんの脛を心配してるの! ……ええっと、次の体育っていつだっけ?」 

「確か金曜日じゃなかったかしら?」

 そうか、そんな後になるのか。じゃあそれまでに、駿介のコントロール術をマイナス値からゼロにしておかないといけないな。そうしないと、また誰かの脛が犠牲になる。

「あれ? 金曜日は授業参観があって、時間割変更があるって言ってなかった? えっと、五時間目が数学に変わるとか」

 羽山のその言葉に松倉が凍り付いたのが分かった。

「え、授業参観……」

「あ、そっか。華帆ちゃん、お母さんが来るんだよね。って、授業参観、五時間目じゃん」

 肩を揺らして、「お母さん」という単語に過剰に反応する松倉。

「授業参観……お母さん来るし、数学とか本当嫌だ……」

 おい、誰か。松倉を雪の女王と名付けた杉崎を連れてこい。今俺の目の前にいる泣きそうな黒髪女子を見ても、同じことを言えるか聞いてやるぞ。

 しかし、あれだな。授業参観を嫌がっているところを見ると、どうやら松倉は自分の母との仲が良くないみたいだな。

 ……これ以上聞くのは、プライバシーの侵害だろうか。

 なんてことを考えて、俺は静かにその場から離れた。



「何で体育潰れるんだよー。サッカーやりたかったのに」

「お前、サッカー好きだったの?」

 金曜日、授業参観の日はあっさりとやってきた。駿介のどうでもいい話に適当に相槌を打ちながら、松倉はどうして母という単語をあんなに怖がってたのだろう、とか考えてみる。

「サッカーってヒーローっぽいだろ! だから好き」

 サッカーってヒーローっぽいのか? まあ、ヒーローの必殺技とかだいたいキックだけれども。でも、その割にはサッカー下手なんだな。

「でも、他のヒーローがやってることをそのままやってもダメな気がするんだ。なんかこう、自分だけの必殺技が欲しい!」

「……」

「体育の授業は、色んなスポーツを教えてくれるだろ? それぞれの動きを組み合わせたら、誰にもできない必殺技が、俺だけの必殺技が生まれるんじゃないかと思って!」

「そうか」

「俺だけの、って響きカッコよくない? カッコいいことをしたら、ヒーローに少しでも近づくと思わない?」

「アホか」


 金曜日があっさり来てしまったのと同じように、五時間目はあっさりと来てしまった。松倉が異様に怯えていた数学の時間だ。

 きっといつもより化粧を濃くしているであろうお母さま方が、教室に入ってくる。ちなみに、俺の母親は来ていない。

 その中の一人、やけに口紅が赤い女性が、窓際の列の真ん中あたりに位置する松倉の席の横を陣取る。

「華帆ちゃん、五時間目はなんの授業なの?」と聞いているところを見ると、その女性は松倉の母親らしい。

「数学……」と答える松倉。

 いつもハキハキと喋る彼女が、こんなにボソボソと喋るところを、俺は初めて見た。


 頭頂部のハゲを気にしている定年間近の男性教師が入ってきて、授業が始まった。

 一次関数だとかの、一度理解してしまえば簡単な問題が黒板に並べられていく。周囲のお母さま方が送ってくる視線が少し気になるが、普段とさして変わらない授業風景だ。

 授業は案外早く終わった。

 松倉は、授業中いつもどおり大人しかった。一体何か彼女を怯えさせていたのだろう。

 チャイムが鳴って、帰りのホームルームが始まる。

 日直が明日の時間割を音読しているのが聞こえる。帰りのホームルーム中にいつも思うのだが、中学生にもなって「せんせいのはなし」とか言うの恥ずかしくないか? 

 そんなことを思いつつ松倉に視線をやると、彼女は今にも泣きそうな表情をしていた。

 ……何で? いつも通りの授業だったのに。何もなかったのに。何がそんなに悲しいんだろう。

「起立」

 日直のたった一言で、クラスの全員が同じ動きをするなんて気持ち悪いな、と思いながら周りの人と同じように椅子から立つ自分がいる。

「気を付け、さようなら」

 中学生にもなって「さようなら」って恥ずかしくないか? と思ってしまうのは俺だけだろうか。


「華帆ちゃん、一緒に帰ろ――」

「華帆ちゃん、ちょっと来なさい」

 綿菓子のように甘くふわふわとした羽山の声を、妙に尖った声が遮った。

 誰だよ、羽山が可哀想じゃないか、謝れよ。

「お母さん……」

 あの口紅の濃い女性――松倉の母親が、眉間にしわを寄せて松倉を見ていた。

「早く来なさい。……ああ、佳乃ちゃん。ちょっと時間がかかるかもしれないから、先に帰っていてくれるかしら?」

 俺は、怖いと思った。厳しい口調から猫なで声に一瞬で変われるその声帯が。優しい口調なのに、人を威圧できることが。

 そばで聞いていた俺でさえ、あの猫なで声は怖かったのだから、それを直接向けられた羽山はどうなのだろう。また、猫なで声じゃなく厳しい声色で命令された松倉の恐怖心は――。


「あれー、松倉さんは?」

 やけに緊張感のない声が場の空気を乱す。駿介だ。

「さっきお母さんに連れていかれたけど」

「お母さん……? 今お母さんと言ったか、智也!」

「言ったけど」

「お母さんって松倉さんのお母さんだよな? もしや、彼女……」

 駿介の身にまとっている雰囲気が重々しくなる。駿介はなにか――例えば、松倉の家庭の事情など――を知っているのだろうか。

 俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 駿介が口を開く。

「松倉さんのお母さんも、脛が強いかもしれない」

「は?」

「松倉さんの脛の強さは生まれつき。彼女だけが特殊と考えるより、遺伝だと考える方が現実的。つまり、お母さんも脛の強い可能性がある! いやぁ、会ってみたいなー」

「……」

「何を黙っているんだ、智也。あ、そうか。その遺伝は母方ではなく父方の可能性もあるかもしれない、と言いたいんだな! 確かにその可能性もある。でも、会ってみる価値はあるだろ? さ、松倉さんを探しに行くぞ!」

 そう言って、駿介は俺の腕を引っ張る。

「お、おい待てよ。お前、松倉がどこにいるのか知らないだろ?」

「そう言えばそうだった!」

 駿介は少し考えた後、羽山に駆け寄った。羽山なら松倉の居場所を知っていると思ったのだろう。ふっ、甘いな。羽山も松倉の居場所は知らないのだよ。

「佳乃!」

 なん、だと……! 

 俺は戦慄した。

 だって、知らなかった! 駿介が、駿介がまさか羽山を名前呼びしているなんて、女子を名前で呼べるスペックの持ち主だったなんて、俺は知らなかったんだ! なんということだ。女子に興味などないような、「人類皆平等!」とか夢物語みたいな台詞ばっか吐いて女子と男子を区別しない駿介に、先を越されるなんて……。

 こんなの、あんまりだ……。

「松倉さん、どこにいるか知らない?」

「華帆ちゃん? うーん、お母さんに連れられてどこかへ行っちゃったけど、どこかは分からないなぁ」

 嘘、だろ……? 

 俺は衝撃を受けた。

 いつも変なことばかり口走って、まともな会話ができないはずの駿介が、女子との会話を成立させているなんて! さっきの「佳乃」呼びほどではないが、これは大変なことだ。いや、俺が少し駿介をなめていたのかもしれない。そう、駿介は男子と女子の前で態度を変えるようなクソ野郎だったんだ。くっそ男子の前では変人なくせに、女子の前ではイケメン気取りやがって! 今度駿介の部屋一面ににレゴブロックを敷き詰めてこの世の地獄というものを味わわせてやる! 

「……駿介君、華帆ちゃんを探しに行くの?」

「うん。松倉のお母さんに会いたいんだ」

 やめろ、もうやめてくれ! 嘘だと言ってくれ! 

 俺は、絶望していた。

 まさか、まさか羽山が駿介のことを「駿介君」などと呼んでいるなんて! 何で、どうして! いつの間に二人はそんな仲になっていたんだ! もう、あれだぞ。二人がラノベの登場人物にしか見えないぞ? 駿介が主人公でな、松倉がヒロインでね、羽山がヒロインの親友っていう当て馬キャラ! くっそ、羽山可哀想すぎるだろ……。

「わ、私……」

 ここで駿介に思いを告げようとして、やめるんだよな。愛の言葉を必死に飲み込むんだよな。それで、駿介の背中を押すんだ。駿介が松倉に告白できるように。それで、駿介が走り去った後で、一人で泣くんだ。なにこれ。当て馬キャラヤバいよ。可哀想の極みだよ。嗚呼、好き。推し。無理。尊い。

 当て馬キャラっていいよなぁ。しっかりと主人公に振られて、ヒロインと主人公の絆をより深めるキャラ。やっぱり王道は良いよな、王道こそ正義。

「私も連れてって!」

 ……ん? 

「華帆ちゃん、お母さんのことを聞いても何も答えてくれないの……。だから、私、直接見たい!」

 これは……当て馬キャラじゃないな。

 主人公とヒロインの中に茶々を入れる、物語の終盤になると出番が少なくなる脇役の台詞だよな。

「おう、全然いいぞ!」

 クソ、駿介の無自覚たらしめ……。

「ほら、智也も行こう!」

 でも、こういう無駄に平等主義なところ嫌いじゃないんだよな。



「華帆ちゃん。さっきのはどういうこと?」

「……」

「どうして、授業中一回も手をあげて発言しなかったのかって聞いてるの。黙ってないで答えなさい!」

 松倉を探して校舎内を歩いていると、刺々しい声が耳に入ってきた。

「それは……」

 音をたてないように、ゆっくりとドアにもたれかかって教室の中を伺う。

 松倉と、その母親の姿が見て取れた。

「まさか、勉強が分からないとでも言うんじゃないでしょうね? 貴方には一流の家庭教師をつけてあげているのよ。私とお父さんは、貴方にこれでもかと言うほど、お金を懸けているの。それに応えられないなんて、どんな親不孝かしら」

「でも」

 弱々しく受け答えするその姿に、いつものクールさは微塵も感じられなかった。

「口答えしないの!」

 黙るなと言ってみたり、黙れと言ってみたり。

 ――これが、俗に言う「毒母」というものなのだろうか。

「いい? 貴方はね、運動も出来なければ、お習字もお茶もお花も踊りだってできない駄目な子なの。だからせめて、人並みに出来る勉強に全力を尽くしなさいっていつも言ってるわよね? それなのに、最近は学校から早く帰ってこないし、友達から漫画を借りるとか馬鹿げているのにもほどがあるわ!」

 なんて横暴なのだろうか。

 ふと隣を見ると、羽山は悔しそうに顔をしかめていた。そして駿介は、俺が今まで出会ってきたやつのなかで一番優しい駿介は、顔から一切の感情を消してその光景を見つめていた。

「貴方は誰かがいないと何もできない弱い子なんだから、ただ勉強をしているだけでいいのよ。友達なんかにうつつを抜かさないの」

 その言いようは酷すぎやしないだろうか。あまりに松倉を過小評価しすぎではないだろうか。

 松倉をよく知らない俺でさえそう思うのだから、彼女の友達である羽山は、彼女に憧れている駿介は――。

「友達なんかって、そんな言い方……」

「松倉さんは弱くなんかないです!」

 教室に飛び込んで、駿介はそう叫んだ。

「松倉さんは色んなことが出来るし、決して弱くない!」

 ……今にも泣きそうな松倉を守る、その駿介の姿は、誰もが小さい頃に憧れる少年漫画の主人公そのもので。

 俺は少し、ズルいと思った。

「ちょっと、貴方誰よ?」

「あ、お母さん……この人はクラスメイトの」

「誰でもいいじゃないですか。俺はたった一言だけ言いに来ただけの人間ですから」

 そうだ、駿介。言ってやれ。お前のヒロインをお前の手でしっかりと守ってやれ。

「あ、嘘です。一言じゃなくて三言くらいあります」

 ちょっと雰囲気飛んだんで、そういうのやめていただけませんか? 

「質問に答えなさいよ……」

「松倉さんは強いです!」

「質問に答えなさいよ!」

「勉強ができなくたって、運動ができなくたって、他の色んなことができなくたって」

 色んなことって省略したし。

「別に死にやしないじゃないですか!」

 あ、そうきましたか。そういう慰め方でいくんですね。分かりました。

「それに」

 それに? 今度こそはカッコいいこと言ってくれるよな? ヒーローっぽいやつぶちかましてくれるよな? だってお前は、未来のヒーローだもんな? 

 そんな俺の期待に応えるように、駿介は大きく息を吸って溜めを作る。唾を飲んで、口をゆっくりと開く。

「松倉さん、脛を蹴られても痛くないんですよ? 最強すぎません?」

 ……うん、知ってた。

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彼女は脛を蹴られても痛くないらしい。 るら @nami-seal

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