第67話 仏壇協奏曲
仏壇を買った。生涯、縁がないと思っていた仏壇を。トリガーは身内の死去だが薬莢の火薬は圧力だ。
通夜、葬儀を行うために親戚に確認したところ、
四十九日までに仏壇を用意しろ、という話を聞いたことがあるかも知れない。仏壇屋のサイトでも触れられているだろう。そこで四十九日法要をお願いすると共に御住職に尋ねてみた。返答は、
「仏壇は要りませんよ」
法要当日に「お話」で詳しく伺ったのだが要約すると、
「お仏壇は置かなくて良いし、お骨も納骨するよりも皆さんの御側のここが相応しい」
「只、亡くなった方が幼いこども等で、お骨が側にあると思い出して辛い場合には納骨しても構わない」
そこで一旦、彼は背中を向け、軸やお骨、花瓶、香炉、遺影などを丁寧に並べ、またこちらへ優しく語り出す。
「どうです、これで日々、皆さんと共にあります」
その後、遺影はどの程度の大きさのフレームの方が良い、とか、仏具も今日からは違う色の物を使う、とか、何も知らない私達を気遣って分かり易く説明された。
以前にも書いたがこの御住職、量子力学の教師をされていた理系の方なので非常に合理的且つ端的に話される。仏壇を気にかけている様子の他の者を前に、
「仏壇をお求めなら決まったらご連絡下さい、安くするようお店に伝えます」
「インターネットでも商品のURLをスマホで送って頂ければ質の善し悪しをお教えします」
「貼りの厚さや加工法、塗装でも耐久性が変わります、お仏壇というのは永く持たれる物ですから」
その時点では仏壇をネット通販で、とは思いもよらなかったので、お坊さんから切り出され驚いてしまった。最近はネット通販や家具調仏壇も珍しくないという。
で、年が明けても、のんびり構えていた私を奴が突く。
「やっぱり仏壇、要るやろ」
H屋を訪れる私。二輪車で仏壇を見に来る人が珍しいのか店員さんは様子を窺っている。店内をうろうろしていると、やっと声が掛かった。
「お待たせして済みません、お仏壇ですか?」
「はい、でも、今日は見に来ただけですー」
先ず家具調のコーナーへ案内され一通り説明を聞く。私の姿からか家具調をプッシュされる。
「あのー、キチンとした和室なので唐木仏壇も見たいのですが」
「こちらです」
税抜きで三十万円前後だ。材質は悪くないように見える。大体、質や価格、大きさも把握したので去る。
「ありがとうございました」
帰ると奴からメールがあった。
「H屋とM仏壇、それとコープのCに行ってきたよー」
「撮っても良いって言ったから撮ってきたー」
写真が添付されている。イマイチ写真では感触が伝わらない。
「こっちも他も当たってみるよ」
返信して翌日、別店舗へ。やはり大きなバイクで行くと引かれるようだ。店員さんは付かない。数分ゆっくりと見る。
「これはこれはお待たせしてしまいまして」
うん、流石に少し待った。こちらもお勧めは家具調だ。二十万円台前半だが仏具は別売りで数万円。H屋では表示価格に仏具が含まれている。そして貼りだと言うがプリントに見える、私の目には。日本製をアピールする店員さんに冷たく返す。
「同じ値段なら人件費が安価な海外製の方が質が高いんじゃないですか」
いろいろな言葉が出たが窮しているのが理解できる。小さな唐木も確認して帰路に就いた。
奴に電話する。大方、掴んだのでメールより手っ取り早い。
「木材が偽モンに見えるのは嫌やなー」
「分かる、でも上、見たら切りがないやろ」
インターネットも探る。H屋でなかなか、と感じた物と同じに見える物をBセンターが扱っている。恐らく何年も更新されていないページは怪しいが十万以上、安い。
「もしもし、ざくろって、H屋さんのニューざくろと同じですか?」
単刀直入に訊いた。
「出荷元に確認して折り返しお電話します」
五分後。
「はい、同じです。でも今は値段が上がっています。ホームページを更新していないので」
思いっ切り値上げされた。保留する。
数日後また奴からメールがあった。
「ここの仏壇どう?」
URLが貼られている。クリックする。
「お、良いな、無垢とか厚貼りだし日本製、デザインも綺麗だ」
素直に感心した。もう選択も丸投げしちゃおうか。
「で、これと、これと、これならどれが良い? 大きさ、サイズも悩んでるんよ」
数時間後、返信される。真剣に考えたようだ。
「税込みで二十万をギリギリ切るヤツ」
狙いを定めたので質問事項を列記したメールを送りページ下に書かれた電話番号もコールする。非常に親切に感じられる対応だった。
けてーい。決定。同じ店で掛け軸と仏具も揃える。二十時からセールとなるので十分前にスタンバイ。時間が来た。ポチ。
一週間後、届いた。開けても良いか奴に確認を取ってから開封する。
うーん、今まで見た中で一番、質感が高い。彼方此方、駆けずり回ったのは何だったんだ。インターネット怖い。じゃなくてインターネット万歳!
仏壇をインターネットでなんて、と思われる方も存在するに違いない。しかし同じ値段なら年月で簡単に劣化するような物より確りした物の方が故人も喜ぶだろう。
ビットのやり取りでも心は通うんだ。
こうして圧力に屈した私は喜びを得たのだった。
(追伸。実店舗でご案内頂いた店員の皆様、電話問い合わせに応えて頂いた方、ありがとうございました。感謝いたします)
(注意) 文中の商品名、「ざくろ」「ニューざくろ」は仮名です。
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