第35話 印紙に印紙

 先日、不動産を登記した際、登録免許税を収めるため収入印紙を購入した。その時のことである。


 金額を告げ、印紙を受け取り、次の窓口へ向かおうとしたら、呼び止められた。


「領収書を作るので、お名前をお書き下さい」


 なるほど。お金を受け取った以上、レシートなり領収書なりを出さねばならぬだろう。こちらも、すっかり忘れていた。言われるまま紙に分かり易く漢字を書き提出すると領収書を渡された。


 違和感を覚えた。収入印紙が貼られている。いや、本来、何もおかしくはない。この国では法律上、受取金額五万円以上の領収書には収入印紙の貼付が義務付けられている。添付しなかった場合の罰則も規定されている。だから領収書発行者の処理は正しい。


 だが私が買ったのは収入印紙だ。係は収入印紙を売って収入印紙の必要が生じ、自ら入手し使用せねばならぬ。


 ガソリン税や酒税に消費税が掛かっているような感覚である。それとこれとは違う。勿論、分かっている。しかし矛盾は感じる。

 (念のため触れておくと収入印紙の販売購入に対して消費税は課されない。例外として金券ショップ等での二次取引には課される)


 そこで意地悪な私は考えた。印紙販売時に領収書に貼っている印紙。代金の出所は税金ではないか。


 領収書を確認する。役所内の窓口にも関わらず「〜(株)」と押印されていた。詰まり矛盾はない。現金を受領した業者が印紙税を支払っているのである。


 うーん。税法を複雑化するのは好ましくないから、何処が何を売ろうと「領収書には印紙」と定めておくのが無難か。そう思っておこう。


 領収書を眺めていたら、紅茶がアルコールに変わったような気がした午後だった。

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