幻想夢物語青春伝
澄ノ字 蒼
絵巻物語を描くため修行中‼
「朱ノ助、草葉、この夏は野菜を作って売ってみないか? 楽しいぞ」
「またおっさんがへんなこと思いついたのかよ……」
ここは名もついていないへんぴな山の上の草庵。おっさん和尚と少年と少女の弟子二人で暮らしている。
少年の名は朱ノ助。土にまみれてかさっかさの髪をひとつに束ねて天に突き上げている。服はへろへろとした麻の土色の着物を着ている。
そしてもう一人の弟子の少女、草葉という。草葉は長い髪を紫色の糸でしばって一つにまとめている。服装は少年よりもこぎれいできちんと手入れがされている様子でほこりがこびりついていない。そんなに高そうな布の服ではないのだが清潔感がある。
そしておっさん和尚はといえば、ところどころ穴の開いた着物を着ている。髪はつるつる。無精ひげがところせましと生えている。
「野菜を売ることは絵巻物語りを描く勉強にもなるぞ」
朱ノ助と草葉が声を合わせて叫ぶ。
「どこをどうやったらそう結びつくんだよ」
ただいま朱ノ助と草葉はおっさん和尚に絵巻物語の作り方を教えてもらっている。というより絵巻物語の作り方を通じて日々人生の勉強をしていた。
おっさん和尚の言うにはお前たちが独り立ちするために技を身につけろ。技を身につければどこに言っても食いっぱぐれることはないと思うからと。
朱ノ助は社会を見るために家を飛び出したはいいが、どこに行けばいいのか分からず。
またどこも雇ってはくれず、空腹で空腹でやっとの思いでたどりついた今の草庵の玄関前で倒れていたところ草葉ににぎりめしを渡された。
その後草庵にて熱を出して寝込み、この草庵の主であったおっさん和尚と草葉に看病されてそれからここに居着いてしまった。
ちなみに草葉はおっさん和尚の一人娘である。
「読んでくれる読者に対し、自身の描いた絵巻物語りが人生の何か、そうだなあ。役に立っている喜んでくれていると思って作ったほうがよくはないか。ただ漠然と作るよりも」
「だから話が見えないってんだよ。だから何で野菜を売るんだよ! そんなことしないでもその時間絵巻物語りを描いた方がましだよ」
おっさん和尚はこほんと咳をすると
「自分の作った野菜がお客に喜んでもらっている。役に立っているって朱ノ助と草葉が思えたとするよ。そしたらその思いで絵巻物語りを描けばいいじゃないか」
「野菜を売るのは、いやじゃいやじゃ!」
朱ノ助はだだをこねる。
「もしかして朱ノ助、人が怖いから野菜を売りたくないのか」
「そうだよ。悪いかよ」
朱ノ助は開き直る。
草葉は様子を見ている。
「逆にな、もしかしたら人が怖いのもふっきれるかもしれないよ。逆にさ。ははっ」
「笑い事じゃないよ」
草葉が割り込む。
「朱ノ助、野菜売り一緒にやってみない? もしかしたら絵巻物語りを描くネタにもなるかもよ。ねっ、ねっ、一緒に野菜売ろう!」
草葉がきらきらした目でこっちを見てくる。
朱ノ助は少し考える。そうだなあ、ネタになるんだったら。それに、人が怖いのはやはり治したい。
怖い、怖い、野菜を売るのは怖い。人が怖い。
でも・・・・・・
新しい世界を見たい。
絵巻物語りのネタにもなれば。
そしてなにより今回は野菜だが自分の売ったモノが役に立ってくれる、喜んでくれるってどういう気持なのかが知りたかった。
よしやろう。
「草葉、一緒に野菜を売ろう」
草葉はうんうんと力強くうなずく。
「おっさん、俺たちやるぜ。どんとこいじゃ」
おっさん和尚はあっははと笑って
「単純、でも嫌いじゃないよ」
こうして朱ノ助と草葉は野菜を作って売ることになった。野菜を売るには野菜を作るところから始まる。野菜を作る場所は草庵の裏庭である。結構広かった。
おっさん和尚と朱ノ助と草葉は、地元のお百姓さんの指導の下、太陽がさんさんと照る中汗まみれになって、土をたがやし、苗を植え、雑草をむしり、肥料をあげ、蜂が近くを通り過ぎるのを見ては震え上がり、一日の終わりに汗まみれの身体を井戸の水で着物の上からかぶったりした。
沈んでいく太陽を眺めながらにぎりめしをかぶりつく。
そうして月日は経ち収穫の季節になった。
カブ、ナスなどを焼いて塩をつけて食べる。うん。最高。朱ノ助と草葉は野菜の出来にすごく満足だったとさ。おっさん和尚は浅黒い顔でナスをかぶりつくとにこにこした。
「うまいねえ」
三人は野菜をたくさん背負って、長い階段をおり、山道を歩き、町へと繰り出した。
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