ツッコミ勇者

船戸みらい

第1話 憧れの異世界にやってきた


 突然、俺は異世界に召喚された。


 本当に突然だった。


 ついさっきまで、俺は文化祭で行う演劇の練習をしていた。

 そんな最中、突如地面に現れた魔法陣に包まれ、謎の世界へと飛ばされてしまったのだ。

 信じられない話だが、事実だから仕方がない。

 完全にラノベやアニメで見るような出来事だった。


 俺が、突然消えてしまったことで、クラスメイトだって心配しているにちがいない。


 てか、そうでなかったら悲しい。

 ちょっと、泣いちゃうかもしれない。


 おっと、まだ自己紹介してなかったな。

 俺の名前は、西見 玲人(にしみ れいじ)。

 17歳。

 どこにでもいる普通の高校生だ。

 

 さっき、文化祭のことをいったのもだからだ。

 ちなみに、偏差値については聞かないでくれ。

 あと、恋人関係も。


 異世界転生は、ラノベやアニメで見たことあったが、まさか自分が転生されるなんて、思ってもみなかった。

 それに、あまりにも唐突すぎた。

 心の準備が全くできていない。

 何日も前から、教えてくれていたら、色々と準備だってできた。

 そう、替えのパンツを用意しときたかった。


 それに、タイミングも最悪だった。

 演劇では、俺が人生初の主人公役だった。

 しかも、ヒロインの姫役は、クラスのアイドル、小鳥ちゃんだった。

 そんな夢のような舞台をこれから練習しようというときに、異世界転生なんて間が悪いにもほどがある。


 だいたい普通は、車に引かれてとか、通り魔に刺されてとかがお約束だろ。

 もし、召喚者に会えたら、絶対文句を言ってやる。


 いけない、つい愚痴が長くなってしまった。


 転生した当初こそ、驚きや怒りでこうして混乱したものの、実は今ではワクワクしかなかった。


 なんたって、憧れの異世界にやってきたのだ。


 見たことのない景色、味わったことのない料理、人間とは異なる種族の者たち。

 絶対、獣耳の美少女には会いたい!


 これから始まるであろう冒険を想像するだけで、非常に心が躍った。


 そして話は”今”に戻る。

 俺は、心が躍るだけでなく、実際に“踊っていた”。


「さあ、舞え!舞え!今日は、勇者様の生誕祝いだ!!」

「こんなめでたい日はないぞ!」

「宴だあ!!」


 転生した俺は、小さな村に降り付いた。

 そこで、村人たちから勇者として崇められることになった。

 理由として考えられたのは、俺の服装だ。

 演劇で着ていた勇者役の衣装が、本物の勇者に見えたのかもしれない。

 腰に剣まで備わっていてなかなかの完成度だが、中身は段ボールで、張りぼてだった。

 そんなことを村人は知らず、俺も状況が理解できないまま、話が進んでいき、夜には宴が始まった。

 そして、俺が宴の主役として祭られた。


 理由がどうあれ、何も分からない異世界で歓迎されるのはありがたかった。

 明日には、この世界についての情報を得よう。


 今はまだ、村に伝わる謎の踊りに、参加させられているところだった。

 あまりやりたくはなかったが、正直断るのが怖かった。

 それほど、村人の目がマジだった。


 踊り方は、まず左手をすくい上げるように下から身体の前方に持っていく。

 そして、左手を何回か揺らす。

 これだけだ。

 この動きだけを伝統の踊りとして、俺は、村人たちのセンターで1時間は踊らされていた。


「いや、これ、どう見ても霜降り明星、粗品のツッコミだよね?!」


 こうして、俺の異世界生活は、始まるのだった。

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