第29話 姉妹

「疲れた〜」


「半日も座ってれば疲れるよ」


「さすがに涼子も大人しく—」


「フランクフルト〜!」


「やっぱりうるさい」


(直行便とは言え約12時間のフライトはきつかったわ)


お疲れ様


「今日はこのままホテルに直行だって」


「売店で何か買っていこうよ」


「だね。なつ、ポケットWi-Fiはホテルで配布してくれるって」


「あ、由季聞いてくれたんだ。ありがとう」


「なになに。夏希はもう旦那が恋しくなっちゃったの?」


「ちゃんとごはん食べてくれたか確認したくて。一応メモ置いてきたから大丈夫だとは思うけど、面倒に思ってないか心配で」


「えっ?なつひょっとして彼のごはん用意してきたの?」


「一応わかりやすいようにフリーザーパックに分けていれてきたから大丈夫だとは思うけどね」


「あんた。良妻と言っていいのか重いと言っていいのか迷うわね」


「由季?辛辣なのは涼子にだけで十分だから」


「夏希?それはひどくない?」


ちゃんといただきました


(ありがとう)


僕のセリフだよ?


「明日はノイシュヴァンシュタイン城がメインだよね?」


「だね。あ〜、憧れの白亜の城をやっと見ることができるわ」


「あら聡美、意外と乙女なのね」


「なによ由季、そんなこと言いながらもシンデレラ城の前でポーズ決めて写真撮ってたくせに」


「な!あれは涼子に無理やりやらされただけよ!」


「あれ〜?由季ノリノリだったよね?」


「なつまで!1番乙女なあんたに言われたくないわよ!」


「あれ?乙女は否定しないんだね」


「ぐっ!」


「かわいくない声出しちゃだめよ〜」


「涼子は黙ってなさい!」


「ちょっと?私への風当たりが強すぎない?ら」


「「「いつも通りじゃない?」」」


♢♢♢♢♢


「む、むり!私ここで待つから!」


「こんなとこまで来てなに言ってるのよ!勇気だしなさいよ〜」


「むりなものはむり!なんでこんな高い吊り橋から見るのよ〜!」


「ノイシュヴァンシュタイン城見るならマリエン橋って決まってるでしょ?」


「も〜、いつもの太々しい由季はどこにいったのよ」


「言ったわね聡美。下に行ったら覚えておきなさいよ」


「も〜、仕方ないなぁ。じゃ私達向こうまで行ってくるから由季はその辺から写真でも撮っててよ」


「うぅぅ、ごめんなつ。骨は拾ってあげるからね」


「こらこら。じゃあ私達は橋の真ん中から綺麗な写真撮ってくるからね」



「あ〜、生きた心地がしなかったわ」


「せっかくドイツまで来たのに」


「無理なものは無理なのよ。さ、売店で買い物してバスに戻りましょう」


(城内よりも景色と外観の印象の方が強かったわ)


外観の方が有名だもんね


(白亜の城と言われたくらいだからね)


その後はフランスに行ったんだっけ


(うん。高速鉄道でね)


「お〜、快適快適」


「電車で国境越えるなんて新鮮ね」


「確かにね。日本からだと飛行機に乗って越えるのが主流だからね」


「ねぇ、なつ。春斗くんには連絡したの?」


「したよ。ちゃんと食べてくれてたし変わったこともないって。橋から撮ったお城の写真も送ったよ」


「なによ。いまちょっとだけ皮肉ったわね」


「き、気のせいよ由季」


フランスはパリ観光から?


(うん。シャンゼリゼ通りを歩いて凱旋門まで行ったり、オペラ座やルーヴル美術館とかね)


「花の都パリ〜!」


「落ち着こうね涼子」


「無理よ無理。どうするどうする?シャンゼリゼ通りのブランドショップ巡り?」


「事前に決めたでしょ?まずは凱旋門からよ」


「ノリが悪いわよ聡美」


「おのぼりさんがバレないようにしてよ涼子。スリに注意ね」


「はっ!お腹に財布隠した方がいいかな?」


「お好きにどうぞ」


「由季?もうちょっと相手しようよ」


「はいはい、ちゃっちゃと歩く!」


(凱旋門ってフランスにもいくつもあるのよ?)


へぇ〜


(1番有名なのがエトワール凱旋門って言うの)


「ねぇ、これどうやって渡るの?横断歩道ないよ?」


「地下道よ。もう、どこまでネタなのよ?」


「てへぇっ!」


「涼子、かわいくない」


「ちょっと夏希!」


あなたに言われるとね


(何?)


美人に言われるとイヤミになっちゃうよ


(……ばか)


辛辣だね


(きみだけがそう思ってくれればいいのよ)


♢♢♢♢♢


「ねぇ、いつになったら着くのよ?」


「お昼過ぎらしいよ」


「遠いよ!」


(翌日にはバスでモンサンミッシェルに行ったのよ)


弾丸ツアーだね


(行きたかったもの)


運命かな?


(……だね)


「オムレツおいし〜、なにこのフワフワたまご!」


「ほんとね。レシピが知りたいなぁ」


「あらっ?帰ったら旦那さんに作ってあげるの奥さん?」


「ふふん、茶化しても無駄よ聡美。すでに奥さんと呼ばれてもうれしいだけよ」


「あははは、耐性付けてるのね」


「この幸せ、涼子にも分けてあげたいわね」


「私、不幸な子なの⁉︎」


「残念な子?」


「由季!」


容赦ないよね


(仲良しじゃなければできないけどね)


楽しかったんだね


(……そうね)


ここまでは?


(着くまでは)


「下滑りやすそうだから気をつけてね。特に涼子」


「聡美?」


「夜、雨降ってたからね。滑らないようにね涼子」


「夏希?」


「あ、お土産屋さんがあるよ」


「買い物は後よポンコツちゃん」


「ちょっと由季!誰がポンコツなのよ!」


「「「涼子」」」


(監獄として使われてたこともあるからか独特の雰囲気があったの)


怖い感じ?


(冷たい感じかな?)


「あ!ジャンヌダルク発見。はるくんに送るから写真撮って」


「はいはい、撮るわよ〜」


「あれっ?あきちゃん着替えたの?」


「はい?」


(教会から出てきた人達に話しかけられたの)


「あっ!ごめんなさい。人違いでした。それにしても似てるわね〜」


(心臓がドクンと跳ねた)


「すいませんオーナー、買えまし……、お姉ちゃん?」


「秋穂……」


(まさかフランスで会うなんてね)


そうだね。それこそ"運命"だよね


「なつ?ひょっとして妹さん?」


「そうね」


「あらっ!あきちゃんのお姉さん?はじめまして。美容院のオーナーをしてます大友純恋おおともすみれです。はぁ〜、美人姉妹ね」


「あ、妹がお世話になってます。姉の夏希です」


「おねぇちゃん」


「ちょっと」


(突然彼女が抱きついてきたの)


甘えて?


(私のスマホが目的よ)


「ちょっと借りるね」


「秋穂!」


「えっと、あ、やっぱりあった。同じ大学だから連絡先の交換くらいしてると思ったんだ」


「返しなさい!」


「はい。もう用すんだから返す……、なにその指輪?まさか結婚でも決まったの?」


「……そうよ」


「へぇ〜、一応おめでとうって言っておくわ」


「祝福してくれるってわけ?」


「まあ、興味ないけどね」


「そうよね。で、一応確認しておくわ。私のスマホではるくんの連絡先を勝手に見たのね?」


「まあ、そうだね。これ以上春斗を待たせるのもかわいそうだし、そろそろ会いにいこうと思ってね」


「やめなさい」


「はっ?」


「はるくんに連絡するのはやめなさいって言ってるのよ」


「お姉ちゃんには関係ないでしょ」


「関係あるのよ。そもそも秋穂にはるくんに会う資格なんてないよ」


「何言ってるの?春斗は何があっても私を待ってくれてるのよ。お姉ちゃんに何がわかるのよ」


(想像以上だったよ)


自分勝手だね


「秋穂に私の婚約者の何がわかるの?あなたははるくんを裏切ったのよ?どんな理由があったかなんて知らないし知りたくもない」


「あはははは。お姉ちゃん、しばらく会わないうちに頭おかしくなっちゃったんだね。春斗が婚約者?あり得ないでしょ?春斗は小さい頃から私だけを見てくれてたのよ。お姉ちゃんが入り込む隙なんてどこにもないくらいにね」


「あなたがどう思おうと関係ないわ。でもこれ以上はるくんに関わらないで。やっと平穏に暮らせるようになったのに」


「何言ってるの?春斗は私といるのが幸せなのよ?」


「ちょっとなつ、落ち着こう。妹さんも落ち着きなさい」


「由季」


「あきちゃん」


「すみませんオーナー。姉がご迷惑をおかけしました。話は終わったので行きましょうか」


「待ちなさい」


「もう用はないよ」


「はるくんに」


「はっ?」


「はるくんに危害を加えるなら秋穂が相手でも許さない。私ははるくんを守るために戦うから。それだけは覚えておいて」


「あっそ。付き合いきれないから行くわ」


(久しぶりの再会だったのにね)


そうだね


(どんな理由があっても譲れないものがあるの)


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