第11話 モーニング

あなたの手料理は予想以上に美味しかった


(どんな予想をしていたのかは聞かないわ)


そういう意味じゃないんだけどなぁ


『ピンポーン』


「誰?」


(約束してたよね?)


覚えてたよ


寝起きで時間がわからなかったんだよ


(まあ、そういうことにしておいてあげるわ)


「はるくん起きてる?朝ごはん食べて買い物行くよ〜」


ご近所さんに聞こえると勘違いされそうな台詞だね 


(ラブラブなカップルみたいだね)


「おはよう」


「うん、おはようはるくん。もう出れる?」


「まあ、大丈夫」


「そっか、じゃあ行きましょう」


あなたはいつからこんなに強引になったの?


(積極的って言って欲しいな)


「さ、乗って」


(懐かしのFIAT 500ね。初めて買った車だったのよ)


「……不安しかないんだけど」


「大丈夫!無事故無違反の優良ドライバーだから箱舟に乗ったつもりで安心して」


おっちょこちょいのあなたの大丈夫が信用できないよね


(心外ね。ハンドル握ると人が変わるのよ)


その言葉


いい意味で使わないよね


(しっかりするって付け加えればいいのよ)


「はるくん朝食は?」


「食べる前に拉致された」


「うんうん、ナイスタイミング私!ってとこだね」


「はあ」


(呆れてる訳じゃないよね?)


想像に任せるよ。


「着いたよ」


「式部庵?」


「行きつけの喫茶店なんだ。大正浪漫って感じの佇まいで落ち着くの。はるくんこっちきてから喫茶店入った?」


「いや、喫茶店自体こないよ」


オープンカフェみたいなところなら行ったけどね


(男子高校生だとそんなもんなのかな?)


『カランカラン』


「いらっしゃいませ〜ってなつじゃない」


「おはよう由季、空いてる?」


「えっ?デート?ちょっと聞いてない—」


「2人ね。で席空いてる?」


「あ、ごめん。窓側の奥のテーブル席空いてるからどうぞ」


(デート?だって。男女の2人で行くとそう思われるんだよね)


そうだね


(みんな恋愛脳なんだよ)


「はるくん、この辺の喫茶店はだいたいモーニングサービスやってるからドリンクに軽食が付くんだよ。でね、私のオススメがあるからサービスは任せてもらってもいいかな?」


「ドリンクだけ選べばいいの?」


「うん。私はいつもカフェラテにしてるんだ。ここはコーヒー豆の種類も選べるからお好みの味を探すのもいいかもね」


あまり多くても迷っちゃうよね


(だから私はカフェラテなのよ)


なるほど


「決めた。アラビカ種ってのがメジャーらしいからこれにするよ」


「うん、まずは王道からってことね。すみません。オーダーお願いします」


「お任せしました。なつはいつもの?」


「うん、彼はアラビカ種ってやつのホット。モーニングは小倉と生クリームを一つずつお願いね」


「小倉と生クリームね。このチョイス絶対なつが丸め込んだんでしょ?」


「ちょっと店員さん?人聞き悪いよ」


「君も気をつけてね。気を抜くとなつの思う壺だからね」


「ちょっと店員さん、ちゃんと仕事しなさいよ」


本当に仲良しだよね


(そうだね。この子には感謝してるよ)


「じゃあちょっとお皿借りるね」


「はぁ」


「はるくんは初めてだから少しサービスしてっと。はい、小倉トーストの出来上がり。食べてみて」


「トーストに小倉とクリーム乗せただけだよね?」


「それがおいしいのよ。食べてみてよ」


「じゃあ、いただきます」


びっくりしたよ


(騙されたでしょ?)


あなたは意地悪だね


(自覚はあるよ?)


「あれ?おいしい。これはハマるのわかるよ」


「うふふふ。でしょでしょ!はるくんもお気に召したようでうれしいよ」


「しかもこれってサービスなんだよね?お得だね」


「このお店は11時までのサービスだけど、一日中やってるところもあるんだよ」


「もはやモーニングじゃないね」


「だね。コーヒーも飲んでみてね」


あなたは悪戯っ子みたいだったよ


(思った通りの反応してもらえるとうれしいでしょ?)


まあわかるけどね


「あ、ブラックでも飲みやすい」


「はるくんはブラック派なの?」


「いや、いつもは砂糖だけ入れてるけど初めてだしブラックのほうが味が分かるかなって」


「なるほど。小倉トーストにも合う?一応モーニングは飲み物との相性を考えてるらしいよ」


相性バッチリだったよ


(私達みたいだね)


うん?


(そこは2つ返事だよね?)


「あ、合うかも」


「満足してくれてるみたいでよかった。ここは由季、さっきの店員の紹介で知ったの。あの子も同じ大学よ」


「そうよ。よろしくね」


「またサボってるの?ちゃんと働かないとクビになるよ?」


「失礼ね!後ろのテーブル片付けてたら私の名前が出たからきたのよ。これでもチーフなんですからね」


得意げだったよね


(得意げだったね)


「ない胸突き出してないで働こうね」


「なつ、あんた覚えてなさいよ。私より大きいかもしれないけど世間一般からすれば平均以下なんだからね」


こどものケンカみたいだよね


(私の友達がすみませんねぇ)


相手はあなただけどね


「はるくん、紹介しておくね。私と同じ情報文化学部3年の雨宮由季あめみやゆきよ、でこっちが私の幼馴染の古川春斗くん。今更だけどはるくんって何学部?」


「君が噂の幼馴染くんね、雨宮です。なつとはサークルも一緒なの。よければ遊びに来てね」


「古川です」


「甘いね」


この人も天然だよね


(そうだね、天然だね)


(ん??)


似たもの同士だよ


「ん?由季、何が甘いの?」


「古川くんのマスクよ。ちょっとタイプかも」


「由季、そういうのはちょっと—」


「軽く流しなさいよ。古川くんもね。大学で見かけたら声かけてね。お茶でもしようよ」


「はぁ。ありがとうございます」


「じゃ、仕事してくるね」


(オープンと言うか、遠慮がないのよね)


嫌みは感じないんだけどね


困るよね


「騒がしくてごめんね。で、はるくん。さっきの続きだけどはるくんは何学部なの?」


「経済だよ」


「そっか、共通の講義とかもあるからわからないことあれば聞いてね」


「まあ、いまのところはいいよ」


「うん。ね、はるくん。そろそろ出ようか」


「いいよ」


♢♢♢♢♢


「このスーパーはチェーン店なんだけど、水曜日と日曜日に特売やるからご覧の通りなの」


すごい人だかりだよね


(レジ待ちの列で陳列棚塞がっちゃうくらいだもんね)


「夜は揚げ物にしようと思ってるんだけど、はるくんお仕事は何時まで?」


「適当に食べるからいいよ」


「私と一緒じゃ嫌?1人で食べるのも寂しいから一緒に食べて欲しいんだけど」


「あざといよね。わざとやってるでしょ」


「ふふふ、バレたか。でも一緒に食べたいのは本当。終わったら家きてよ、はるくんの好きな豚カツにしようかな?嫌って言ったら玄関の前で座り込みするよ?」


脅すなんてタチ悪いよね


(脅してなんていないよ?お誘いだよ)


「じゃあ帰らない」


「何時?」


「……」


「何時?」


「……21時」


「わかった。お腹空かせて帰ってきてね」


あなたは強引だね


(夫婦みたいでしょ)


いや


(そのはどういう意味かしらね)


「じゃあ、行くよ」


「うん。待ってるね」

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