あなたがいたから

yuzuhiro

第1話 浮気裏切り人間不信

 あれは僕が高校3年生の夏休み


 当時、僕には高校入学から付き合っていた彼女がいたんだ


 (知ってるよ)


 家が隣同士で小さい頃から一緒だった秋穂あきほから告白された時は飛び跳ねるくらい嬉しかったよ


 (ふ〜ん。ちょっとジェラシー)


 でもね。3年生になった頃から彼女は僕を遠ざけるようになってきたんだ


 その日も、デートをドタキャンされた僕は街をブラついていた


 (帰れば良かったのにね)


 今となっては、ね


「珍しく現地集合にしたと思ったらドタキャンってどういうつもりだよ」


 愚痴の一つもつきたくなるもんでしょ


 (まあね)


 せっかく外出したんだからすぐに帰るのも馬鹿らしいと思ったんだよね


 結局、当時話題になっていた映画を1人で観たんだ


 (おひとり様だね)


 映画自体は当たりだったんだよ?


 その後はウィンドーショッピングをしてから帰ることにした。


 最寄り駅の改札を出て、商店街を歩いてると目の前に秋穂がいたんだ


 (うん)


 運命だと思ったよ。その日はもう会えないと思ってたからね


 でも、やっぱり会えない方が良かった


 (どうして?)


 秋穂はね1人じゃなかったんだよ


 その隣には、僕の幼馴染で親友の冬馬とうまがいたんだ

 

 仲睦まじく手を繋いで


 いわゆる恋人繋ぎ


「秋穂! お前、俺との約束ドタキャンしといて何してるんだ」


 突然、僕は追及したよ


 秋穂にね


 でも答えたのは冬馬だった


「春斗か、まあ、この通りだ。お前からすると秋穂がしてたってことになるかな? しかも1年前からな」


 言葉が出なかったよ


 怒りなのか悲しみなのかわからない感情がぐちゃぐちゃになってた


 わかったのは彼女と親友に裏切られた上に無くしたってこと


 (悲しかったね)


 結局、秋穂は一言も話さなかった


 否定も弁解もしなかった


 それが、肯定を意味してたんだ


 その日、どうやって家まで帰ったのかは覚えてないんだ


「春斗、ご飯よ」


 母さんに呼ばれても無視してた


 (おばさん、この時のことすごく覚えてるって)


 だろうね


 僕はこの時まで反抗期らしいことはしてなかったからね


 この夜から僕はひきこもりになった


 両親や妹は心配したよ


 それでも俺は学校にも行かずにずっと部屋に閉じこもっていた


 (夏休みだったもんね)


 そうだったね


 僕と秋穂の関係は学校にも親たちにもオープンだった


 だから両親は秋穂に事情を聞きに行ったらしいんだ


 そしたらね。秋穂は冬馬を呼んで事情を説明させたんだって


「春斗は秋穂と付き合っていながら他の女とも付き合っていたんだ。それを俺達で糾弾したんだ」


 (何それ?)


 秋穂も冬馬も小さい頃からいい子で通ってたからね


 小さい頃から2人を知っていた両親はそれを鵜呑みにしたんだ


 僕が何も言わないから


 (なんですぐに誤解を解かなかったの?)


 両親がね冬馬の話を聞いた後に僕に言ったんだよ


「春斗! あれほど秋穂ちゃんを泣かせるなって言ったでしょ!」


 初めから僕が悪いと思い込んだんだよ


 呆れて何も話す気になんかならないよ


 その時に思った


 「誰も信じるもんか」ってね








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