空に視線を泳がせ、息を整える。

 正直、これで終わりにして、ベッドへ行きたいところだけど、それじゃあやっぱり不公平になる。

 自分のを片づけ、俺はゆっくり上体を起こすと、橘さんのそこを見た。


「俺も、きょうこそくわえる」

「え? いや、いいよ。俺は手で充分」

「なんで」

「じゃあ、ちょっと待ってて。コンドーさん持ってくるから」

「俺も橘さんとおんなじでいいってば」

「佑、大丈夫? ちょっと落ち着こう」


 俺の手をかわすように、橘さんはソファーを立ち上がった。近くのチェストから取ってきたXLの箱をテーブルへ置く。

 俺はすかさずそれを取り上げた。


「橘さんはさ、自分のはデカいから俺には無理だとか思ってんの? それとも、俺のが短小で自分は余裕だから、よいこは真似しないように、とか思ってんの?」

「それは違う。経験値の差だ」

「経験──」


 とても頭にズシンとくる言葉で、俺は二の句が継げなかった。

 経験……。


「真面目に受け取らなくていいから、佑」


 わかってはいるけど、改めて言葉にされると、なんとも言えない感情が沸いてくる。

 性癖も、年齢も、環境も含めて、決して比べられるものじゃないのに。

 俺は、ソファーにようやく腰を下ろした橘さんの腕を掴んで、身を乗り出した。


「こんなこと訊くの、橘さん、ものすごく嫌がるかもしれないけど、やっぱり気になってしょうがないから、訊いてみてもいい?」


 橘さんのまなざしが、一瞬だけ身構えるような感じになる。

 俺は少し怯んでしまって、息とともに言葉も呑みかけたけど、思いきって出すことにした。


「橘さんて、その、いままでどれくらいの人を……抱いてきたの?」


 ──予想以上の長い沈黙。

 直球すぎたかなと、申しわけなく思ったころ、橘さんは口を開いた。


「たぶん、佑が引くくらい」

「え、」

「若気の至りってやつだよ。大学を卒業するころには落ち着いたけど」

「じゃあ、警察官になってからは、だれともつき合ってないの?」

「そうだね。きみが初めてかな」


 橘さんとかっちり目が合った。撃ち抜くような、それこそ真っ直ぐな視線で、べつのどきどきが治まらない。


「そして、こんなに長いこと我慢できてるのも、きみが初めてだ。……いとおしくて、意地悪したくなって、でも自分のことは後回しでいいと思えた」


 橘さんはおもむろに体を寄せてくると、俺をぎゅうと抱き締めた。


「こうやっていられるだけで幸せなんだ」

「橘さん……」

「だから、きみは無理しなくていいの」


 俺は身をよじって、橘さんの腕をほどいた。


「あぶねえ。もう少しで言いくるめられるところだった」

「佑」

「なに。橘さんは、俺にくわえられるの嫌なの? たしかに、満足させられるかどうかはわかんないけどさ」


 俺が詰め寄ると、舌打ちが聞こえた。橘さんはまくし立てるように言う。


「俺ね。さっきもなにげに言ってみたけど、長いこと我慢してるわけ。わかる?」

「わかってるよ。だから、口でしてやるって言ってんの」

「いや、わかってないし」

「わかってる!」


 体が傾く。またさっきのようにソファーに倒され、立てた膝を分けられた。

 太ももを押さえ、橘さんは次に尻を掴んだ。


「あっ」

「俺が我慢してるのは、佑のここに、いつ俺のを突っ込んでやろうかってことだ」


 左の膝を持ち上げられ、腰が少し浮き上がる。ズボンの上から尻の谷間を撫でられた。

 ぞくっと、変な感覚が沸き上がった。

 いままで目にしたことのない、本気で興奮しているような橘さんの表情を見たせいもあるかもしれない。

 俺は一息ついて、唾を飲み込んでから言った。


「それもわかってる。橘さんが……男同士のセックスは、最終的にそこに入れるから、いつかはそうしたいんだろうなって」

「……」

「俺、いろいろ調べたんだ。最後までするにはたくさん準備が必要なことも。カ、カンチョーとか……」


 カンチョーは、絞り出すように言った。

 目を丸くして、橘さんは明らかに絶句していた。俺の手からコンドーさんの箱を取ると、テーブルに置いた。

 もしかしたら、ガツガツいきすぎている俺に引いているのかもしれない。

 でも、橘さんは優しいから、俺がちゃんといいよって言うまで、マジで抱いてくれないと思う。俺も満足して、橘さんもしっかり満足できるようにしたいんだ。


「心の準備は、まだちょっとそこまでできてないけど、口ならいける」

「佑……」


 俺の膝から手をのいて、橘さんは口元を押さえた。


「わかった。わかったから」


 まだ続けようとした俺の口を、橘さんは自分の口で塞ぐ。

 舌を吸われて、言葉も侵された。


「きみの気持ちは充分にわかった」


 そう言って体を起こした橘さんは、ちょっと起ち始めている自分のを出すと、ゴムを被せた。

 橘さんは直でしてたのにと思ったけど、いざとなると、なんかいろいろ大変そうな気がして、そのままですることにした。

 何度かこすってから、俺は顔を近づける。さっき橘さんがしたように、根本から先端へと舌を動かして、先っぽを含んだ。

 口の中がゴムゴムしい味でいっぱいになる。それの頭の部分だけを刺激していたら、そうじゃないと言わんばかりに後頭部を押さえつけられた。

 その勢いで、深くくわえさせられ、えづきそうになった。

 よだれが半端ない。涙もにじむ。気持ちよくさせるのに精一杯で、なりふり構わず口と手を動かした。

 橘さんの吐息に熱い声が混じる。

 それが聞こえると、感じてくれてるんだとわかって、しんどくても苦しくてもなんとか頑張れた。

 橘さんの腰が、俺の奉仕を追従するように、ときにはぬるいと咎めるように上下する。


「佑……いいよ」


 橘さんは一層強く、俺の頭ごと髪を掴むようにして、この喉を突いた。

 深い息づかいが耳元で聞こえる。くわえきれなかった根元が、なにかを合図するかのように俺の手の中で微動した。ただでさえデカいものが一層膨張する。

 橘さんに促され口を離すと、わずか芯の抜けた先端に液体が溜まっているのが見えた。

 それにしてもあごが……。


「佑、大丈夫? ごめん。やっぱりちょっと乱暴してしまった」


 さっきの行動を改めるように、橘さんはこの頭を撫でた。

 俺は鼻をすすりながら首を横に振り、ティッシュを取って、自分の手と橘さんのものをきれいにした。ゴムも取る。


「俺もヤバいくらいよだれがすごくて……なんかごめん。でも、いってくれてよかった」

「佑……」


 橘さんは下半身を整え、大きく息を吐いた。


「きみって、ほんと堪らないな……」


 そう呟いたあと、俺を労うように何度もキスしてくれた。

 そのキスの最中に、興奮する橘さんの姿を思い出して、俺のはまた起ち始めた。ほんとは隠そうと思ったんだけれど、目敏く見つけられて、もう一回いかされた。




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