第26話 「クリスマス?」
「クリスマス?」
季節は冬。
街を歩けばジングルベルが耳に纏わりつく冬。
寒いのを理由に、恋人同士がくっつき放題の…冬。
俺とるーは、二学期の始めに仲直りして以来…まあまあ上手くやっとる。
とは言うてもなあ…
未だ、寒いのを理由にくっつく事もせんと、健全な放課後デートを重ねとる。
けど、バイトのない日の公園デートだけやとなあ…って事で、映画行く約束を入れたものの。
スタジオが入ったり。
レコーディングが入ったり。
もしかして、みんな俺の恋路の邪魔してるんちゃう!?ってタイミングで予定入れられて。
結局…一回も行けてないとゆー。
何回約束したやろ。
で、全部キャンセルした……許せ、るー。
バンドマンの彼女のサガや。
「うん…空いてない?」
久しぶりの放課後デート。
さすがに冬場の公園デートは。って事で、先月からダリアに寄り道するようになった。
ダリアやと、翔さんがニヤニヤするしな~…って思うてたけど。
意外と冷やかされるんも心地ええ。
るーの可愛らしさ、見せびらかしたいしな。
「イヴの日は、ナッキーがバイトしてる店のパーティーでライヴやらなあかんねん。」
「あ…そう。」
あからさまに、るーがガックリうなだれる。
…よう考えたら…
クリスマスは恋人同士の一大イベント。
それに、初めてるーから誘ってくれた。
「次の日ならー…」
「空いてる?」
「ああ。」
「絶対?」
「ああ。」
「じゃ、空けておいてね。」
「わぁった。」
自分の胸元でちっさくガッツポーズ決めるるー。
ははっ…可愛いなあ。
こんなサイコーに可愛い彼女を、俺は…
「いっつも悪いな。約束破って。」
髪の毛かきあげながら、溜息まじりに言う。
「え?仕方ないじゃない。バンドの事なら。」
「……」
じーん。
まさか…るーがこんなにバンドに対して理解ある思わへんかった。
映画の連続キャンセルを、サイコーのプレゼントでチャラにしたい。
プレゼント、何にしよ…?
「どこ行く?」
「え?」
「クリスマス。るーの行きたいとこ、どこでも付き合う。」
「本当?」
「ああ。」
どこ行きたい言うかな。
実は…俺もちゃんとしたデートいうのんは初めてや。
今までクラスの女子が言うてたデートは…
映画にボーリングに遊園地…
遊園地…は…ちっさい時に兄貴達と行って、ちびる寸前の想いをして以来、行った事ない。
「いや、ちょい待って。」
「え?」
「遊園地は…苦手やな。」
「あ…そうなの?」
「うっ…遊園地がえかったんか?」
「んー…でも寒いから、それは春とか。」
「春…」
そう言えば、言わな…
俺ら、春にはアメリカに行ってデビューすんねん。って。
けど、なんとなーく…恋人同士の割には、まだ距離のある俺ら。
それを詰めるのに、デビューの話は今は不要な気がしてて。
言うに言えへん俺がおる。
いや…それも違うなあ…
何で言わへんのやろ。俺。
「何?」
「あ、いや。そやなー、どこ行こかなー。」
それから他愛のない話をして。
るーが急に唇を尖らせて黙りこんだり。
俺の指摘で我に返って赤くなったりするのんが、可愛くて可愛くて。
ずっっっと見てても飽きへんなあって思いながら、放課後デートを終えて。
「じゃ、クリスマス…ダリアに11時ね?」
「ああ。」
るーを家の近くまで送って、手を振る。
そのまま俺はもう一回表通りに戻った。
プレゼント、行く場所で何かお揃い買うたりするんもええかなあって思うてたけど…
やっぱ前もって何か用意した方がええよな。
今までの彼女へのプレゼントって…あー、俺クリスマスに彼女おった事ないな。
頭をガシガシ掻いてると。
「マノン?」
ダリアから、晋が出て来た。
「あ?晋、ダリアにおったんか。」
「うん。つっても、店やなくて家の方。」
「家の方?」
「ダチの家。」
聞けば…るーの男友達でもある、あの男は。
翔さんの弟らしい。
「そしたらDeep Redのチケットなんて、翔さんから手に入るのにな。」
「そー。誠司、律儀やからな~。いっつも音楽屋行って予約する言うてた。」
そんな会話をしながら、晋と肩を並べて歩く。
「それはそうと、るーとクリスマスに会うたれよ?」
突然、晋から放たれた『クリスマス』のワードに。
俺は…
「プレゼント、何がええ思う?」
晋に聞いてもな~…思いながらも問いかけた。
「そら、指輪がええんちゃう?」
「えっ。」
晋が即答した事にも驚いたが…
指輪、って聞いて、それや!!って思った自分にも驚いた。
「指輪や重たいかな…いや、けど『おまえは俺のもんや』って宣言みたいでええんやない?」
「……」
おまえは俺のもんや。
お…おお…ええな…
「よし。そうする。サンキュ。」
「今から買いに?」
「一人で行く。」
「えー!!俺も行きたい!!」
「おまえ、るーに言いそうやん。」
「言わへんって!!」
結局、その後…晋はうちに寄って、一緒にギターの練習をした。
日野原に歌の上手い奴がいて、即バンドを組んだ、て。
晋はきっともっと上達する。
メンバーに恵まれさえすれば、こいつもデビューは夢やない思う。
日本のハードロックシーンに受け入れられるかどうかは謎やけどな…
「…なんや、また帰って来たんか。」
晋が帰るのと入れ違いに、マリが帰って来た。
一度は出て行ったものの、しょっちゅうこうしてマンションに戻って来るマリ。
まあ、出て行った…言うても、マリの荷物、元々少ないけど…まだ置いたままやしな…
ナッキーはマリが来てるのを何で察知するんか、おかしいぐらい、マリが来る日には帰らへん。
「何よ…その言い方…」
俺の腕に甘えるマリ。
肩に手を掛けようとして、その肩が震えてる事に気付く。
「…あたしだって…ここに来たくない…惨めになるだけだもん…」
「惨めって…」
「ナッキーは、もうあたしには戻らないって…分かってる。分かってるけど…どうしてこうなったの?楽しくやってたのに…あたし、Deep Redの事…真剣に応援してたのに…」
「………」
手首に、うっすらとためらい傷みたいなもんを見付けた俺は、マリをギュッと抱きしめる。
「…もうやめとけや…」
手首に触りながら言う。
「…あたしなんて…誰からも必要とされてないのよね…」
「……」
寂しいマリ。
弱いマリ。
別に必要とされんでもええやん。
そう言うてやりたい気もするけど、マリの孤独は俺には計り知れん。
「マノン…」
るーとマリは違う。て。
強く強く言い聞かせながら。
俺は、マリの肩に顔を埋めた。
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