いつか出逢ったあなた48th

ヒカリ

第1話 「のいちゃん、だっこ。」

「のいちゃん、だっこ。」


「あ、はいはい。」


 リクエストに応えて、がっくんを抱っこする。


「がっくんは乃梨子姉の事、大好きなのね。」


 サクちゃんがそう言いながら、妹の華月ちゃんの髪の毛をまとめる。


「僕だって、乃梨子のりこ姉の事、大好きだよ?」


 ノン君が隣に座って膝を抱えた。


「僕もー。」


 反対側に…きよし君が同じようにして座って。

 あたしは…男の子達に囲まれている。



「あたしも好き。」


 普段無口な華月ちゃんまでがそう言ってくれて…ちょっと感激だけど…


 この、環境…。



 あたし、桐生院乃梨子は…桐生院家に嫁いできて、一年。

 去年、24歳で…桜花の同級生だった桐生院 ちかし君と…結婚。

 それまで働いてた広告代理店で働き続けようと…してたんだけど…



「ただいま戻りましたよ。」


「あっ!!大ばーちゃん!!」


「大ばーちゃーん!!」


 その声が聞こえた途端。

 あたしの膝にいるがっくんと、向かい側にいる華月ちゃん以外は…玄関に走って行ってしまった。


「……」


 ふと目をやると、がっくんがあたしを見上げてる。


「…がっくんも行く?」


 首を傾げて問いかけると。


「のいちゃんいくなら、いくよ~?」


 がっくん…天使みたいな笑顔だ…


「華月ちゃんは?」


「……」


 あたしの問いかけに、華月ちゃんは無言で首を横に振った。


「…じゃあ…ここで三人で待っていようか。」


「うん。」


 三歳のがっくんは、同じ歳の他の子達に比べると小さいみたいで。

 体もあまり強くないのか、走るとすぐ疲れちゃうみたい。

 ついつい…贔屓しちゃう。



「乃梨子さん、ただいま。」


「おかえりなさい…」


 着物姿のこの人は…誓君の、おばあさま。

 桐生院雅乃さん。

 華道の先生だ。



 後を継いだ誓君は、生け花はもちろん…フラワーアレンジメントも手掛けていて、毎日あちこちの教室や講演に引っ張りだこ。


 …だからあたしは。


 仕事を辞めて、誓君のサポートをするために…専業主婦になった。


 …ならされた…かな。



「大ばーちゃん、乃梨子姉がね、美味しいホットケーキ作ってくれたの。」


 目をキラキラさせて言ってくれてるのは…誓君の姪っ子、サクちゃん…九歳。

 すごくしっかりしてて、いつも笑顔で…

 とにかく明るい。

 見習いたいぐらい…いい子。



「咲華、二枚ペロリだったんだよ?」


 そのサクちゃんと双子のノン君は…これまたいい子なんだけど…


「ねえ、大ばーちゃん。ばーちゃんはいつ帰って来る?」


 そう。

 ノン君は…『超おばあちゃん子』だ。


 誓君のお母さんの事が大好き。



「華月、いい子にしてた?」


 おばあさまが頭を撫でてるのは…サクちゃんとノン君の妹、華月ちゃん…六歳。

 すごくクールで、あまりニコリともしないんだけど…

 だからこそ、たまに見せる笑顔が…たまらなく可愛い。



「聖も、乃梨子さんの言う事、ちゃんと聞いてましたか?」


 続いて、おばあさまが頭を撫でたのは…聖君。

 華月ちゃんと同じ六歳だけど…あたしの義弟だ。

 誓君と聖君は、19歳差の兄弟。


 …ややこしい。

 ややこし過ぎる。



 さらに、あたしに抱っこされたままの『がっくん』こと…二階堂 学君は。

 誓君の双子の姉、麗ちゃんの…息子。


 がっくんには、紅美ちゃんていう四歳のお姉ちゃんがいるんだけど…

 その紅美ちゃんは、二階堂本家の道場とやらに行っていて。

 あまり…ここには来ない。



 働いていたかったあたしは、専業主婦になった。

 だけど、この家には誓君のおばあさま、お母さま、お姉さまがいらして。

 しかもお母さまとお姉さまは、ふわっとした見た目に反して、家事がソツない。

 段取りよく、テキパキと物事をこなされて…


 あたしなんて…ほとんどする事がない。



「のいちゃん、おちゃちゃ、のむ?」


「ふふっ。がっくんが飲みたいんでしょー。一緒に飲もうか。」


「いっしょにのむー。」



 あたしがしてるのは…ほぼ、子守りのみ。

 可愛くて素直な子供達。

 ここは…楽園だ…



 って、思うと同時に…



 あたしにとっては…






 地獄だ。

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